最終話 After 24

 左薬指にて草臥くたびれるプラチナの指輪、裏には2000.10.13の刻印。今日は2024.01.10 24年目、そして俺は今年で50を迎える。

 人生の凡そ半分を彼女と過ごしたことになる。


 この半生の間、世辞にも良き夫とは到底言い難いし、裕福な生活を与えれたとも言えやしない。


 後の義父さんになってくれた人との初対面は何事もなく終えた。


「借金が残っていますが整理して必ず雪香さんを幸せにします」


 正直声も身体も震えていた俺であったが、笑顔と握手で快諾してくれた。

 俺の実家は西に1500km離れている。おいそれとは帰れない場所。

 だから近くに心許せる実家が出来た幸せを噛み締めた。


 そして春が終わり蝉が賑やかに泣き始める頃、俺達二人は遂に同棲を始めた。

 少々旧いが平屋の貸家だ、二人だけだと部屋が余る程に広い。


「一人位増えても平気だな、ゼ〇シィ飛び越え、たま〇よになるぜ」


 例の友人のニヤニヤが止まらない。


 さらに夏真っ盛りの8月、二人で車を運転しつつ1500kmを走破した。

 この時も色々な大変さと、最愛の人と本土最南端の潮風を感じた夢心地があるのだが、これを書くと話が終結しないのでやめておく。


 一つだけ恥を忍んで言うのであれば、俺は1週間すら

 約1ヶ月後、恐らくこれがきっかけで、またも俺は飛び級をした事を知る。


 涙混じりに「産みたい…」と嬉しいことを告げてくれた雪香。


 婚約すらも飛び級してしまった。とびっきりの幸せと、腹を括らねばならぬタイミングが同刻に訪れた。


 それからさらに1ヶ月、ロマンスの欠片もない結婚記念日を決める。決め手となったのは「今日中の提出なら来月から結婚手当支給が出来る」と会社の事務から聞いた一言。

 寄りにもよって13日のFridayだが、貧乏な自分には選択の余地すらなかった。


 彼女は悪阻つわりが大変酷く水分すら摂取困難となったので緊急入院。見舞いに行くと家にいるより落ち着いていた。


 悪阻が酷い女性に取っては普段の生活臭……即ち夫の匂いが辛いこともあると医者から告げられ実に寂しい思いに駆られた。

 幸せの結晶を天から授かったことを手放しに感謝すべきなのに俺はガキだったと思い知る。


 でも立ち合いで出産を迎えた時には、もう訳も判らぬ程ただただ子供の様に泣いた。


 そしてさらに約1年半後の12月初旬。俺はまたもや子供のように泣きじゃくることとなった。


 婚約した翌年には長女、さらに翌年には次女を迎えるという本当にせっかちを絵に描いた4人家族はこうして成った。


 その後、色々在りはしたが俺が犯したことに比べれば娘二人は実に優秀であり、学費が圧倒的に安い通信制の芸大に進学。

 信じられない程、優秀な成績で在学中である。妻といい娘といい何とも出来の良い家族を授かり感謝してもし切れない。


 此処まで随分と駆け足であった。これから互いの終点ゴール迄は穏やかに歩んでゆきたいと切に願う。

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四半世紀前の馴れ初め噺 事実は小説より奇なり!? チャットで知ったあの子はまさに理想だった? 🗡🐺狼駄(ろうだ)@ともあき @Wolf_kk

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