第17話

 結局、≪斬撃波≫はでは岩を取り除くことができないと判断した僕は、普通に斬撃を放ち岩を破壊して通り道を作った。


「……進もうか」


「は、はい……」


 僕がとぼとぼと歩くと、エルザに心配されながら後ろへついて行った。


 そして、ダンジョンの下の層に辿り着くと、再び魔物の集団を見つけた。


「あれは魔物の集団ですね……。どうしましょうか? ユーリ様」


「………」


 エルザの問いかけに僕は答えず考えていた。


 もうここで≪月〇天衝げつ〇てんしょう≫をすることはできないんだ……。


 ずっと憧れていた必殺技が役に立たないなんて……。


 余りに悲しい現実だ……。


 そんな、悲しみによる反動からか―――


「アッハッハッ……アッハッハッハッハッハッ!!!!」


「ゆ、ユーリ様……?」


 今までこんなに笑ったことがないほどに笑った。


 要するに……壊れてしまったのだ。


「ビュンッ!!」


「ユーリ様! お一人で戦うのは危険です! 引き返してください!」


 突然、魔物の集団に向かって突っ走る僕を、エルザが静止するように叫ぶが関係無い。


 僕は止まらず、進み続けた。


 どうしてかって……。


 そんなの……この悲しみを忘れたい、この悲しみを塗り潰したいからに決まっているじゃないか!


「アハハハハハッ!!」


「グギャアアアアアアッ!!」


 僕は魔物の集団に飛び込み斬った。


 斬って斬って―――斬りまくった。


 すると、いつの間にか大勢いた魔物が僕の回りに倒れていた。


「あれ? 視界が赤い……」


 僕が腕で目を擦ると、服に赤い液体だ付いていた。


 どうやら僕は、斬った瞬間に魔物の返り血を浴び続けていたようだ。


 しかも、そのことに気づかないほど集中し戦っていた。


「ユーリ様、汚物どもの返り血が綺麗なお顔についておられますよ」


 後ろを振り向くと、エルザが真っ直ぐ僕の元へ近づいて来た。


 ……地面に落ちている魔物の目玉や何やらを踏み潰しながら。


「エルザ……」


 足元血だらけだよ? とそう言う前に、


「お顔、お拭き致しますね?」


 エルザがハンカチを僕の顔に当てて血を拭ってくれた。


 その最中、ずっとエルザの血だらけの足元を見ていたけど気にならなくなった。


 なぜなら、今回は前回のような失敗をせずに魔物を倒せた。


 ということは―――ついに念願の魔物の素材採取ができるからだ。


 今、僕の頭の中はそのことで一杯だ。


「ふふ……。ユーリ様、拭き終わりましたよ」


 エルザが満足気な顔をしてから、レイピアでシュンシュンッとハンカチを突き刺し原型を失くした。


 僕はそれを感心しながら眺めていた。


 どうして、ハンカチを突き刺したのか分からないけど、スゴい剣速だ。修行の成果が出てるね。


「ありがとう、エルザ。早速、魔物の素材集めをしようか」


「はい、ユーリ様」


 僕は≪収納魔法≫から採取用のナイフを二本取り出した。


「これが素材採取か……感動だ……!」


「ふふ……。良かったですねユーリ様……」


 そうして、念願の採取を始めた僕はエルザに微笑まれながら採取を終えて≪収納魔法≫に素材を全て納めた。



 魔物を倒しながらダンジョンを下へ進んでいくと―――ある場所へと辿り着いた。


「この場所……多くの種類の鉱石がありますね」


「うん。見たところミスリルやオリハルコンがあるね……。どれも中々お目にかかれない貴重な鉱石だ」


 こんな物語の終盤に出てくる鉱石があるってことは、そろそろダンジョンの最下層に近いのかな?


 思えばかなりの間、下へと進んでいたからここに来るのも不思議じゃないか。


 でも、鉱石には余り興味が無いんだよな……。


 魔物とかをバッタバタ倒す方がカッコイイし楽しい。


 だけど一応―――


「エルザ、鉱石も採取しようか」


「はい」


 お金になるから採取して集めておくか。


 そして、≪収納魔法≫でピッケルを取り出し、二人で黙々と鉱石採掘した。


 その間に僕は、こんなことを考えていた。


 ここに来るまで、徐々に出現する魔物のレベルが高くなっている。


 果たして、エルザを守りながら戦えるだろうか。


 いや、守れることは当たり前だ。考える必要は無い。


 最も考えるべきは―――ダンジョンボスはどんな魔物なのかだ。


 どれだけ強いのだろうか?


 どれだけ苦戦するだろうか?


