第20話

 突然現れたこの美人なお姉さんは誰なんだろう……?


 頭には角が生えているし……お尻にはトカゲの尻尾を太くしたような尻尾……。


 それに何だがあのお姉さんの声……聞き覚えがあるんだけど……。


 そんなことより一番気になるのはあれだよね。


 あの―――


「おっきいおっぱい!」


「あんなものを見てはいけません」


 なぜか僕が気になったことを口にしただけなのに、背後からエルザに手で目隠しされた。


 目の前が真っ暗だ。でも、エルザのひんやりとした手が……とても気持ちいい。


「どうして目を隠すの? エルザ」


「あのような脂肪の塊を具現化した胸を見てはいけません。ユーリ様の目には大変な毒となります」


 一瞬、僕の身体がビクンッとなった。……途轍もなく、恐ろしいことを聞いたから。


「い、今……エルザは何て言ったの……?」


 恐怖で声を震わせながらエルザに尋ねた。


「目には―――毒と私は言ったのです」


「………」


 聞き間違えじゃなかったぁああああああッ!! 

 

 その事実を知った瞬間、さらに僕は身体を震わせた。


「どうしよエルザっ! 僕、おっぱい見ちゃったから目に毒が入っちゃったよっ! うぅ……!」


「大丈夫ですよ……ユーリ様」


 パニックに陥る僕にエルザは優しく耳元で囁いてくれた。


 それによって、少しだけ落ち着きを取り戻した。


「エルザ……」


「その目に入った毒を解毒するには―――私の胸を見たり、触ったり……ぺろぺろする必要があります」


「そうなの?」


「はい……ですので―――」


 僕は目隠しを外された、と認識する前に、エルザによって凄まじい速度で振り向かせられた。


 そして―――


「っぐ!」


「今すぐ、治療しましょうね……」


 エルザは僕の頭を抱き寄せ、グリグリと回しながらおっぱいに顔を埋めさせられた。


「エル…っぷ……ザ……っぷ……」


「あ~ん! ユーリ様~!」


 エルザのおっぱいグリグリがスゴすぎて言えない。


 「これ本当に治療だよね?」って!


 それに、エルザが段々と動きを大きくしてエルカレートしていってる!


 夢中になっているとしか思えないんだけど!


「貴様ら! また我の前でイチャつきとは何様のつもりじゃ! この最強の竜である翡翠竜エルメダ様に不敬であると分からぬ―――」


「静かにしていただけませんか? 今は私とユーリ様が愛の営みをしている最中なのです……邪魔しないでください」


 頭上から、今まで聞いたことのないような冷たい声が聞こえて来た。


「ヒィイッ!! 怖い、怖いであるよ!」


 その声がお姉さんに襲い掛かり、悲鳴を上げる。


 きっとお姉さん、涙目になっているだろうな……と、顔を見なくても分かった。


 にしても、さっきのこと相当根に持っているね、エルザは。


 僕のために怒ってくれるのは嬉しいには嬉しいんだけど……あの竜、エルメダって名前なんだ……。


 初めて聞いた名前でしかも、≪人化≫もできる……そんな設定、≪NTR≫の竜にあったんだ。


 知らなかった……イレギュラー的存在なのかな?


 いや、今はそんなことを考えても仕方ない。


 エルメダが可哀想になってきたから助けないと。


 僕はエルザの背中を軽く手でトントンと叩いた。


「あっ、ごめんなさいユーリ様。治療の途中でしたね? 今すぐ治療の再会を致します」


「う、ううん、大丈夫だよ。エルザの治療のおかげで毒が無くなったよ」


「そ、そうですか……。もう少しだけ治療を施したいのですが……」


 エルザはそっと抱き締めていた腕を解き、僕の身体を離した。


「ありがとうエルザ」


 そう言って、僕はエルメダへ体を向けた。


「自己紹介がまだだったよね? 改めまして、僕はユーリで隣にいるのがエルザ。よろしくね」


 僕はエルザの胸に顔を押し潰されたことでぼやけた視界の中、エルメダと思わしき人に笑顔を向けて手を伸ばした。


 すると、またエルザが僕の目に毒が入らないように手で目を覆い隠してくれた。


 ファインプレーだよエルザ。僕はすっかり、そのことを忘れていた。


「貴様……何だその手は……」


 エルメダは、僕が手を差し出した理由が分からないそうだ。


「友達になろうってことだよ! そ・れ・と、僕は貴様じゃなくて、ユーリ! ちゃんと名前で呼んで! ほら」


「ゆ、ユーリ……」


 エルメダは恥ずかしいのか、尻すぼみになりながら僕の名前を呼んだ。


「うん! 名前を呼べて偉いね! それじゃあ、友達記念として……エルザ、目隠し外してくれる?」


「それはできません。また、ユーリ様の目に毒が入ってします。いくらユーリ様のお願いとはいえ、できかねます」


 ま、まさかそんなすぐに断られるとは……。しかもキッパリと。


「大丈夫、目を閉じたままだから……ね?」


 そう言うと、エルザは少し沈黙したのち溜息を吐いた。


「わかりました……」


 エルザがゆっくりと僕の目から手を離した。


「ありがとう、エルザ」


 僕は先ほど宣言した通り、目を瞑っている。


 そして、前が見えないので慎重に地面の感触を頼りに歩き始める。


「ゆ、ユーリ……何をするつもりなのだ?」


「何って、決まっているじゃん―――」


 僕はエルメダの目の前に立ち、


「友達の証として―――ぎゅ~するためだよ」


 エルメダの細い腰に腕を回し、ほっぺたをお腹にくっつけて抱きついた。


「ゆゆ、ゆゆゆユーリ……と、ととと突然なにを………!?」


「―――もう一人ぼっちじゃないよ……僕たちがいるよ……エルメダ」


「ヒョエエエエエエエエエエッ!!」


 お腹に僕の吐息がかかったことがくすぐったかったのか、身体を大いに振動させるエルメダ。


 僕はその振動を抑えるために更に強く抱きつく。


 すると―――


「ヒョエエエエエエエエエエェエエエエエエッ!!!!」


 先ほどよりも、エルメダの騒音が大きくなるだけであった。




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