第22話

「―――この作戦で行こう」


「はい、承知しました」


「わ、わかったのである……」


 本当に大丈夫かな? 伝わっているかな……エルメダ。


 まぁ、何かあったら僕が対応すればいいだけの話。なるようになるさ。


 ……多分。


「それじゃあ、二人とも僕の手を掴んで」


 僕がそう言うと、エルザは僕の右手を恋人繋ぎをして掴む。


 一方、エルメダは僕の人差し指をちょこんと指先の方をつまんだ。


「エルメダ、それだと≪転移魔法≫から外れるかもしれないからちゃんと掴んで」


「むふーっ!」


 僕ががっしりとエルメダを掴むと、エルメダは顔を真っ赤して変な声を上げた。


「行くよ! ≪転移≫ッ!」


 僕は≪転移魔法≫を発動すると、僕たちの足元に魔法陣が浮かぶ。


 その瞬間、僕たちのビュンッと一瞬の残像を残してから完全に姿が消えた。



「よし、到着」


 僕たちは僕のお家こと―――クラリスタ家の玄関の前に到着した。


 そして、僕は二人の手を離し、真っ直ぐ目を見る。


 作戦を遂行させるためのシンクロ率を上げ、僕の魔法でエルメダの角と尻尾が見えていないのチェックするためだ。


 二人は僕の意図に気づき、エルザは小さく頷き、エルメダは「消えておるぞ!」と激しく何度も頷いた。


 ……やっぱり、ダメなのかな?


 そんなエルメダを見て、不安感が強くなりサポートが上手くできるか心配になった。


 だけど、もうすでに目的地へと来てしまったため、後を引き返すことはできない。


 ―――やるしかない。


 決心のついた僕は、玄関へと振り返り、玄関のドアノブを握る。


「ふー……」


 深呼吸をして、「ただいま!」と同時に勢い良く玄関を開ける。


「あっ、おかえりなさいませ。ユーリ様」


 そこには、ほうきとちりとりを持ち、玄関を掃除していたサーシャがいた。


 僕は内心、「ひゅー、やったぜー!」とガッツポーズを取った。


 いきなり複数人にエルメダを紹介するのは、リスクが高いしサーシャは小手調べに最適な人だから当たりだ……運がいい。


 すぐさま僕は、大御所俳優かの如く、役者モードとなり作戦を実行する。


 僕は隣にいるエルメダの手を掴み前に立たせる。


「ア、アノネ、サーシャ、コノヒト、モリノナカデ、タオレテイタンダ、シカモ、キオクガナイミタイナンダ《あのね、サーシャ。この人が森の中で倒れていたんだ。しかも、記憶が無いみたいなんだ》」


「この女性の方が記憶喪失で、森の中に倒れているのはわかりましたが……ユーリ様、そのゴーレムみたいな話し方は何ですか?」


「ギクーッ!!」


 どうやら僕は、迫真の演技しようと心掛けるとゴーレムみたいな口調になるようです……知りませんでした。


 というか、この世界ではロボットみたいな話し方のことをゴーレムって例えるのか。


 ―――変なたとえ。


 すると、エルザが僕の耳元に顔を寄せ「ユーリ様、続きを」と囁いた。


 そうだった、まだこの作戦は終わっていない。


「サーシャ、お願いがあるんだけど」


「あれ? 元の口調に戻りましたね」


 それはスルーしてよ! 


 僕は口元に拳を当て、こほんっと咳払いをする。


「この人、自分の名前は憶えていて―――エルメダっていうんだけど、この人をここのメイドさんとして雇いたんだ」


「う、そ……」


 サーシャが手に持っているほうきが床に落ちた。


「さ、サーシャ……大丈夫?」


 瞳からは光が消え、呆然と立つサーシャの側に寄る。


「わ、私はユーリ様のメイドとして不要ということですか……?」


「えっ? もしかしてサーシャ……クビになると思っているの?」


 僕が小首を傾げて尋ねると、サーシャは顔をハッとした。


「……違うのですか?」


「違うに決まっているよ。ただエルメダには……キオクヲ、オモイダスマデノ、アイダ、コノイエデ、ハタライテ、モラオウト、オモッテイルダケダヨ《記憶を思い出すまでの間、この家で、働いてもらおうと思っているだけだよ》……サーシャのことはぜ~ったいにクビになんかさせないよ!」


 僕は両手を腰に当て、ほっぺを膨らまし、少しだけプンプンと怒りサーシャを見上げた。


「……ユーリ様」


 サーシャの目から光線のようなギラーンッとした光が見えた。


「さ、サーシャ……」


 それを見て怖くなった僕は後ずさるが……。


 ガシッ!


 サーシャに腕を掴まれそのまま―――


「フーンっ!」


「ふがっ……」


 僕の小さな体をガッチリとホールドするように抱きしめてきた。


「な、何であるか……あれは」


「さぁ、分からないわ。……でも、私も負けてられないわ―――」


 背後からそんな会話が聞こえると、僕の背中に誰かが抱きついてきた。


「わ、我を仲間外れにするなー!」


 続いて誰かがまたも僕の背中に抱きついてきた。


「むぐっ……!」


 しばらくの間、僕の息止め合戦が続いた。



「はぁ……っ……はぁ……」


「何をそんなに息を荒くしておるのか?」


 君たちのせいだよ! 君たちの!


 しかし僕は、そんなツッコミをする余裕など無いほど……僕は三人に圧迫をされ、何とか帰還して来た。


 そして、目を瞑り「ふー……」と息を吐き、呼吸を安定させる。


 サーシャだけでなく、他のみんなにもエルメダのことを紹介しないと。


 僕は顔を上に上げ、悟りを開いているかのように佇むサーシャに話しかける。


「サーシャ、屋敷にいるみんなのことを呼びに行ってくれない? エルメダのこと、紹介したいんだ。あっ、集合場所は屋敷の外ね」


「……ハッ! わ、わかりました! すぐに呼んできます!」


 サーシャは慌ただしく、駆け出して行った。


 サーシャがエルメダのこと受け入れたから、意外とすんなり、上手くいきそうだな。


 これならノーミスクリアで作戦を終えることができる。


 それと……むっふっふ……僕からのサプライズにどう驚くかが楽しみでならない……。


 僕は悪だくみをするような笑みをして、再び玄関を開け外に出た。


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