第34話

「クエスト完了です! 皆さん、ご無事で何よりです!」


 フェニックス討伐依頼書に判を押し、ルナお姉さんは笑顔でそう言った。


「流石、Sランク冒険者様ですね……リーユ様を連れながらも、無傷で帰還するとは」


「いえ、それは違います。私たちのパーティーにリーユ君がいなかったら無傷どころではなかったかもしれません……」


「? それはどういう……?」


 ルナお姉さんは不思議そうに尋ねた。


「リーユ君は不死鳥の生態について詳しかったんだ。その知識のおかげで勝てた」


「それだけじゃありません! 剣も魔法もピカイチな才能を持っており、それを余すことなく見事に発揮していました! これは最早……『神童』と呼ぶべき実力者です!」


「そうなんですか? リーユ様」


 リーシアお姉さんに続いてアリシアお姉さんが僕の評価を熱弁して、それが本当かどうかルナお姉さんが僕に訊いてきた。


「『神童』……かどうかはわからないけど……僕がいなかったら多分……お姉さんたちが苦戦してたのは確かかも……」


 僕は苦笑いをしながら答えた。


 さ、流石に自分で『神童』だなんて恥ずかしすぎるし……まさかお姉さんたちが僕のこと、そう思ってたんだって知らなかったな……スゴく嬉しい。


 そう僕がお姉さんたちの言ったことに、胸をポカポカになっていると、ルナお姉さんが席を立って僕の前にやってきた。


「る、ルナお姉さん……?」


 僕はルナお姉さんを見上げながら尋ねると、ルナお姉さんは屈んで僕と目線の高さを合わせる。


 そして、


「へっ?」


 突然手を包むように握られたことで、素っ頓狂な声が僕の口から発せられる。


 ど、どうしたんだろう急に……。でも、握り潰されるような握り方じゃないから、怒られないことはわかってるけど……握られた理由が見つからない。


 いったい、どうして何だろう……。


 そんな疑問を持っていると、「ギルドカードを提示してもらえますか?」と、ルナお姉さんが僕に訊いてきた。


「う、うん……はい」


 僕は言う通りにして、ルナお姉さんにギルドカードを渡した。


「では一旦、預からせていただきます。少々お待ちください」


 ルナお姉さんは僕のギルドカードを持って、受付カウンターの奥の部屋に入る。


 これからルナお姉さんは、僕のギルドカードに何をするんだろう。


 そう思ったので、二人のお姉さんに尋ねる。


「ねぇねぇ、ルナお姉さんは何をするの?」


「それはね、リーユ君が―――」


「それ以上は、お口チャックですよ」


 リーシアお姉さんが僕にその理由を教えるその途中、アリシアお姉さんがリーシアお姉さんのお口を手で塞いだ。


 二人とも知っているみたいだ……。


 そう思っていると、ルナお姉さんが受付に戻ってきた。


「お待たせしました。こちらをご確認ください」


 僕は背伸びをして、ルナお姉さんが差し出したギルドカードを掴む。


 何かギルドカードに記入されたのかな?


 ギルドカードを見てみると、そこには―――。


「え、Sランク……僕が?」


 ギルドカードに記された『S』という文字を見て顔を上げると、ルナお姉さんが微笑んで「はい。リーユ様は本日から、Sランク冒険者となります」と言った。


「つまり僕は……個人でもSランクのクエストを受けられるってことだよね……?」


「その通りです。リーユ様は【疾風の花園】のパーティーに加わったことで、仮のSランク冒険者となっていましたが、今この瞬間から正真正銘のSランク冒険者となります」


 そう。ルナお姉さんの言う通りで、僕自身がSランク冒険者になったわけではなく、本来は最底辺のEランクだ。


 しかし、お姉さんたちのパーティー【疾風の花園】に入った付随で、僕は一時的なSランク冒険者となった。


 でも……。


「本当にいいの? 僕がSランク冒険者になっても……他の冒険者さんから不満が生まれちゃうかもしれないよ……?」


 僕が懸念していることはそれだ。


 たった一回のSランクのクエストをクリアしただけで、何年も冒険者として実績を重ね努力をし続けてる他の冒険者さんが、冒険者ギルドにクレームだったりの問題が起こることは間違いないと思う。


「ふふ……リーユ君たら……そんなことを心配してたのですか?」


「えっ? う、うん……だって……」


 ……僕だったら納得いかないもん、そう思ったが言葉にできず俯くと、リーシアお姉さんが僕の肩に手を置いた。


「リーユ君、後ろを振り返ってごらん」


 僕は顔を上げ、リーシアお姉さんを見る。


「う、後ろ……?」


「うん、ほら」


 リーシアお姉さんはさらに肩に手を置いて、そのまま僕を後ろへ振り向かせる。


 するとそこには―――。





「リーユ、スゲェーじゃねぇか!」


「その年で、Sランク冒険者なんてスゴいわね! お姉さんのお婿さんにならない?」


「へへっ! まぁ俺は分かっていたけどな! こいつはすぐに俺たちより先進むってな!」


 みんなが笑顔で僕を褒めたたえてくれる。誰も僕に対して嫌な顔や悪口を言っていない、優しい空間がそこにあった。


「…………」


 僕はリアクションも取れず、ただ口をぽかんと開けて佇んでいた。


 こ、こんな時……どうしたらいいんだろう……。はぁ~人間って、こういう時の反応ってできなくなるんだな……。


 だけど……だけど僕は……確かに伝えたかった言葉がある……それは―――。


「では皆さん! リーユ様……!!」


「「「「Sランク冒険者昇格!! おめでとう!!」」」」


「うん! みんなありがとう!」


 えへへっ、僕はみんなにこの喜びと感謝を込めて、僕にできる最大の笑顔で伝えた。


 やっと僕も、本物の冒険者になれたのかな?



 そして時は過ぎ、一年が経った―――。

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