やり直すのはもう飽き飽きです。
あきなしあき
第1話 緋山春喜という男。
緋山春喜という男は、とある大罪を犯した犯罪者だ。彼がいた世界では犯罪者は「カミサマ」と呼ばれる人物によって刑の内容が決められ、それを転送された世界でクリアした者だけが再び自由な生活に戻れるのだ。刑の内容は様々で、「人を食うドラゴンを退治しろ」とか、「街を震撼させる殺人鬼を捕まえろ」とか、「希少な宝石を見つけてこい」とか、とにかく挙げ出したらキリがない。
ちなみに、彼に与えられた刑は「椎名茜という女を高校卒業するまで死なせず守り抜くこと」。
最初聞いた時は余裕だと思っていた。彼が飛ばされた世界は戦争真っ只中という事もなく、女もどこかの王族だとか金持ちの令嬢とかでもない、普通の一般人だ。彼はすぐにターゲットの女を見つけて、徐々に距離を縮めていき、幼稚園、小学校、中学、高校と、同じ学校、同じクラスを死守してきた。そしてついに、彼女の唯一無二の幼馴染ポジションの座についた。これで普段からそばにいても不自然じゃないし、何かあった時には守ることができる。
だが、椎名茜という女をずっと観察していてわかったことがある。それは、壊滅的なまでの不幸体質だということ。加えてお人よしでポンコツだ。
小さい頃から何もないところでよく転び、目を離すと誘拐されかけ、自転車に乗ればブレーキが壊れていたり、遠足の時は誰かが落としたおにぎりを追いかけて危うく崖から落ちそうになったりと、もはや呪われてるんじゃないかというくらいすぐ死にそうになる。
だが、そんなのは今思えばまだ序の口。
高校に入って2ヶ月。椎名茜は学校の中でも外でも関係なく「死」にまとわりつかれている。
信号待ちをしていたら飲酒運転の車に轢かれそうになるし、駅の階段を登っていたら反対側から降りてきたサラーリマンにぶつかって危うく階段から転げ落ちそうになった。それを毎回助けるこっちの身にもなってほしい。
「はあー…あっぶな」
「今回もナイス反射神経」
「突き落とすぞバカ女」
「ごめんって」
毎日毎日どこかしらで死にそうになっているのに、この女はこうやってヘラヘラ笑っている。なんでこうも楽観的なのか甚だ疑問ではあるが、きっとこいつには一般人が感じるような恐怖心とかないんだろう。
「お前毎回死にそうになってるのになんで笑ってられんの」
「え、だってハルが助けてくれるじゃん」
さっきまで階段から落ちそうになっていたのに、もう何事もなかったかのようにホームで電車待ちをしているこいつの返答に、俺は大きくため息をついた。呆れてものも言えない。というか、こいつは俺の刑期が終わったらどうなるんだろう。俺がいなくなった途端死にそうだな、しかもこいつの事だ、猫を助けるために道路に飛び出して車に轢かれるとか、知らない奴にホイホイ着いて行った挙句誘拐されて殺されるとか。どうせそんなオチだろう。
「え、なに?」
「…なんも」
「嘘だあ、顔にしっかり書いてるよ、バカだなこいつ、−−−え」
「!!アカネッ!!!」
気を付けていた。気を付けていたはずなのに。電車がホームに近づいてきたのを見て、少し油断していたんだろう。
ぐちゃっ。
誰かに突き飛ばされるような形で、椎名茜はホームに落ち、滑り込んできた電車にそのまま轢かれてしまった。一瞬の出来事だった。飛び散る血肉と、周りから聞こえる悲鳴。俺は伸ばされたあいつの手を取ることができなかった。
「くそ、また“やりなおし”か」
そこで俺の意識は暗転した。
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