第6話 二度目のチャンスと飛び級で登った階段

 初デートでの帰宅途中、まさかの添い遂げたいという想いを、増してや女性の方から引き出してしまった。

 それに対する俺の返答は全く的外れも甚だしい酷いものであった。


「ありがとう、そんなにも喜んでくれて本当に嬉しいよ……」

「………」


 これでも運転への意識を外さぬまま、最大限の応答を探した結果である。デートが終わる、寂しい、だから一緒に居たい……そういう愛情表現だと勘違いしたのだ。

 後は暗闇と化してしまった外房の海を右手に見ながら淡々とハンドルを握り、アクセルを踏む。

 GW渋滞も終わりを迎え、自然と速度を上げてしまったので、雪香さんの住む街への標識看板のkmが次々と小さくなってゆく。


「嗚呼、もう貴女の街に着いてしまうな……本当に寂しいね」

「そうでしょう? だからさっき私は言ったの、一緒に暮らしたいって……」

「えっ!?」


 間もなくバイバイする寂しさを俺は自然と口にした。そこに再びチャンスが巡って来た。先程よりも切実な彼女の声にようやく俺も真意に気づいたのだ。


 ――一緒に暮らす、この俺と?


「き、君が本気で望むのなら喜んで。俺も一緒に暮らしたい。さっきはゴメン。俺、それ程に今日のデートが楽しかったから寂しいと言っているのと勘違いしたよ」

「良かった……分かってくれて……」


 この時の「一緒に暮らす」が同棲なのか、或いは結婚なのか、実のところ未だに迷っている俺がいるのだが、はとても喜んでくれた。

 何と俺達は初デートで共に暮らすことを誓い合ったのである。


 そしてもうと呼んで差支えのない存在のアパートの前に辿り着いた。周囲は暗く人通りも殆どない。

 俺はどうしても我慢し切れないことがあり、それを切り出すことに少々手間取った。


「あのさ……」

「んっ?」

「俺………キス、したい。今、此処で」

「良いよ、私もそう思ってた」


 そして俺達は車内で深い……所謂いわゆる大人のキスを幾度も交わした。後で当人から聞いたのだが、俺の方から仕掛けてきたからそれに応じたらしい。

 俺にしてみれば彼女のリードに驚き、心を込めて返したつもりであったのだ。


「じゃあ、またね!」

「あ、う、うん、また……」


 再会の言葉を笑顔で告げた雪香がアパートの扉に吸い込まれてゆくのを見届けた後、俺はやらしくも口に残った感触と、心を揺さぶられた想いに暫くボーッとしてしまった。

 その後、どうやって自分の家に辿り着いたのか良く覚えていない。家に帰って落ち着いてからふと思う。


 ――いっそのこと、あのまままで進んでも良かったんじゃなかろうか。


 いやいや、もう何も慌てることはない。俺達二人は、また会おうじゃなくて、一緒になろうと誓ったのだから。

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