第29話

「えっ……こ、これは……」


「うん! クッキーだよ!」


 僕の手の平にあるラッピングされたクッキーを間の抜けた顔で見ているエルメダに、僕はキラキラ笑顔でそう言った。


 実を言うと、クッキー作りは自主的に続けてたんだ。


 サーシャと一緒に作った時、スゴく楽しかったのと、ミリスお姉ちゃんにおねだりされるからね……そのため、定期的に作って≪収納魔法≫で常備してるんだ。


 ふっふっふ、何の策もなく……僕はオカしたりしないのだよ……抜かりはない……。


 ん~でも、僕がオカしてあげたのに、エルメダの顔はどこか浮かないような感じがする……。


 ひょっとして……嬉しくないのかな……?


 そんな不安でいっぱいになった僕は、おそるおそるエルメダに訊いてみる。


「エルメダ……嬉しくない……? 僕がオカされるの……嫌だった……?」


 そう言葉にすると、スゴく悲しくなった僕は……うるうると涙目になりながらエルメダを見上げた。


 すると、エルメダはハッとした顔で慌てながら、凄まじい勢いで首を横に振った。


「そ、そんなわけあるか!! 我はリーユにオカしてもらえて凄く嬉しいぞ!!」


「……うっ……ほんとうに?」


 僕が小首を傾げてそう尋ねると、「あぁ!! 本当だ!!」とエルメダは笑顔を見せた。


 その瞬間、僕の中から不安は全て消え去って、安心感で満たされた。


 だって、その笑顔は心の奥底から……僕にオカしてもらえて嬉しそうにしている、何よりの証拠だったから。


 よかった……エルメダをオカしてあげて……よろこんでもらえて……ほんとうによかった……。


 これで、ギルドの人たち全員のことをオカしても……同じように喜んでくれるよね? きっと……。


「エルメダお姉ちゃん……他のみんなもオカしたいから降ろしてくれる?」


「あ、あぁ……?」


 そっとエルメダは僕を降ろしたので、まず僕がオカしたいと思ったエルフのお姉さんたちに駆け寄った。


「「僕……」」


「アリシアお姉さん! リーシアお姉さん!」


 呆然と僕を見ている二人に、僕はオカすためにクッキーを差し出す。


「「は、はいっ!!」」


「オカして……あ・げ・る~~~♪」


「「ドキュ~~~ン!!」」


 クッキーを受け取ったのと同時に、二人は目をハートマークにして、鼻血を噴き出しながら女の子座りをした。


「あ~~~!! 大変大変!! 大量出血で死んじゃうよ!!」


 僕は二人の命を救うために大急ぎで≪回復魔法≫をかけると、血は止まったけど……目はハートマークのままだし……体を揺すっても「はへ~……」と謎の声を発したままだった。


 でも、血は止まったから命に別状はなさそうだよね。


 放っておいても、大丈夫そうかな?


 それなら僕は、構わずに他のみんなをオカすとしよう。


 早速、行動に移した僕は、冒険者のおじさんたちを一人一人をオカした。


「おじさん! オカしてあげるね!」


「へっ? お、おぅ……何かに目覚めちまいそうになるぜ……ったくよ」


 何言ってるかよくわからないけど、喜んでくれて嬉しい!


 次は、ギルド職員のお姉さんたちだ。勿論、一人一人ていねいかつ紳士にオカしてあげる。


「お姉さん! オカしてあげるね! ねぇねぇ! 僕にオカされて……嬉しい?」


「「「嬉しい~~~~っ!!!」」」


 そんな嬉しそうな声を上げて、ギルド職員のお姉さんたちは、僕を抱き上げて四方八方から頬ずりした。


 しかも、かなりの力で僕のことを抱きしめてる……!


 だけど! おっぱいクッションのおかげで痛くないんだよね、これが。


 なので僕は、おっぱいでぬくぬくを堪能中だ。


 でも……あまりにぬくぬくすぎて……眠くなってきちゃった……。


 どうしよ……このまま寝ちゃおうかな……。


 そう思っていると、受付カウンターの奥にある部屋のドアが開かれた。


「も、申し訳ございません! リーユ様! エルメダ様! ギルドカードを発行するための魔道具の調子が……何をしているのですか? あなた達……」


 僕たちの手続きをしてくれたお姉さんが、仕事仲間であろうお姉さんたちに、凍えるような冷たい眼差しを向けた。


 それに僕を抱きしめているお姉さんたちは、


「あ、あの……」


「これはその……」


 と、気まずそうに引きつった笑みでお姉さんを見た。


 どうして、お姉さんが怒ってるのかよく分からないけど、僕がオカしてあげれば! お姉さんの機嫌も良くなるよね!


 眠気がバッチリと覚めた僕は、トウッとジャンプをして抜け出し、スタリと王子様のように跪いてお姉さんの前に着地する。


 そして勿論、≪収納魔法≫からクッキーを取り出すことも同時並行でね。


「り、リーユ様……?」


 突然、僕がカッコ良く登場したことで、お姉さんは戸惑う。


 だがしかし! 僕はこれからもっとカッコイイことをする。


 そのため、キリッと王子様スマイルをしてから、背後に隠してあるクッキーを見せる。


 それまるで、結婚指輪差し出すかのように。


「受付のお姉さん、僕はあなたをオカしたい! だから……この! あなたをオカしたい僕の気持ちを! 受け取ってもらえませんか!」


「え、えっ?」


「キランッ!」


「えぇえええええ~~~~~~っ!!!」


 さらに王子様スマイルを輝かせると、受付のお姉さんは歓喜の声を上げた。


 よし! 


 み~んな! 僕にオカされて嬉しそうにしてる!!


 ―――お菓子オカしてあげる大作戦!! ミッションコンプリート!!




 




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