第23話

「みんな集まったようだね。実はこの人は―――」


 僕は屋敷の前にあるお庭に集まったみんなに、サーシャと同じ内容の説明をした。


 ……でも、どうして。


 どうしてみんなは、「ん?」って何か引っかかるような顔をするの。


 ―――僕が役者モードに入っている時だけに。


 エルメダのことは、すんなりと受け入れているのに、どうして役者モードに引っかかるの!?


 変だよ、みんな!! 


 僕、一生懸命役作りをしたのに……!


 やはり僕は、この世界からしたら、ただの大根役者だったようです。


「うぅ……」


「ユーリ……この女性の事情は分かったのだが……」


 僕がポツリと瞳から涙を流していると、パパ上がそう言ってきた。


「どうしたの? パパ上」


「わざわざ、俺たちを屋敷の前に集めることではないと思うのだが……」


「そうよ、ユーリちゃん。屋敷の中でも十分事足りると思うわ」


 最近ダイエットを始めようとするも一歩を踏み出せないパパ上と、厚化粧を止め美人と化したママ上にそんな疑問を投げられた。


 僕はニヤリ、と口角を上げた。


 なぜなら、僕が望んでいた展開へとつながる疑問だからだ。


 だが、それと同時に悲しい気持ちにもなる……。

 

 そこにはちゃんと疑問を持つんだ、と。


 しかし、今はそんな感傷に浸っている場合ではない!


 いざ、行くのだ!


「ふっふっふ……それはね―――」


 涙を止め、僕は右に手を伸ばして≪収納魔法≫を発動し、大きく空いているスペースに巨大な魔法陣が現れる。


 そこから出てきたのは、ダンジョンで倒した魔物や採掘した鉱石たちだ。


 その間、みんなは驚愕の声を上げるが、ゴーレム・サーペントの首がドンッと出てきた時はもっと声が上がった。


 ―――作戦成功、ついでにサプライズも成功。


 究極完璧にミッションコンプリートだ。


「どうだい? みんな……スゴイだろ?」


 僕がめちゃくちゃカッコ良くポーズを決めると、突然お姉ちゃんたちとサーシャが、僕の前にスススッと早足できた。


「ん? どうしたの?」


 僕は不思議そうにみんなを見ていると―――


「わぁあああっ!」


 胴上げされた。しかも、すごく高い。


「凄いぞ、ユーリ……! ぐすっ……お姉ちゃんは感動しているぞ……!」


「ぐすっ……ユーリ……強くなったんだね……」


「ユーリぃいいいいいっ!! 頑張ったのねぇええええええっ!!」


「ユーリしゃまぁああああっ! あなたはどれほど、高みにいるのですかぁあああああっ!!」


 セリスお姉ちゃんとアリスお姉ちゃんは、綺麗な涙を流して僕を褒めてくれているけど……。


 ミリスお姉ちゃんとサーシャは……その……うん。


 少し過剰過ぎないかな? 


 それだけ喜んでいるのは伝わるけど、年上らしく落ち着いて褒めて欲しいかな? 


 二人みたいに。


 というか、ミリスお姉ちゃん胴上げに参加できていないよ? 


 それ、ただ泣き叫んでいるだけだよ?


「おぉおおおおっ! 凄いではないか……ユーリ!」


 パパ上の一声で、胴上げが止まった。


 その瞬間、僕は空中に舞い上がっていたが、セリスお姉ちゃんが僕を抱っこしてキャッチをした。


「ユーリ……うふふ……」


「せ、セリス姉さん……ユーリを渡して……」


「そうよ……セリスお姉様……今すぐ私にユーリをお渡しになって下さい……」


「セリスお嬢様……無礼を承知で申し上げますが……私にユーリ様をお譲りになって下さい……」


「うふふ……いくら義理の姉とはいえ、流石に無視することはできません……私の旦那様を返してください……」


「? 何を殺気を放ちあっているのだ? お主ら」


 頬ずりをするセリスお姉ちゃんに詰める寄る、状況をよく分かっていないエルメダ以外の女性ら。


 そして、その女性たちは……雄たけびと共にセリスお姉ちゃんに飛びかかった。


 その衝撃で、スタリと両手をV字にして体操選手のような着地をした僕。


「凄いでしょ、パパ上、ママ上! 褒めて褒めて!」


 僕は両親の元へと駆け出した。


 ……後ろの戦いから、逃げるように。


「あぁ、凄いぞユーリ……。なぁ、リリス……」


「えぇ、そうね……。おほほほほっ!」


 パパ上が悪い顔をしながらママ上に尋ねると、ママ上は悪役みたいに高笑いをした。


 いや、悪役なんだけどね、元々は。


 でも、二人の反応を見る限り僕が強くなったことを褒めてはいるのだが……少しだけ違和感を抱いた。


 次の瞬間―――その正体が判明した。


「これを王都ソルアにある『冒険者ギルド』で買い取ってもらえば……我々の資産力が爆増するぞ……」


「あぁ……! たまらないわ……!」


「あー……」


 完全に目がキマッている両親を見て、僕はそう呟いた。


 そういうことね、パパ上とママ上が異様に喜んでいるわけが。


 お金、てなわけだ。


 それにしても気になるんだけど……資産力って何? 


 戦闘力みたいに表現しないでよ。


 ……と、ツッコみたい気持ちが溢れるが、何とかして抑えた。


 どうやら両親は、未だに改心ができていないからね。


 そっちを修正する方が、最優先だ。


「パパ上……ママ上……ちょっといいかな?」


 僕が貼り付けた笑みで告げると、両親はビクッと体を震わせた。


 二人とも、これから僕が何を言うか見当がついているみたいだ。


「ゆ、ユーリ……? 違うんだ、これは……」


「そ、そうよ……。私たちはもう二度と、醜い金なんかに目を眩んでいないわ……信じてちょうだい……ねぇ?」


 両親は引きつった顔のまま「あは、あはははっ」と苦笑いをする。


 それを見て僕は、偽物の笑顔から―――本物の笑顔へと変える。


「うん、偉いね! ちゃんと僕の言ったことを覚えていてくれて、パパ上、ママ上!」


「……っ! ユーリ!」


「ユーリちゃん!」


「「うわぁああああああん!!」」


 すんごく泣いているパパ上とママ上が、一斉に僕を抱きしめる。


 勿論、ちゃんと反省したみたいなので、ご褒美として僕も抱きしめ返す。


 う~ん、どうしよかな? 


 丁度いい機会だし、僕も冒険者デビューしようかな?


 ストーリーが狂わないくらいにクエストをこなしながら。


 それに、エルメダにも人間社会についても学べる。


 一石二鳥だ。


 なら、後でエルメダに話しておこーっと。



【お知らせ】

本日から不定期更新とさせていただきます。


申し訳ありません。


電撃文芸に応募する新作小説を投稿しました。宜しければ、こちらの応援もよろしくお願い致します。↓


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