第18話
確か、≪NTR≫に出てくる竜は、赤、青、金、銀、白、黒の六種類の竜がいて、その竜たちは―――六神竜と呼ばれているんだけど……。
どうして、このダンジョンには緑色の竜がいるんだ?
緑色の竜がいるだなんて、見たことも聞いたことない。
あの竜は一体……何者なんだ……?
「人の子よ……なぜお前たちのようなここにいる……」
突然、頭上から声が聞こえ僕の意識は現実へと引き戻される。
そして、その声の主が目の前にいる緑色の竜だということが分かった。
≪NTR≫でも竜にセリフがあったから、この竜も同じなのだろう。
しかし僕は、緑色の竜の声に違和感を抱いた。
……この竜、つまらなそうで退屈そうにしているなぁ。そんな気がした。
「ゆ、ユーリ様……! あ、あああの竜、喋り始めましたよ……!」
パニック状態になりながら、エルザは肩を震わせ緑色の竜に指を差した。
「そうだね。エルザ、一応、危ないから後ろに下がってて」
「わ、わかりました……」
僕が冷静に言ったことで、エルザも少しだけ冷静さを取り戻した。それから、腕の裾を掴み僕の背中へと隠れた。
……いきなり攻撃される可能性があるから僕がエルザを守らないと。
「どうして君はそんなところにいるの?」
「どうして……か」
緑色の竜は口を閉ざし沈黙した。その間、エルザの「ブルブル―――」と、人力バイブレーションの音だけがこの空間に響いた。
勿論、僕もそのバイブレーションが伝わり一緒にブルブルしていた。
緑色の竜は思考の末、口を開いた。
「我と対等となる存在が現れぬからだ……。だからこうして、この世が滅びる時を待っているのだ……。長い間な……」
今度の声は落胆のような感情も含まれていたが……一番に感じたのは寂しさだった。
「………」
ずっと……長い間こんな暗い空間にいたら寂しいよね……。
誰だって竜だって……そんなの関係ない。この寂しさを感じてしまうのは……。
僕もそうだ……今はこの世界の家族と仲直りして毎日幸せな日々を過ごしているけど……。
ふと、思い出すんだ……前世のお姉ちゃんのことを。そしたら「会いたい」って、どうしても思ってしまう。
会えないと頭の中では分かってはいるけど……心ではどうしても分からなかった……。
いや、分かりたくないと言った方が表現が正しいか……。
つまるところ、僕が何を言いたいのかと言うと―――緑色の竜の気持ちがよく分かるってことだ。
だから、この竜の寂しさを受け止めたい。
そして、この世界はつまらなくなんかない、きっと君と対等な存在がこの世界にはいる。
それが―――僕だってことを!
僕が顔を見上げて緑色の竜の瞳を真っ直ぐに見る。
「……何だ、人の子よ」
僕の視線に気づき、緑色の竜が再びつまらなそうな声色に戻っていた。
「君はこの世界に対等な存在はいないって言っていたけど……それは違うと思うよ」
「どういうことだ」
ここで初めて緑色の竜が感情を露わにした。
―――敵意という感情を。
しかし、僕は怯まない。むしろ……尚更、歩み寄りたくなった。
「君の対等な存在が目の前にいるじゃないか」
「「はっ?」」
どういう訳か、エルザと緑色の竜の声がハモった。
「えっ? どうして二人とも声がハモるの? 僕、何かおかしいこと言った?」
「おかしなことと言うか……何というか……」
エルザは混乱し、
「貴様……自分が何を言ったのか分かっているのか……。この我と対等だと―――ふざけるなッ!!」
緑色の竜はものスゴく怒っていた。
そして緑色の竜は続けて―――
「フンッ!!」
その大きな翼で僕たちを攻撃しようとした。
「よいしょ、飛ぶよ」
「わぁ~~~~っ!」
僕は後ろ振り返りそのままエルザをお姫様抱っこして跳躍した。
それから、エルザをお姫様抱っこから降ろした。
「エルザ、どうやらあの竜は激怒ちゃんだから、ここで待ってて。ちょっくら戦ってくるよ」
「ですが、ユーリ様―――あれに勝てるのですか?」
エルザが不安気な瞳で僕を見つめた。
いくら僕の力を間近で見たエルザだとしても、さすがに竜には勝てないって思っているのか。
そう思ったら不思議と僕は「ふふ……」と微笑んだ。
「大丈夫だよ、心配しなくても。というか、そもそも僕は、あの竜に勝つつもりはないよ」
「? どういうことですか?」
エルザが不安から疑問へと変わり小首を傾げた。
