第35話

 10歳になって、それからも二人のお姉さんと共に【疾風の花園】の一人として活動を続けた。


 そして僕たちは、クエストをクリアしたことを報告して、ギルド内にあるスペースにて談笑をしていた。


 すると不意に、アリシアお姉さんから、こんなことが伝えられた。


「あのですね……リーユ君。実は私たち、次の国へ旅に向かおうと思っているのです」


「えっ? それじゃあ……」


「うん……この国を出ることになるね」


「そう、なんだ………」


 一年間も一緒にいると、ずっと一緒にいることが当たり前だと思っていた。


 しかし、お姉さんたちは冒険者であり、世界を巡る旅人でもある。


 僕はそのことを失念していた……。


 別れを……考えていなかった。


 僕が俯き考えていると、「リーユ君……」と、アリシアお姉さんに名前を呟かれた。


「うん……なに?」


「リーユ君さえよかったら……私たちと一緒に行きませんか?」


「…………」


 お姉さんたちと一緒に……旅に出る。それは楽しそう……というかしてみたい。


 お姉さんたちと一緒に冒険して笑い合う時間はスッゴく好きだから、それが終わることなく続くんだ。


 だけど……僕は―――。


「誘ってくれたのは……スゴい嬉しい。だけど僕には……家族がいる。今はその人たちとの時間を……大切にしたいから……ごめんなさい」


 僕はハッキリと言葉では断っているけど、内心はブレブレだ。


 本音を言うと、断った直後、後悔の気持ちが僅かに感じた。


 それでも僕は、家族を選んで主人公を覚醒させる役目を果たす。それが僕の答えだ。


 しかしそれによって、どこか神妙な空気が僕たちの中に流れた。


 けど、それは二人の微笑みによってかき消された。


「ふふ……そうですよね。私、意地悪なことを言ってしまいましたね?」


「ホントそうだよ。リーユ君は仲間想いってことは、家族はもっと大切に思ってるんだから、一緒に来ないと分かってるのに、どうして訊いちゃうのかな?」


「念には念を、ですよ。意外と誘ったら一緒に来てくれる思って……つい」


「ふ、二人とも……僕が断るって……わかってたの?」


 そう尋ねると、二人は頷いた。


「い、いつこの国を出るの!?」


「今日中には、隣国へ向かう馬車に乗ろうと思っているので……後、小一時間ほどでしょうか?」


「すぐじゃん!! ちょちょ、ちょっと待って!!」


 僕は二人にどうしても渡したいものがあった。


 本当はパーティー(僕が加入してから)結成一年を祝うと共にアリシアお姉さんに買ってもらった耐熱装備のお礼をしようと思って、準備していたプレゼントがある。

 

