第37話
「私は単独でやらせてもらうから、君もひとりでやるんだよ。いいね?」
「………はい」
渋々僕そう言った。だって、僕が「一緒に戦いたい!」と言っても、同じことの繰り返しになるような気がした。
ううん、『気がした』じゃなくて絶対だね。
そんな訳で僕たちは、エンシェントドラゴンの巣がある、【リオール峡谷】にて討伐対象であるエンシェントドラゴン10体を見下ろしながら、そんな会話をしていた。
初のSSランククエストだ……それを半分ずつこなすとなると、実質一人で5体倒す必要がある……中々骨が折れるね……これは。
だけど……。
「ユキナさん、どうする? 10体とも密集してるから、5体ずつにわけられない……何か上手く分断する方法はないかな?」
ここままでは、ユキナさんのご所望通り単独行動はできなく、逆にユキナさんが嫌っている共闘をすることになる。
まぁ僕は、そっちの方がいいんだけどね?
そう思っていると―――。
「……あれ?」
崖の上に立っていた自分の体が、崖の下へと落下していく。
まさか……ウソでしょぉおおおおお!!
「―――ユキナさぁあああああああん!!」
崖の上にいるユキナさんに手を伸ばしながら必死に名前を叫ぶと、ユキナさんは手をメガホンの形にして「まずは君一人で体力を消耗させて、あとは私が全て好いところ取るするから任せた」と僕に向かって感情の乏しい顔と声で言った。
本当に僕は一人で、エンシェントドラゴンを全て相手にするのか……!?
そんな無茶な……!?
でも、もう落とされてしまったから、やれるところまでやるしかない……!!
それに、いざとなったらユキナさんが助けてくれるはずだ……。
はず……だよね? 助けてくれるよね? 僕、信じてるからね?
しかし、頭の片隅ではユキナさんを信じられずにいた。
ううん。多分、ユキナさんなら僕のこと放置して見殺しにするかもしれない。
そして、心が痛むことなく普通にクエストクリアして、何事もなかったように普通に報告しそう。
『リーユなら、普通に死んだよ』って……。
「悲しい……!!」
僕は泣き笑いしながら、体を捻らせて頭を上に持っていき着地をする。
「「「ギャァアアアアアアアアアアアッ!!!」」」
「やるしかないか……」
エンシェントドラゴンが僕に気づき咆哮を上げ、僕は至って冷静に剣を取り出して呟いた。
すると、エンシェントドラゴン達の喉元が赤く光る……≪ドラゴンブレス≫を放つ準備をしていた。
あの魔力量の感じだと……やっぱりエルメダには遠く及ばないくらい弱いね……あのトカゲさん達。
エルメダのなんて、もっと半端なかったもん。
というか、エルザがいなかったと思うと……考えるだけでゾワッとする。
「やめようやめよう……今は討伐に集中しないと」
僕は≪身体強化魔法≫を発動して、崖の壁を使って上空にいるエンシェントドラゴンに向かって剣を振り下ろす。
「ヤァアッ!!」
刃は首元に命中したが、切断には至らず浅く刃が入るだけだった。
「流石に身体強化だけじゃダメか……なら! ≪
そう唱えると、刃に黒炎が纏うのだか……僕は疑問……というか違和感を覚えていた。
うーん……確か本物の≪
だけど……まぁいっか! 首を斬り落とせればいいんだし。
「ハァァアアアッ!!」
一気に僕は魔力を込めると、黒炎が激しく燃え上がり、やがて首の肉が焼け溶けていって大きな頭部が地面に落ちる。
「よし! まずは一体!」
でも、あと9体いるのか……。
僕は頭の無くなったエンシェントドラゴンの体を踏み台に、次のエンシェントドラゴンに突撃して先と同じ要領で二体目も倒す。
「二体目! 残りは―――えっ?」
二体目の落ちる頭部を眺めてから顔を上げると、他八体のエンシェントドラゴンがいなかった。
「一体、どこに……!?」
僕は首をブンブンと振り回し、焦りながら回りを見渡す。
すると、背後からエンシェントドラゴンの咆哮が聞こえたので振り返ると、エンシェントドラゴンたちはユキナさんに向かっていた。
「助けなきゃ……!!」
僕はユキナさんのいる所まで、急いで駆け出した。
その途中、僕に疑問が浮かんだ。
あれ? どうして僕はユキナさんの所に向かおうとしてるの?
