第32話

 不死鳥さんこと、フェニックスは【グラニュー山】という大きなお山さんの頂上……火口の中で生息している魔物だ。


 つまり、マグマの中でぬくぬくと生活しながら、僕たちのような冒険者の刺客を虎視眈々と待ち構えているわけだ。


 そして、不死鳥さんは火山活動を活発化させる特性があるんだけど、今は寝ているのか火山活動は起こっていない。


 そのため、僕たちは耐熱装備をしないで、着々と頂上を目指して登り続けてる。


 無論、火山活動の兆候が見られれば、耐熱装備を身に付けるけどね。


 アリシアお姉さんが、ここに来る前に王都の防具屋さんで買ってくれたやつ。あとで、その分のお金払わないとなぁ……と、思ったけど。


 プレゼントって言ってたから、お金で返すのは失礼な気がする……アリシアお姉さんの厚意を無下にしてると思うから……どうしようか。


 ん~なら、クエストが完了したら、オカしてあげようかな? リーシアお姉さんもオカすけど、アリシアお姉さんだけの特別な……。


「―――前方から敵3体! リーシア前衛へ!」


 考え事をしている突然、パーティーのリーダーであるアリシアお姉さんの指示が聞こえ、リーシアお姉さんがその指示に従い、剣を構えて僕たちの一歩前に出た。


 あれは……『フレイムウルフ』。炎を身に纏った狼の魔物だ。厄介なんだよね……この魔物。


 個体としては全然強くないけど、群れを成されると処理が追いつかなって、消耗戦の末にゲームオーバーのループによくハマってたな……。


 そんな苦い思い出を振り返るけど、すぐに思考を切り替える。


 仲間を呼ばれたらマズい……機動力なら僕の方がリーシアお姉さんより優れているし、魔力は温存してもらいたい……フェニックスを討伐するカギとなるのは、リーシアお姉さんの≪魔法≫だからね。


 リーシアお姉さんを見てみると、≪身体強化魔法≫を発動しようとしていたため、僕は颯爽とリーシアお姉さんの持っている剣をスパッと取て中断させる。


 ついでに、剣も取っちゃったから、そのまま倒しちゃおっか。


 そして僕は、一直線に敵3体の小規模の群れへと駆ける。


「リーシア! リーシア! リーユ君が~~!!」


「ん? 本当だ。敵に突っ込んでる。……あれ? 私の剣は?」


 あはは……ごめんね? アリシアお姉さん、リーシアお姉さん。


 苦笑いをしながら心の中で二人に謝ると、フレイムウルフが一斉に襲い掛かる。


「「「ギャオォオオオオオオッ!!」」」


「―――見切った!」


 横薙ぎの一閃を放ち、フレイムウルフ3体を一気に真っ二つに切り裂く。


 そして、剣を振って付いた血を払い、感動へと浸るのだ。


 くぅ~~~!! 一度、言ってみたかったんだよね!『見切った』って! もしかして、今の僕……めちゃくちゃカッコ良くない!?


「流石……僕」


 そう言って、クールに瞼を閉じながら、腰に携えている鞘に剣を収めようとしたが、カキンッと音がして何かとぶつかった。


「………?」


 瞼を上げ腰に注目すると、僕の腰には剣が収まった鞘があった。


 あっ……。


「リーユ君? それ、私の剣だよ」


 そうだったぁああああああ!!!


 すっかり、リーシアお姉さんの剣を勝手に取って、その剣でついさっき倒したのだと思い出した。


 なので、踵を軸に回転して振り返り、立て膝をついて献上するようにリーシアお姉さんの剣を本人に見せる。


「リーシアお姉さん……ごめん」


「ううん、いいよ。それに凄く速かったね。カッコ良かったよ」


「えへへっ……そうかな~?」


 リーシアお姉さんが剣を受け取り、僕は褒められて気分が良くなりながら立ち上がった。


「ほぼ一瞬で倒すなんて……しかも、こんな小さな体で……一体、どこからそんな力が……」


「―――そんなの決まってるじゃん」


「へっ?」


 考え込んでいるアリシアお姉さんにそう言うと、目を見開いて僕を見た。


「お姉さんたちと一緒にいるから、守りたいって思ってるから! だから僕は、いつもの僕より力が溢れて強くなれるんだ! ねっ、お姉さんたちもそうでしょ!」


「「………!!」」


 お姉さんたちはハッとして、何かを思い出したかのようだった。


 そしてお姉さんたちは、お互いの顔を見て微笑む。


「えぇ……その通りかもしれませんね」


「うん、年を重ねるごとに強くなれることは確か。だけど、必ずしもそれが絶対ではない。強くなりたいという原動力。それが無ければ、どんな存在であれ力を高めることは決してできない。ありがとう、リーユ君。私たちに、大切なことを教えてくれて……」


 二人が僕に微笑みかけて、僕はそれに「よくわからないけど、どういたしまして!」と笑顔で返す。


「それじゃあ二人とも! 出発だっ!」


 僕は二人を先導するように大きく腕を振って歩くと、背後から見守るような温かい視線と二人が微笑む声が聞こえた。


 今の僕に、死角はないよ!


 さぁ、どこからでも……かかってこい!

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