「ほら、さっきも言ったでしょ? あくまで対等って知ってもらうことが目的だよ。だから―――そのために今から戦うよ僕は」
「ユーリ様……! はい、私はユーリ様を信じます!」
エルザは力強い眼差しで笑顔を僕に向けた。
それを見て僕は「うん」と頷き、緑色の竜へと振り返る。
「いってきます。エルザ」
「いってらっしゃいませ。ユーリ様」
その言葉を受け取って僕は歩き出した。
「………」
「………」
僕と緑色の竜は暫くの間、互いの瞳を見て沈黙していた。
その沈黙を破ったのは―――
「いくぞッ!!」
僕からだった。
僕は身体強化魔法を使って、一気に駆け出し跳躍する。
「はぁああああああッ!!」
そして、緑色の竜の額に向けて剣を振り下ろす。
………が。
「ッ!! 刃が通らないッ!!」
自分の渾身の一撃が全く通用せず驚愕した。どれだけ刀身に力を込めても刃が通る気配が無い。
「ハッ、その程度の力で我と対等だと……心底期待外れだぞ―――小僧ッ!!」
緑色の竜が大きく首を振った。
「かはっ……!」
「ユーリ様!!」
それによって、僕は思いっきりダンジョンの岩壁がめり込むほど、身体を打ち付けられ一瞬、呼吸が止まった。
その後、エルザの悲痛な叫び声が上がると同時に、体がゴロゴロと地面へと落ちて行った。
「くっ……! はぁ……はぁ……」
僕はうつ伏せに倒れ、たった一度の攻撃で虫の息になるが、自分の胸に手を当て≪回復魔法≫を使った。
……これで大分マシにはなったけど、強すぎるんじゃないかなあの竜。
僕は口角を無意識に上げ、緑色の竜を見た。
どうやら僕は、初めての強敵に楽しんでいるようだ。
「何をニヤついているのだ……気持ち悪い。今すぐその生意気な面を消し炭に変えてやろう」
そう言った直後、何の前ぶりも無く口から真紅の炎―――≪ドラゴンブレス≫を放った。
「おととっ!」
僕は地面をローリングして転がり≪ドラゴンブレス≫を避けた。
そして僕は反撃をすべく、片手を緑色の竜に向ける。
「≪メテオ・レイン≫ッ!!」
緑色の竜の頭上に巨大な魔法陣が現れ、大量の隕石が緑色の竜へと落ちていく。
隕石が緑色の竜にぶつかり、煙幕がこの空間を覆った。
僕が今放ったのは、現時点での最高火力の魔法だ。
単純に≪召喚魔法≫で隕石を召喚しただけだけど、その単純さとは裏腹に威力は絶大だ。
さすがにこの攻撃は、いくら竜だとしても耐えられるはずが無い。
僕は緑色の竜と対等になれたことを確信した。
それに―――
「凄いです、ユーリ様!! ユーリ様は竜と対等に―――いえ、竜以上の存在です!! 私、感服いたしました!!」
エルザが大きくパチパチと拍手をして僕を讃えてくれる。
やはりエルザも僕と同様の気持ちだったようだ。
「いやーそれほどでも!」
僕はエルザの称賛の言葉によって、何だかむずがゆくなり、身体をもじもじとしながら後頭部を軽く搔いた。
次の瞬間、
「―――誰が、貴様と対等だと言った?」
そんな冷徹な声と共に、何かによって発せられた風により煙幕が吹き飛んだ。
「うっ……」
「きゃっ!」
僕とエルザはその強風により腕を顔の前に持ってきて防いだ。
「まぁ、この程度で終わるわけないか」
風が収まり、ようやく声の主を見ることができた。
そこには僕の予想通り―――緑色の竜がいた。
しかし、
「! そんな……! そんなの嘘です!! どうして、あの竜は―――なぜ傷一つ負っていないのですか!」
緑色の竜は、僕の最大魔法を直撃したのにも関わらず、傷一つ負っていなかったのだ。
だからエルザは、その事実を否定するように叫んだ。
「我があの程度の魔法で倒れるわけがなかろう……。いい加減、この戦いも飽きて来た……終わらせるとしよう」
再び緑色の竜は口の中に炎を溜めた。
チャージしているってことは、さっきよりも高火力な≪ドラゴンブレス≫を放とうとしているのか。
「…………」
―――詰んでいるじゃないか。
僕は諦めたような笑みを浮かべてそう思った。
だって! 斬撃も通じないし! 魔法も通用しないんだよ! そんなのもう無理ゲーだよ! 転生ライフ一年で終了だよ!
もう命のカウントダウンが始まっちゃったよー! 僕、まだまだ生きてやりたいことがあるんだよー!
そう異世界ライフに未練を持った瞬間―――僕の脳内に救いの声が聞こえた。
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