第36話
ユキナさんは、この世界でたった数人しかいないSSランク冒険者の一人なんだけど……それだけじゃない。
何と……主人公の師匠であり一番最後になる仲間なんだ!
しかも、主人公よりも……ハッキリいって強い……つまり実質、この世界で一番強い……ということだ。
そのため、僕も良くパーティーメンバーには絶対に入れたり、先陣を切らせたりしてお世話になってたんだよね!
ユキナさんを使って、敵を倒しまくって無双していたな……。
だから、スッゴく大好きなんだよね! ユキナさんのこと!
むちゃ強くて、カッコイイから!
まさか、物語が始まる前に会えるなんて思わなかったし、こんな間近で……感動だ。
それにもしかしたら、一緒に冒険できるかもしれない……そうなったら……。
「―――そろそろ私、ギルドの中に入りたいんだけど。用はもう済んだ」
ユキナさんとの冒険を想像しワクワクしていると、冷たい声が頭上から聞こえ意識が現実へと戻る。
「ご、ごめんなさい! あ、あの僕と―――」
パーティーを組んでくれませんか、と言う前にユキナさんは扉を開けて中に入っていた。
「あぁー! ちょっと待ってよ、ユキナさん!」
慌ててギルドの中に入ると、妙な緊張感があった。
おそらく、SSランク冒険者という絶対的な憧れ……いや、畏怖の念が、無意識の内にみんなが勝手にこの緊張を生み出しているのだろう。
「お久しぶりです、ユキナ様。ニ、三年ぐらいでしょうか? ここに来るのは……」
「えぇ、確かにそれくらいぶり……。それより、私に依頼があるって聞いた。教えて」
「あっ! そうでしたね! こちらになります」
受付では、ユキナさんとルナお姉さんが普通にお喋りしていて、その途中ユキナさんが本題のクエストについて訊くと、ルナお姉さんは受付カウンターの上に一枚の依頼書をユキナさんに渡した。
「……エンシェントドラゴン10体の討伐……面倒くさい……。けど、わかった……受ける」
「ありがとうございます、ユキナ様」
「―――僕も一緒にそのクエスト受けたい! だから、僕とパーティーを組んでユキナさん!」
ダッシュで駆けつけながら、僕は二人に向かってそう言った。
「リーユ君……」
「イヤ。何で君みたいな子どもとパーティーを組まなきゃいけない。足手まといにしかならない」
「ならないもん!」
むぅ~、と僕はほっぺを膨らませてユキナさんを見つめると、ユキナさんは、ふんっ、と顔を逸らした。
「ユキナ様、リーユ様は子どもですが実力は確かです。それに現在、リーユ様はソロなので、同じくソロであるユキナ様も共闘する良い機会なので、リーユ様とパーティーを組んでみてはいかがでしょう?」
「わぁ~~~!! ありがとう、ルナお姉さん!!」
まさか、ルナお姉さんが乗っかってくると思わなかった僕は笑顔でお礼を言うと、ルナお姉さんは、いえいえ、と微笑み返した。
「ルナ……はぁ、仕方ない。君が本当に足手まといじゃないか、この目で確かめさせてもらうよ」
「えっ! ということは……!!」
僕が期待した眼差しをユキナさんに向けると、こくりと首を縦に振って肯定の意を示した。
「私とパーティーを組む。ルナがそこまで言うんだから、少し興味を持った。期待外れだったら承知しないから。いいね?」
「やったー! ありがとう、ユキナさん!」
僕は認めてもらったと思い、ユキナさんの手を取って握手をしたんだけど……そっと握手を抜け出された。
「えー! 仲間になったんだから、握手しようよー!」
「絶対にイヤ。私、子どもが嫌い。だから、君のことも嫌い。握手なんかしたくない」
徹底的に嫌いと言われて涙が零れ落ちそうになるけど……ユキナさんのラップみたいに韻を踏んでるから、悲しさと涙がどっかに飛んでしまった。
「ユキナ様……言い過ぎですよ……」
「別に……私の勝手でしょ……」
何だが二人の間の空気がスゴく悪い……気まずいんだけど……。
「る、ルナお姉さん! 新規パーティーの手続きをしたいから! ねっ!」
この空気に耐えられず、無理やり明るくしてそう促すと、ルナお姉さんはハッと、そうですね、と言って新規パーティーの手続きをする一枚の紙を受付カウンターの上に乗せた。
そして僕とユキナさんは、その紙に名前を記入した。勿論、僕はルナお姉さんに抱っこされながらね。
……が。
「ユキナさん? パーティー名どうする?」
「君が勝手に決めて。面倒くさい」
全部僕に丸投げか。確かにゲームをしてた時もこんな感じだったな……戦闘特化で戦闘以外の面倒事は全て他の人が処理する、最強だけど何処か抜けてるお姉さん。
それが、ユキナさんだ。
うーん……でもどうしよっかな……そうだ!
ピカンッ、と僕は閃いた。
「これなんかどうかな?」
僕か思い付いたパーティー名を紙に書き記す。
それをユキナさんとルナお姉さんが覗き見て口を開く。
「「究極アルティメット超人無敵ブラザーズ……?」」
そう言って、なにこれと言っているかのような、ぽかんとする二人。
「どう! カッコ良くない!」
「か、かっこいい……とは思いますが……どうして、ブラザーズなのですか? リーユ様にはすでにエルメダ様というご姉弟が……」
二人にカッコイイと言わせようと思って訊いたんだけど、返って来たのはルナお姉さんの疑問だった。
僕はそれに、「確かにその通りだけど……」と言ってから理由を話す。
「僕……ユキナさんと仲良くなりたい……。それこそ、姉弟のように……だから、そうなれるように願いを込めて『ブラザーズ』って付けたんだ……イヤかな? ユキナさん……」
おそるおそるユキナさんの顔を見てみると、キツイ顔だから怒っているように見えるけど……僅かに悲しさがあった。
「ユキナ……さん?」
「もういい、それで。手続きは済んだんだし、さっさと行くよ」
素早くルナお姉さんから僕を引っ剥がして、手を繋いでギルドを出ようとする。
「あわわわ……」
「お気をつけてー! ご武運をー!」
ルナお姉さんの歩く速度が速くて足がもつれていると、後ろからそうルナお姉さんに見送りの言葉が掛けられた。
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