 まぁ……いずれにせよ。


「あはっ」


 早く戦ってみたい。


 鉱石採掘を終えて先へ進むと、僕の予想通り十分くらい進んだところで最下層に辿り着いた。


 それも、ダンジョンのゴールと思わしき扉の前に。


 しかし僕たちは、その扉を開けられず岩陰に身を隠していた。


 なぜなら―――


「な、何でしょうかあの大蛇は……! 大きすぎませんか……!」


 今まで魔物に対して怯えていなかったエルザが、小さく体を震わせて怯えていた。


 そんな意志の強いエルザが怯えるのも無理はない。


 あの魔物は名は―――ゴーレム・サーペント。


 全長が30mと巨大で、ゴーレムのような装甲を体に覆った大蛇だ。


 序盤に戦ったジャイアント・ベアーの6倍の体の大きさを持つ魔物。


 そして、体の大きさに見合った強さで、物語の終盤に出てくる強い魔物だけど……。


 この魔物には全身がゴーレムの装甲で隙が無いように見えるが―――ちゃんと弱点がある。


 そうじゃないと、誰もゲームをクリアできなくなるからね。


 僕は岩陰から体を出し一直線に駆けだす。


「ユーリ様っ!!」


「シャアアアアアアッ!!」


「大丈夫だよ、エルザ。僕は勝つさ!」


 そう走りながら、心の中で絶叫するエルザに返事をする。


 ゴーレム・サーペントが、僕に威嚇をして口から毒液攻撃の準備を始める。


 その攻撃……意味無いよ。


「はッ!」


 僕は左右の壁と天井を利用して、縦横無尽に動き回った。


「シャアアアア……」


 ゴーレム・サーペントはそんな僕を攻撃しようが、僕の動きが早すぎるため首を動かすことしかできず攻撃の照準が定まらない。


 ゴーレム・サーペントの弱点は、装甲の隙間だ。


 そこに剣で斬り込めば―――コイツを倒せる!



 僕は自慢の動体視力で弱点を探し見つけた。


 ドンッ!っとゴーレム・サーペントの斜め上から壁を蹴り、首元の装甲の隙間を狙って一閃を放つ。


「はぁあああああッ!!」


「シャアアァアアアアッ―――」


 ゴーレム・サーペントが断末魔を上げると、首がバタンッと煙を立てて落ちて行った。


 それからすぐに≪収納魔法≫でゴーレム・サーペントの首を回収し、腰に携えている鞘に剣を収めた。


「ユーリ……様……」


「エルザ、もう大丈夫だよ。さぁ、行こうか」


 僕は呆然としているエルザに手を差し伸べた。


 すると―――


「ユーリ様っ!」


「おっと、危ないよエルザ」


 エルザが僕の手を引き寄せて抱き締めて来た。


「怖かったです……! 私たちここで死んでしまうのではと……! 本当にそう思ったのです……! なのにユーリ様は……もう!」


「あはは……。ごめんね、エルザ。……これで許してくれる?」


 ほっぺを膨らませて可愛く怒るエルザに、僕はその綺麗な白髪の髪を梳くように優しく撫でる。


「ふふふ……」


 エルザは気持ちよさそうに目を細めて二マニマしていた。


 良かった、機嫌が直ったようで。にしても、怒られるとは思いもしなかった……。


 次からは心配をかけすぎないよう気を付けて行動しないと。


「エルザ」


「はい?」


 エルザから体を離し告げると、エルザは目を丸くした。


「そろそろ、進もう。ゴールはもう目前……あと少しだ」


「……ここまで来たら最後まで駆け抜けるしかありませんね。行きましょう、ユーリ様」


「うん」


 僕とエルザは互いの気持ちが通じ合わせ扉の前へ向かった。


「……開けるよ」


「はい、どんな敵がこようとユーリ様が倒してくれると信じています。ですから……大丈夫です」


 エルザの笑顔を見て扉を開ける決心のついた僕はその重厚な扉を開けた。


「く、暗いですね……。前が見えないです……」


「エルザ、僕から離れないように気を付けてね」


 僕はエルザを離さないように手を繋ぐ。


 そして、ゆっくりと警戒しながら前へ進むと周囲の壁に松明があったらしく火が灯った。


 そのことで、視界がハッキリと見えたのだが……。


 目の前にいる何かに僕たちは気づいてしまった。


「あ、あの……。ユーリ様……あれって……」


「うん、あれは―――竜だね」


 震えながら指差すエルザにそう告げた。


 しかし、全てを知ったように告げたが、頭の中ではこう考えていた。


 緑色の竜なんていったっけ?



【お知らせ】

本日から2日に一話投稿となります。

よろしくお願いします。





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