第24話

「起きて。ねぇ、起きて」


「ぐかー……むにゃむにゃ」


 ダメだな……体を揺すっても起きる気配がないな。睡眠深すぎるよ……エルメダ。


 はぁ……やっぱりお姉ちゃんたちの言う通り、一緒に寝ないで客室に寝かした方が良かったかな……。


 いや、でも万が一の場合があるからな……部屋を大破させたりとか……。


 想像しただけでゾッとする。


 しかし今は、エルメダを起こす策を考えなければ……そうだ!


 僕は仰向けでだらしなく寝ているエルメダの頭の横に両手をドンッ! 脇の下に両膝をドンッ! とセットする。


 そして、この床ドン状態プラス……。


「ふ~」


 耳元に顔を近づけ、息をふ~ふ~吹きかける。


 すると、


「ヒョエ!!」


 バチッとエルメダは目をかっぴらいだ。


「あっ! やっと起きてくれた! おはよっ、エルメダ!」


 僕がエルメダのほっぺを手でうりうりとすると、「ひ、ひしゃまはだへだ!」と言われてしまった。


 エルメダが僕のことを見て「誰だ」って言うのは仕方ないことだ。


 何せ、今の僕は―――≪変身魔法≫で色素の薄い茶髪に銀瞳という前世の姿に変わっているからだ。


「僕だよ僕! ユーリだよ!」


 そう言うと、エルメダは僕の両肩に手を置き上体を起こす。


「むぅ……確かに顔の造形はユーリじゃが……なぜ、髪と瞳の色を変えておるのだ?」


「えっ? 昨日言ったよ? 僕みたいな公爵家の者が王都に出歩いたら目立つし、周りの人に迷惑を掛けちゃうからって。だから、僕だとわからないよう、お忍びするために変装するって……本当に覚えてないの?」


「うむ。全く、覚えとらん」


「ズコー!」


 エルメダの衝撃的な記憶力の無さに、思わず僕は横に倒れた。


 結構丁寧に説明したんだけどな……その努力が全部泡となって消え去ったのか……。


 悲しい。


 でも、今は感傷に浸っている場合ではないのだ!


 気持ちを切り替えよう、ユーリ!


 僕は自慢の腹筋を使って、元の体勢へと戻る。


「エルメダ、さっさと着替えさせてあげるね」


「や、止めるのだユーリ! 恥ずかしいのである!」


 僕がエルメダのパジャマのボタンを外そうとすると、腕を掴み止められた。


「いいから、大人しくして! 僕は早く『冒険者ギルド』に行きたいの!」


 昨日からワクワクしてたんだよね……ゲームの世界が現実となって僕の瞳に映る!


 最高~~~っ!!


 なので、抵抗できないよう、エルメダを押し倒します。


「ゆ、ユーリ……この体勢は……マズいのである! 今すぐどくのだ!」


「ふ~ん、止めないもんね……おりゃりゃりゃ―――」


「ヒョエェエエエエエエエッ!!!」


 次々とボタンを外すと、その度にエルメダの叫ぶ声がクラリスタ家に響くのでした。



「はい、お着替え完了」


「うぅ……我の純潔を……ユーリが奪ったのである」


 なぜか、僕が平民服へ着替えさせると、エルメダはポタポタと泣き始めた。


 あっ、ちなみの僕はもう平民服に着替えてあるよ。これで僕は、普通の一般王都民として、いつでも忍べるのだ。


 それにしても、エルメダの言う『純血』って『純血主義』のことだよね。


 人間社会では……というより、僕はその当事者だよね、貴族だから。


 でもそっか、ドラゴンにもそう言った考えがあるのか……知らなかった。


 ……って、エルメダさっき全部忘れているって言ってたよね。


『冒険者ギルド』に行く前に、改めて僕たちの『設定』を話さないと。


「エルメダ。今から僕が言うことを、ちゃーんと聞いてね」


「うぅ……何であるか?」


 鼻水を服の袖でグリグリと拭うエルメダを、僕は苦笑いを浮かべて見ていた。


 せ、せっかくサーシャが一生懸命作ってくれた平民服が……。


 エルメダの幼稚園児のような行動をスルーして話を続けた。


「僕たちはこれから『姉弟』として王都に行きます」


「姉弟? 我が姉……ということか?」


「エクセレント、その通りです」


「むふふ……そうか、我が姉であるか……姉こそ我に相応しいのである……」


 どうやらエルメダは『姉』というポジション……というよりは、僕の『上の立場』になれたことに喜んでいるようだ。


「そして僕の名前は『リーユ』とします。僕を呼ぶときは、リーユと呼んでください」


「ん? どうしてだ? ユーリのままで良いではないか」


「それじゃあ、ダメなの。クラリスタ家の汚名は、完全に無くなっているわけじゃない。偽名はどうしても必要なんだ」


「ん~わからないのである~~~」


 エルメダは腕を組んで、おっきいおっぱいをボインボインさせて考える。


 エルメダは知らないよねー、ウチが『守銭奴貴族』だったこと。


「まぁ取り敢えず、僕のことをリーユって呼べばいいよ」


「うむ……」


 釈然としない様子で、エルメダは頷いた。


「よし、行こうか。エルメダお姉ちゃん」


「! うむ、行くのである!」


 僕が手を差し出すと、パーッと明るい笑顔でエルメダは手を重ねる。


 そして僕は、エルメダが迷子にならないよう、恋人繋ぎにして≪転移魔法≫を発動すると僕たちの足元に魔法陣が現れる。


「いざ、王都ソルアに……レッツゴー!」


「ゴーなのだ!」


僕たちがそれぞれ空いている腕を上げると、その瞬間僕たちはシュンッと転移した。



~あとがき~


宣伝をさせてください。


【電撃の新文芸5周年コンテスト】に参加している『極星の絶刀使い(略)』という作品を投稿しております。


宜しければ、こちらも応援していただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16818023212237167033


よろしくお願い致します。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る