第28話

 バリンッ!!


 結界にヒビが入った音が、僕たちの耳から聞こえてきた。


「「ッ!!」」


「一体、何が……!?」


 アリシアお姉さんがそう言うと、新たな追撃によりついに結界が破壊された。


 そのことは、お姉さん二人にとって予想外の出来事だったようで、目を見開いて驚愕していたが、僕は驚きつつも納得していた。


 リーシアお姉さんの≪完璧なる愛の巣ラブリースウィートキューブ≫は、認識阻害といった人の目を欺く優秀な効力を持った魔法だけど、より特徴的で強力なのは結界の強度だ。


 相当な魔力が永続的に結界内を循環している。強度を生み出し、維持しているということは、やはりエルフ族というべきか、リーシアお姉さんが体内に保有している魔力量の大きさが簡単に読み取れる……スゴイね。


 でもね、君の力はもっとスゴイ……僕はそれを知っている……。


 そうだよね―――



「ゆ……リーユ! 無事か!」


「エルメダお姉ちゃん!」


 エルメダは名前を間違えそうになるくらい取り乱しており、不安でいっぱいになっているのか分かるくらい表情に出ていた。


 僕はエルメダを安心させようと、リーシアお姉さんの抱っこから抜け出す。


「あっ……」


 リーシアお姉さんから寂しそうな声が聞こえたような気がするけど、「ごめんなさい!今はエルメダを安心させなくては!」と、内心で謝りながらエルメダに駆け寄った。


 そんな僕を見て、エルメダは笑顔になり、僕を受け止めようと両手を広げた。


「リーユ!」


「エルメダお姉ちゃーん!」


 僕は思いっきりエルメダのおっぱい目掛けてジャンプすると、エルメダが僕を抱き止めた。


 そのハグの強さからは、エルメダが僕のことをどれだけ心配させてしまったのか理解したと同時に……ごめんなさいと……そう思った。


 だからエルメダに、そのことを伝えようと、おっぱいに埋めていた顔を上げる。


「ごめん、エルメダお姉ちゃん……心配かけちゃって……」


「ホントじゃぞ……全く世話の焼ける奴じゃ……」


 そう言って、エルメダは僕の頭を乱暴に撫でる。


 それに僕は、「やめてよー!」と訴えても、「やめん! 我を心配させたバツじゃ!」と更に撫でた。


「あ、あなたは一体……」


 そう声を掛けてきたのは、アリシアお姉さんだった。だけど、その姿は凛としてクールな感じではなくて、呆然としていた。


 まぁ、あの結界を破れると思ってなかったから……そうなるに決まっているよね。だかしかーし! ウチのエルメダさんは見事やってのけるのです! 


 流石! 最強のドラゴンさんだね。


 そう鼻高くエルメダのことを内心で自慢していると……エルメダは二人をキッと睨みつける。


「ひっ!」


 そう小さな悲鳴を上げたのは僕だ。


 だって、おじさんたちに向けていた殺気よりも、濃密でトゲトゲしてんだもん! 怖いからしょうがないじゃん!


 そう言い訳をしている一方で、お姉さんたちは全く凄んでいる様子は無く、殺気を向けられる以前と変わらぬまま、エルメダと対峙していた。


 僕は心の中で、スゲー! と、憧れの眼差しを二人に向けていた。


 全くエルメダの殺気に動じてないよ! あの二人! やっぱり、ストーリーには出ないだけで、実力者的なキャラはいるんだ……!


 だけど今は、この凍えるような空気に火をともさなければ……僕を含めてギルドの中にいる人が凍え死んじゃう……。


「エルメダお姉ちゃん。僕は無事なんだから、二人のこと許してあげて」


「! しかし―――」


「しかし、じゃないよ! んもう……エルメダお姉ちゃんのこと! オカしてあげないよ!」


「え~~~!! 我のこと! 犯したくないのか!」


「許してあげないなら、オカしてあげないよ? 当然だよ」


 ぷいっと、僕はエルメダからそっぽを向いた。


 すると、エルメダは滝のように涙を流しながら、僕の身体をグラングランと揺らした。


「わかったのだ~~~!! 許すのだ~~~!! だから我のことも犯すのだ~~~!!」


 目が回る~~~!! 死ぬ~~~!!


 命の危機を感じた僕は、僕の中にある全ての持っての力を以て……今、抗う!


「わ、わかったから~~~!! オカしてあげるから~~~!! 揺らさないで~~~!!」


「本当か?」


 エルメダは僕の身体を揺らすを急停止し、つぶらな瞳で僕にそう尋ねた。


 それに僕は、呼吸を整え気持ち悪さを吹き飛ばすと、徐々にぐるぐると回っていた視界が安定してきたため、今なら答えられそうだ、と思いこう答える。


「ほ、本当だよ……。だから、許してくれたお礼に……今からオカしてあげるね……」


「い、今からじゃと!!」


「うん……」


 そう言いながら、僕は一瞬にも満たない速度で≪収納魔法≫を発動して、そこからあるものを取り出し、それを手の平に乗せてエルメダに見せた。


「―――はい! エルメダのこと、オカしてあげるね!」


 





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