第33話

 しかし、最初の時以降、敵は全く現れなかった。


 何でだろう……せっかくカッコイイ所を見てもらうチャンスだったのに……。


 僕はちょっとだけ落ち込んだ。


 だけど、順調に頂上まで進めて良かった。体力も魔力も十分すぎるくらいに、温存できたからね。


 それに―――。


「アリシアお姉さん! リーシアお姉さん!」


「はい!」「うん」


 二人もどうやら気づいたみたいで、そう返事をした。


 ―――次の瞬間。



 火口から、不死鳥フェニックスが現れた。



 不死鳥はその真っ赤な炎を纏った大きな翼をはためかせ佇むだけだった。


 しかし、攻撃は仕掛けて来ないとはいえ、着実に僕たちを敵と認識しており、じっくりと観察しているように見えた。


 ……と、思うだろうけどそれは違う。不死鳥の行動は恐らく……。


「隙だらけだと思っちゃダメだよ! それは不死鳥によるワナだ!」


「どういうことですか!? 不死鳥は攻撃する気配がないので、一気に魔法で攻めるべきでは!」


「絶対にダメだよ!!」


 僕がアリシアお姉さんの目を真っ直ぐに見て伝えると、アリシアお姉さんは一瞬、体を震わせた。


 そして僕は、言葉を続けて不死鳥の特徴を教える。


「不死鳥は魔力のみで構成された、エネルギー体なんだけど。何より恐ろしいのは、再生能力! 普通の魔物だったら体の一部が消失した時点で、戦闘不能になる……。だけど、不死鳥は違う! 不死鳥は一部が欠損した程度じゃ倒せないし、また魔力の原子が一つでもあれば完全に復活できる! だから、魔法を撃ったところで消費しかしない! 不死鳥は敢えて隙があるように見せて、その実……僕たちの魔力を使い果たさせようと、あんな風にしてるのさ……」


「つまり……話を聞く限りですと……魔法だけではなく、剣による物理攻撃も意味がない、ということですね……」


 僕がそれに頷くと、アリシアお姉さんは絶望したような顔になる。


 「そ、それでは……私たちに勝ち目はないじゃないですか……!?」


 悔しそうに拳を握るアリシアお姉さんに、それを悲しげな顔で見つめるリーシアお姉さん。


 しかし、リーシアお姉さんの表情を見るに、絶望していない……諦めていなかった。寧ろ、勝利への期待が高まっているような……。


 すると、リーシアお姉さんは僕を見る。


 しかも、絶体絶命の大ピンチだというのに、余裕すら感じさせる微笑みを浮かべて。


「リーユ君……何か策はあるんだよね?」


「えっ……?」


「うん! 勿論だよ!」


 僕はグッと親指を立てて、キラキラ笑顔を二人に見せる。


「さっきも言ったけど、不死鳥は原子一つで復活できる。だけどそれは、原子に逃げ道があるから可能な事なんだ……つまり」


「あっ! 逃げ道を塞げばいい!」


「その通り! 大正解だよ、アリシアお姉さん!」


「あはは……あははは……ありがとうございます……」


 照れたように笑うアリシアお姉さん。


 その顔からは恐怖も絶望も無かった。


 うん……元のアリシアお姉さんに戻ったようでなりよりだよ。やっぱり、暗い顔よりも笑顔の方がいいよね!


「早速、僕の作戦を実行してもらうよ! リーシアお姉さん、不死鳥を閉じ込めるくらいの大きさの≪結界魔法≫を展開してくれる?」


「うん、お安い御用」


 リーシアお姉さんは≪完璧なる愛の巣ラブリースウィートキューブ≫を発動し、不死鳥を結界の中に閉じ込めた。


「第一段階完了! 第二段階! 座標を定めて≪水魔法≫で結界の中で不死鳥を水浸しにしまくるよ! アリシアお姉さんイケる!」


「はい! 準備はできています!」


 僕はいつでも発動できるアリシアお姉さんを見て頷き、僕も座標を定めてようと瞼を閉じてイメージする。


 ポイントはこうのこうで……結界の中で爆散させる感じで……イケる!


「こっちも発動準備ができたよ! せーのっ!」


「「はぁあああああああッ!!」」


 僕とアリシアお姉さんは同時に≪水魔法≫を発動する。

 

 そして、結界の中に水が満杯になったかな、と思った僕は仕上げに……。


「≪メテオ・レイン≫……」


 水魔法と同じ要領で、座標を定めて結界の中に隕石を召喚する。


 となると、隕石は高温であるため、それが水に触れるのどうなるでしょう?


 ―――その答えは。



 




 ドカァアアアアアアアアアンッ!!!


『水蒸気爆発』を引き起こすことになる。


 おかげで、一瞬の閃光と共に、リーシアお姉さんの結界が破壊され、僕たちにその破片が飛んだり、皮膚が焼け爛れるような高温度の熱風や衝撃波が襲う。


 だけど、≪メテオ・レイン≫が発動した直後に、すぐさまドーム状の魔力障壁を展開したことで、何とか防ぐことができ、僕たちは無事に衝撃が収まるまでの間、やり過ごすことができた。


 そして僕は、魔力障壁の発動を止め、不死鳥が完全に消失したことを確認する。


「ふぅ……、何とかなったね……」


 額の汗を腕で拭いながら振り返ると、お姉さん二人は口をぽかんと開けて呆然としていた。


「な、なんですか……あの爆発は……」


「あの威力……暴力的……」


「あー……」


 確かに、この世界からしたら、あんな威力を放つ攻撃なんて見たことないよね。


 そうなるのも、当然だ。


 まぁでも、取り敢えず―――。


「クエスト完了! ブイッ!」


 二人に向かって、ピースサインを送った。


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