第5話 冴えない男の大きな過ち
夢心地の出会いから、もう正直味なんか覚えていないカレーを食べ(ぶっちゃけ友人が作った分の方が美味かったことは覚えてる)、雪香さんに無様な姿を晒してしまった様々なことが巡った初めましてがとにかく終わった。
本当に大変みっともなかったのだけど、そんな姿を見せてなおも尽くしてれて「5月3日も宜しくね……あと、とにかく気をつけて帰って下さい」と言って貰えたので心底救われた想いだった。
………って初見でいきなり自宅の場所を知ったんだけど、こんなにも順調過ぎて良いものなのか?
そしてあっという間に5月3日の朝を迎えた。今日は房総半島を一周するのだからとにかく早起き。風邪はどうやら治ったらしくホッとした。
お洒落な服? そんな贅沢なものは残念だが持ち合わせていない。清潔感と普段着だけで臨むだけだ。
千葉市から2時間かけて雪香さんのアパートまで迎えにゆく。おっと今日は、スカートにブラウン色の麦わら帽子だ。
「今日は一日中天気が良さそうだから、良かったらこれ外しても良いかな?」
「あ、車の屋根? 気持ち良さそう……」
既に花見の話で言っているが、俺の愛車はオープンカーだ。しかも四輪駆動車だから他の車より視線が高い。これで屋根を外して女性を隣に乗せ、GW渋滞に溢れかえった千葉の海沿いをひたすら南へ。恐らく充実度合いが目立って仕方がなかろう。
――こんなに嬉しいことはない……。心の中で呟いてしまう。
それにしてもとにかく渋滞、渋滞、車の連なりがひたすら続く。けれども本日だけは、これが夢見心地なほどにありがたい。
何せ隣でずっと笑顔を見せる雪香さんに横目を流しても、全く以って問題ないのだから。
正直景色をまるで覚えていないのだ、これなら何処へ向かおうが幸せなのではあるまいか?
だけどデートコースのチェックはしてある、まずは南房総フラワーラインだ。もっともこの街道に咲く菜の花は2月頃が見頃なので、後に残るは種ばかり。
そんなものはどうでも良くて、房総南端に広がる青い海を一緒に見ながらゆっくりゆっくり道中を往く。
潮風、波の音、道路の凹凸すらも全てが心地良い。こんなにも幸せなドライブを俺は知らなかった。
そして目指すフラワーパークへ何事もなく辿り着いた。菜の花にこそフラれはしたが、ポピーが見頃を迎えており、他にも色取り豊かな花畑が俺達二人を出迎える。
一緒に花を摘みながら、俺は違う華の写真を撮るのに夢中だ。フラワーパークの花達が、雪香さんという華をより際立たせた。
次に向かった場所は、フラワーパークの裏手にある喫茶店だ。ログハウス風の建物と、とても素敵な老夫婦、それに愛らしい白い子猫が出迎えてくれた。
雪香さんは、大がつくほどの珈琲好きだから喫茶店は絶対に外せやしない。店の雰囲気のみならず、肝心の珈琲にも満足してくれたようで俺も嬉しかった。
ただ流石にGW中の房総半島を一周するのには早起きしても足らなかった。「寒くならないうちに……」と車の屋根を元に戻して外房を北上する頃には、既に夕暮れ……黄昏時を迎えていた。
もう此処から、ただひたすらに雪香さんのアパートに向かう帰路となってしまう。陽が暮れた途端、寂しい……そんな気分が頭をよぎる。
「もう、後は帰るだけだね……ちょっと寂しいな。あの……」
「んっ?」
「帰りたくない、こんなにも幸せなら、もうずっとこのまま一緒に居たい……」
「え………」
これは初デートなのである、だからまさかこんな言葉が聴けるなんて思いもよらなかった。
その信じ難い告白に俺の鈍い頭は、ついていけなかった。何と此処で答えを誤るのである。
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