第30話

「こ、こちらが換金した分のお金になります……」


『ギルドカード』を受け取って、僕がエルメダと出会ったダンジョンのモンスター素材や何やらを渡すと、受付カウンターの上には大量にお金が入った袋3つ置かれた。


 受付のお姉さんこと―――ルナお姉さんはその袋を見て、引きつった笑みを浮かべている。


 一方僕は、ルナお姉さんとは対照的で……とても嬉しい!


 予想よりも、いっぱいお金をもらえったっていうのもあるけど、これだけ……僕んみたいなお屋敷をまるまる買えるぐらいあれば、た~くさん! みんなにプレゼントできるからね! 


 そんなワクワクした気持ちを膨らませながら、袋を―――


「エルメダお姉ちゃん!」


「任せろ!」


 当然、僕の身長では取ることができないので、エルメダにシャキンッ!と抱っこしてもらって袋を抱えた。


「ルナお姉さん! ありがとうございました!」


「ま、またのご利用お待ちしております……」


 あはは……、とルナお姉さんは苦笑いで僕たちを見届けられて、冒険者ギルドを後にした。


 よーし! 早速、このお金でみんなへのプレゼントを買うぞ!




 ……と、思ったが僕はプレゼントを買わずに翌日を迎え、冒険者ギルドの扉の前で腕を組んでいた。

 

 そして、今の僕はリーユとして来ているけど、エルメダは一緒に来ていない。つまり、ソロだ。


 なぜなら―――。


「昨日は、エルメダがいたからね。そのまま一緒に買ってしまうのは……サプライズとは言えないからね……」


 というのもあるが、一番の理由はそれではない!


「僕は……冒険者ライフを謳歌してみたい! 架空の世界が現実の世界となった今! 自分の目で見て! 自分の足で大地を踏みしめ! 全力で楽しみたい!」


 通り行く人が……ちらちらと僕のことを見ている……。


 正直、もう限界……恥ずかしいです。気合を入れるのはここまでにして、さっさと中に入りましょうか。


「こんにちは!」


 気持ちを切り替えて扉を開けた僕は、ギルドの中にいる冒険者や職員のお姉さんたちに挨拶をする。


 すると、みんなは僕の名前を呼んで、笑顔で手を振ってくれる。僕もそれに手を振って、微笑みで返す。


 みんなが僕に良くしてくれるのは、昨日僕がオカしたからかな?


 そんなことを思いながら受付へ進んでいくと、そこにはアリシアお姉さんとリーシアお姉さんがルナお姉さんと楽しそうにお話をしているようだった。


 何の話をしてるのかな? 聞いてみよ!


 気になった僕は、「こんにちは!」と挨拶すると、三人も挨拶を返してくれて僕は尋ねる。


「お姉さんたち、何をお話していたの?」


「あ、あ……えっと……」


「クエストの手続きをしていたのよ。ほら」


 アリシアお姉さんが困惑していると、リーシアお姉さんが一枚の紙を僕に手渡した。


 ん? これは……。


「不死鳥……フェニックスの討伐。しかも、難易度Sランク……お姉さんたち、Sランク冒険者なの?」


「えぇ! 私とリーシアはSランク冒険者なのです! ふふーん!」


「おぉ!」


 胸を張って自信満々に言うアリシアお姉さんに、僕は拍手をして尊敬の眼差しを向けた。


 やっぱり二人は、強いんだ! だって、Sランク冒険者は確か、この世界で2ケタぐらいしかいなかったはず。


 そんな中にいるなんて……二人はスゴイ!。


 まぁけど、僕はそれよりももっと上で、七人しかいないSSランク冒険者だったけどね……あっ、でもそれ主人公だからできたことか。


 僕の力ではないから、何の自慢にもならないや。


 ちょびっと悲しくなった僕がそう落ち込んでいると、リーシアお姉さんがアリシアお姉さんに重い一撃を放つ。


「そのSランク冒険者である私たち、リーユ君のお姉さんに手も足も出ないどころか、対峙するのがやっとだったけどね」


「うっ……」


 リーシアお姉さんが昨日のことを話すと、アリシアお姉さんは呻き声を出しながら両手を床についた。


 え~、そうだったんだ。お姉さんたちのような強者でも、エルメダと向かい合うのがやっとだったんだ……全然わからなかった。


 なるほど、相手に臆しているところを隠すこともまた、強者として必要な力の一つなのか……。


「ふむふむ……」


 腕を組んで首を縦に振り続けて、強者へと至るための道が開けたような気がした。


 そして同時に、このままでは危ないお姉さんたちを助けなければ、とも思った。


「アリシアお姉さん、リーシアお姉さん。僕も……このクエストに連れて行ってもらえないかな? というか、連れて行って!」




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