 まさか今日、しかもこの時にするとは思いもしなかった……。


 僕は≪収納魔法≫を発動し、二人へプレゼントを贈る。


「まずは、これ! 二人をオカそうと思って、新しく作ったんだ!」


 右手には、リーシアお姉さんをオカすためにラッピングした、マカロンを差し出した。


 また左手には、アリシアお姉さんをオカすためにラッピングした、一口シュークリームを差し出した。


「これは……マカロン?」


「私はシュークリームですね……」


 二人は僕がプレゼントしたお菓子を受け取って、袋の外からお菓子をじっくりと見ている。


 実はまだ、これだけじゃないんだよね……。


 そして僕は、新たなプレゼントを≪収納魔法≫から取り出す。


「まだまだあるよ! はい!」


 僕は右手に赤い宝石のピアスを差し出し、左手に青い宝石のピアスを差し出した。


 すると、ピアスを受け取って、これもまたじっくりと観察する。


「これは……! 早速、つけてみてもいいですか?」


「うん! つけてみて!」


 どうぞどうぞ、と手を向けると、二人はピアスを付け始める。


 エルフ族といえば、耳が印象的だからね。そのため、二人にはピアスをプレゼントしようと最初っから考えていた。


 それに二人は、スゴく美人だからね。さらにキレイになるよ。


「どうですか! 似合っていますか!」


「どう?」


 二人がピアスを付けた耳を僕に見せてきた。


「うん! スッゴく似合ってるよ! 二人ともキレイ!」


 実際に付けているのを見ると、キレイになるとわかっていても、想像以上にキレイだった。


 だから思わず、テンションが高くなってしまった。


「ふふ……綺麗になったのは、リーユ君のおかげですよ? ピアス、ありがとうございます……大切にしますね」


「リーユ君、ありがとう。いい子いい子……」


 リーシアお姉さんが身を乗り出して、僕の頭をなでなでする。


 続いて、アリシアお姉さんも「ずるいです! 私も!」と、なでなでに加わった。


「えへへっ……僕の方こそありがとう……アリシアお姉さん、リーシアお姉さん……」


「かわいっ……!! リーシア!」


「うん、わかってる」


 二人は僕の頭を撫でながら、顔を見合わせて何かを確認していた。


「? 二人とも何を―――」


 ちゅっ。


 僕のほっぺた二つに柔らかい感触があった。


 あれ? ほっぺにちゅーされた。


 そのことを認識すると、ほっぺたが、ちゅ~っと吸われた後に二人の顔が離れた。


「ふふ……では、リーユ君。しばしのお別れです……。またすぐに会いに来ますからね……」


「それまで、自分の身は自分でちゃんと守るんだよ? 他の女に何かあげないから……ね?」


 ただ呆然ときょとんとした顔で二人を見ていると、そんなことを言われた。


 そして、僕に優しい笑顔を見せてから、二人はギルド後にした。


「あー……って!! 僕、別れの挨拶してないじゃん!!」


 椅子に深く座っていた僕はそのことを思い出し、勢い良く立ち上がってギルドを出る。


 回りを見渡すとお姉さんたちの背中が見え、僕はその背中に向かって手をメガホンにして見送りの言葉を届ける。


「アリシアお姉さんー! リーシアお姉さんー!」


「「………!」」


 僕の声に気づいたのか、ハッとして僕に振り返る。


「いってらっしゃーい!! 気をつけてねー!!」


 そう言うと、アリシアお姉さんは満面の笑みで大きく手を振って、リーシアお姉さんはクールな微笑みで小さく手を振った。


 でもそれは、ある程度時間のみで、二人は再び隣国行きの馬車に向かって歩き始める。


「二人のことだから心配ないけど……やっぱり寂しいな―――あっ」


 二人の背中を見送っている途中、僕はあることを思い出した。


 あのピアスに魔法を付与してたんだよね……。お姉さんのどちらかが、「助けてー!」って助けを求めたら、僕が寝ていてパジャマ姿でも、お風呂に入ってスッポンポンの姿でも、お姉さんたちの所に瞬時に≪転移≫できるよう仕込んてたんだ。


 だけど―――。


「まっ! お姉さんたちのことだから問題ないか!」


 そう思っていると、


「―――君、邪魔だからどいて」


 僕の耳に、そんな冷たい声が聞こえた。


 そうだった! 僕、ギルドの出入り口の扉に立っていたから……。


「ご、ごめんなさい……」


 そう言いながら、体をどけてその人の顔を見た。


 瞬間、僕の身体に電撃が走った。それは、恐怖や嫌悪でもなく、喜びの方の電撃だ。


 こ、この人はまさか……!!


「ねぇ、人の顔をじろじろと見な―――」


「―――ユキナさんですよね!!」


 僕が鼻息を荒くしてキラキラの眼差しで向けると、ユキナさんは引いた目かつジト目で「……そうだけど、何?」と不機嫌そうに答えた。


「ふぁ~~~!! やっぱりそうなんだ!」


 雪色の長い髪と吊り上がった瞳……!! そして高い身長にスレンダーなモデル体型!! 


 そう……そうに決まってるよね!! ユキナさんしかいないよね!!


 くぅ~~~~!! まさか、こんなところで出会えるなんて思ってもいなかったよ!!


 だって、ユキナさんといえば!!


 ―――このゲーム≪NTR≫という世界で一番強いキャラなんだよ!!

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