第25話

「ほら、ここが王都ソルアだよ!」


 僕が王都ソルアに出入りをしている馬車や人々を指差しながら言うと、エルメダは言葉を返してくれなかった。


 あれ? 聞こえていないのかかな?


 そう思って、手を繋いでいるエルメダを見上げると―――


「に、人間がいっぱい……気持ち悪いである……」


 顔を真っ青にして「おぇ…」と吐き気を催すエルメダがいた。


「だ、大丈夫!?」


「うぅ……」


 僕は背伸びをして、エルメダの背中を摩りながら≪回復魔法≫を掛けた。


 そうか……いきなりこんな人混みが多い所に行ったら……こうなるよね。


 ずっと一人で、あんな暗いダンジョンの最下層にいたんだから当然か……。


 社会勉強に繋がると思って連れてきたけど……そこまで気が回らなかった。


 反省しないと。


 僕が掛けた≪回復魔法≫によって、エルメダの顔色が元に戻りつつあった。


「エルメダお姉ちゃん、どう? 体調、良くなった?」


「う、うむ……大分マシになったのである……ありがとうなのだ。ゆ―――じゃなくてリーユよ」


 そう言って、エルメダは僕の頭をガシガシと雑になでなでする。


 一瞬、僕のことユーリって言いそうになったけど……うん、ちゃんと僕の偽名で呼んでくれた。よかった、体調も元に戻ったようだしね。


「うん。それじゃあ、行こう。エルメダお姉ちゃん」


「うむ」


 僕たちは再び恋人繋ぎをして、『冒険者ギルド』へと向かった。



 そして、僕たちは『冒険者ギルド』に足を踏み入れた。


「なぁなぁ、あのちびっ子のお守りしている姉ちゃん……おっぱいデッカくないか?」


「あぁ……揉みごたえがありそうだぜありゃ……ケケケ……」


 横からそんなおじさん達の会話が聞こえた。


 やっぱりエルメダのおっぱい見ちゃうよね……僕も見たもん。


 だけどね……おじさん達……おっぱいを見過ぎちゃうと……目に毒が入っちゃんだよ!


 だから僕は、あのおじさん達のお目々を守らなければならない!


「とりゃぁあ!」


「り、リーユ! 突然何をするのだ!」


 僕がおじさん達を目を守るためにエルメダのおっぱいに抱きつくと、回りの人が一斉に僕たちを見た。


「僕は……! あのおじさん達を守らなきゃいけないんだ!」


「何を訳の分からんことを……もうよい! 行くぞ、リーユ!」


 そのままエルメダは、受付カウンターへと向かった。


「ふんっ!」


「あ、あの……えっと……」


 エルメダが受付にいるお姉さんに僕を突き出すと、当然の如くお姉さんは困惑する。


「あのね、魔物の素材を買い取って欲しいんだ。お願いできるかな? お姉さん」


「ま、魔物の素材の買取ですね。『ギルドカード』のご提示していただけますか?」


「あっ……」


 そう言えば、ストーリーの中でもらったな……『ギルドカード』。


 そうだ、これが無きゃ、魔物の素材を買い取ってもらえなかったんだ。うっかりうっかり……。


「実はギルドを利用したのが、今日が初めてだから持っていないくて……」


「そうですか……では、『ギルドカード』を発行する際に必要な情報をこちらに書いて下さい。後ろにいるお姉さまも登録されますか?」


「どうする?」


 そう尋ねると、エルメダはとても興味津々そうにしていたため、「姉の分もお願いします」と伝えた。


「かしこまりました」

 

 お姉さんは引き出しの中から二枚枚の紙を取り出し、ペンと共にカウンターへ乗せた。


 それを見て僕は、あることを思い出した。


 僕はエルメダにその確認をするために、エルメダの手の二回ほどタップすると、エルメダは僕を抱き寄せた。


「ん? どうしたのだ」


「エルメダお姉ちゃんってさ……字書けるの?」


「うむ、問題ない。我にできないことなど、この世に何一つないのだからな」


 その自信満々さが不安なんだよ……僕は。


「あの……どうかなさいましたか?」


 突然、こそこそ話をしたことで心配になったお姉さんがそう尋ねてきた。


 ど、どうしよう……僕がエルメダに字を書けるかどうかを確認していたら怪しまれる……主にエルメダが。


 自然な理由を考えないと……そうだ。


「カウンターが高くて、僕が書けないからどうしようってお姉ちゃんに相談してたんだ」


「あ~そういうことでしたか。でしたら―――」


 受付のお姉さんが僕たちのいる受付前にやってきた。


「わたくしが弟様を抱っこいたしますので、それでしたら書けると思います。抱っこしてもよろしいでしょうか?」


「うむ……」


 お姉さんの優しい気遣いに、エルメダはなぜか嫌そうな顔をした。


「お姉ちゃん……大丈夫だよ……」


 僕はエルメダの目を見て微笑むと、エルメダは溜息を吐きながら「わかった……今回だけだ」と言ってお姉さんに僕のことを渡した。


 そしてカウンターの上に乗っている紙に、名前から扱える武器や魔法をペンで記入していく。


「はい。よくできましたね……」


 そう言われて、お姉さんに頭をなでなでされる。


 しかし、エルメダの時とは違って、髪を優しく梳くような安心感のある、なでなでだ。


 僕はこっちの方が好きかも。


 エルメダはどうだろう? ちゃんと書けているのかな? 一応、確認しとこ。


 横をちらっと見てみると……こっちの世界の文字が書いてあったのだが……。


 字……汚いな……もう少し丁寧に書こうよ……エルメダ。


 書き直すよう、言われちゃうよ?


 そう思っていると―――


「お姉様も書き終えたようですね。これから『ギルドカード』を発行いたしますので、暫くお待ちください」


 お姉さん目線からしたら、特に書き直す必要は無いそうだ。


 えっ、あんな汚い字でも大丈夫なんだ。


 僕がその事実に驚愕していると、お姉さんは僕をゆっくりと降ろし、僕たちの書いた紙を持って奥の部屋に入って行った。


 どのくらいで『ギルドカード』はできるのかな? まぁ取り敢えず、空いている席を探そう……あった。


「エルメダお姉ちゃん。あそこのテーブルで待とう」


 僕は空いているテーブルを指差しながらエルメダを見ると、エルメダは頷きそのテーブルへ向かった。


 次の瞬間―――


「おい、姉ちゃ~ん。俺たちと遊ぼうぜ~」


「た~くさん、楽しませてやるからよ~」


「「ケケケケ……」」


 僕が守ってあげた、おじさん達がいた。









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