だってユキナさんは、SSランク冒険者でこの世界で最強の人、僕が助けに行かなくても自分で何とかできる……必要ない。
でもどうして僕は……助けようとしてるんだろう。
おかしい……自分でも分かってる……。
だけど―――。
「うぉおおおおおおッ!!」
それがどうした……。強いから助ける必要が無い……違うね!!
例え助ける人が自分より強い人だろうと関係ない!! 助けるんだ!!
人間はそう簡単に見捨てられないんだよ……今の僕がその証明だ。
だから無意識の内に体が動いて、助けようとしている……。
本能……というのかな? こういうことを……。
そして理屈じゃないってことも……。
エンシェントドラゴン達が一斉に、肉を引き裂くだめだけに作られたかのような強靭な爪で、ユキナさんを殺そうとする。
間に合え……!!
「―――お姉ちゃぁああああああん!!!」
何故かお姉ちゃんと叫んでしまった僕は、ユキナさんとエンシェントドラゴンの爪の間に飛び込み、ユキナさんを守るように抱きしめ共に倒れる。
しかし―――。
「うっ……!!」
やっぱり、ギリギリダメだったか……。
僕の背中に激痛が走る。勿論、エンシェントドラゴンの爪で裂かれたからだ。
その傷から血が流れる。見てみると、そこにはかなりの量の血があった。
どうやら、僕が思ってるよりも深く裂かれたようだ。
でも、視線をユキナさんに向けると、怪我を負った様子は無く、服が土で汚れていただけだった。
「よかった……怪我が無くて……」
ユキナさんの無事な姿を見て安心した僕は、そのままバタッと気絶した。
◆
「全く……助けなんかいらないのに。服が汚れた」
パチンッ。
ユキナが指パッチンをすると、エンシェントドラゴンの体が膨れ上がって爆発し、血の雨が降り注いだ。
ユキナはその血の雨を、魔力障壁で自身とリーユに浴びせないように防ぐ。
そしてユキナは、安心しきった笑みで気絶するリーユの頭を自身の膝の上に乗せた。
膝枕だ。
「私の方が強いのに、どうしてこっちに来たのかな? 私に任せればいいのに……でも」
そう言ってユキナは、人生で初めての笑顔になった。
その顔は、どこか不気味で虚ろだった。
「お姉ちゃん……か。確か前に、私と姉弟みたいになりたいって言ってたけど、まさかこんな時に呼ばれるなんて……でも、悪くない―――そうだ」
ユキナはリーユをお姫様抱っこして、≪浄化魔法≫で自分たちの体に付いた汚れを取り除き、続いて≪転移魔法≫を発動させる。
転移した先は、空の上に浮かぶ氷の城の一室で、そこはユキナの自室だった。
そしてユキナは、自分のベッドにリーユを寝かせると、靴や冒険者服を脱がして下着姿にしてから、布団の中に入れる。
「さて、私も脱ぐか」
ユキナもまた、リーユと同じく下着姿になって布団の中に入る。
続いてユキナは、腕枕をして耳元に囁き始める。
「私は君のお姉ちゃん、君は私のたった一人の弟。二人っきりの家族。弟はお姉ちゃんを身を挺して守って、お姉ちゃんも身を挺して君を守る……これ約束。お姉ちゃんの言うことは絶対。逆らっちゃダメ。私を一人にしちゃダメ。だから、ずーっと永遠に」
―――私と一緒。
その呪いのような、洗脳のような囁きは、どこまでも続くのだった。
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