第16話
「これって、あれだよね……?」
「はい、ダンジョンのようですね」
エルザがさらっと発言した。
僕とエルザが森の中でお散歩デートをしていて森を抜けたんだけど、その先に下へ続く石造りの階段―――ダンジョンの入り口に辿り着いた。
確かに、エルザの言う通りあれはダンジョンなんだけど、こんなところにダンジョンってあったっけ?
一応、≪NTR≫のやり込み要素を隅々までプレイしたから、本来だったらこのダンジョンのことも知っているはずだけど全く知らない。
一体このダンジョン何なんだ?
……と、普通なら疑問を浮かべるだろうが僕は違う。
だって知らないんだよ?
未踏で未知のダンジョンなんだよ?
そんなの……そんなの……!
―――め~っちゃ面白そう!!
「エルザ! 中に入ってみよ!」
「ふふふ……。はい、ユーリ様」
新たなダンジョンへワクワクする僕にエルザは微笑んだ。
僕はアリスお姉ちゃんに教えてもらった≪収納魔法≫を発動すると僕の目の前で空間が切り裂かれた。
その空間に手を伸ばし、セリスお姉ちゃんから貰った業物のロングソードとレイピアを取り出した。
「はい、これ!」
「ありがとうございます」
僕はエルザにレイピアを渡し、ダンジョンに中にいる魔物を倒す準備ができた。
そして僕はダンジョンに向かって剣先を向けた。
「――よーし! 未踏のダンジョン攻略開始だ!」
◆
「ふんふふ~ん―――」
「楽しそうですね、ユーリ様。鼻歌まで歌ってご機嫌そうに……ダンジョンにご興味があったのですか?」
「うん! お宝があったり! ダンジョンボスを倒したり! カッコいじゃん! 冒険してる感あってさ!」
「ふふふ……。確かにその通りですね」
そんな他愛ない会話をしながら先へと進む。
すると―――
「グギャギャギャッ!!」
「グオーグオーグオーグオーッ!!」
魔物の群れが視線の先にいた。
あれは物語の中盤に出てくる―――大きな熊さんのジャイアント・ベアーだ。
ダンジョンに入ってからまだ数分……序盤の方にもうこのレベルの魔物がいるなんて高難易度のダンジョンのようだ。
「あははっ!」
――初めての魔物討伐の腕試しには丁度いい!
楽しく遊べそうだ!
「エルザ! 僕、一人で戦いたいから後方の警戒をお願いできる?」
「はい、ユーリ様。背中は私がお守りしますので、お任せください」
「うん、ありがとう……」
僕はエルザにそう告げてから、ジャイアント・ベアーの群れに視線を戻す。
そして、大勢の群れなんか気にせず、そのまま堂々と歩く。
どうだ! これが強者特有の圧倒的余裕だ!
さぁ、どこからでもかかってこい!
まっ、襲ってくるとしたら正面しかあり得ないけどね!
「グーギャオギャオ!」
「グギャア! グルルルル!」
無駄に態度のデカい僕にジャイアント・ベアーは気づいたようで仲間を引き連れて襲い掛かろうとこちらに走って来た。
おっ、絶好のチャンス! この好機は逃がさない!
「来た来たー! セリスお姉ちゃん教えてもらった≪斬撃波≫をやるぞー!」
僕は気合を入れてロングソードを持ち構えた。
「うぉおおおおおおッ!!―――≪
ただし、技名は変えて大好きな必殺技を叫んだ。
剣を振り下ろすと≪斬撃波≫がジャイアント・ベアーの群れに飛び襲い掛かる。
セリスお姉ちゃんの≪斬撃波≫を見た時にこう思ったんだよね!
「あれ? ≪
「≪
僕はどうしてもやりたかったんだ!!
そしてそれが今、この瞬間に叶えることができた!
「やったぁああああああっ!!」
「「グギャアアアアアアッ!!」」
僕が念願の必殺技を放てたことに心底喜んでいると、いつの間にかジャイアント・ベアーの元に≪斬撃波≫が届いていたようで胴体を真っ二つに倒していた。
あれ? 意外とあっさりだった。もう一発、ニ発したかっ―――しようと思ったけど不要だったようだ。
となると早速―――
「採取採取~~~」
僕は真っ二つに切断されているジャイアント・ベアーのスキップしながら向かった。
しかしその瞬間、ドドドンッとジャイアント・ベアーのいたところに天井が崩れた。
……つまり、大量の岩が積まれ道が塞がったことに加えてジャイアント・ベアーの素材を採取できなくなった。
「あ、あれ……? 僕の…初採取が……」
「ゆ、ユーリ様! 今回はダメかもしれませんが、まだ次があります! 大丈夫ですよ! ですから、このようにならないように注意しながら魔物を倒しましょう! ねっ?」
呆然と積まれた岩を見つめている僕を隣に立ったエルザが励ましてくれる。
確かにエルザの言う通りだ。まだチャンスがある。この採取だけが全てじゃない。
次、気を付ければいいだけの話だ!
「うん、そうだね! 次、気を付ければいいだけだもんね! エルザ!」
「はい! 気を付ければ良いのです、ユーリ様!」
エルザの励ましのおかげで立ち直った僕は、初採取の感動を奪った岩という認識から行く道を塞いでいる岩という認識に変えた。
「よーし! あの岩を何とかしよう!」
今度は力の調節をちゃんとして加減すれば、あの惨劇を回避できるはずだ!
僕は剣を構えて再び―――
「……≪
小声で≪斬撃波≫を放った。
すると……。
ドドドンッ!!
「「…………」」
結果は変わらず、更に大量の岩が積まれただけでだった。
そして僕たちは呆然と無表情でその状況を眺めていた。
あっ、力の調節も小声も全く意味無かったんだ。
意味……無かったんだ……!
―――クソォオオオオオッ!!
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