第13話

 剣の修行を始めた翌日、僕は次の魔法の修行をするためにアリスお姉ちゃんのお部屋に来ていた。


「よろしくお願いします! アリス先生!」


「先生~~~っ!! こ、こほんっ! 

 よ、よろしくお願いします……」


 そう言ってお互いにお辞儀をする。


 先生と呼んだだけで驚き過ぎじゃないかなアリスお姉ちゃん。


 でも初めて聞いたかも……アリスお姉ちゃんの大きな声。


 ちょっと面白い。


「そ、それじゃあ早速、魔法を教えたいんだけど……。ゆ、ユーリは魔法についてどのくらい知ってる?」


「うん、知ってるよ」


 このゲームをやっていたから魔法の知識なんてちょちょいのちょいだよ。


「魔法は魔力を使って発動する。その魔法には火、水、風、雷、氷、光、闇の七属性があって、それ以外に該当する無属性魔法がある。どう?」


「う、うん。その通りだよ、すごいねユーリ」


「むふふっ、当然だよ!」


 鼻を高くしながら魔法について答えると、アリスお姉ちゃんが頭を撫でてくれた。


「で、でも魔力があることは知ってるけど、使い方については知ってる?」


「うっ……」


 そんなの全く分かんないよ。前世に魔法なんて無かったから。

 

 しかし、言われてみれば、魔法を発動するまでの段階なんて考えたことなかった。


 一体どうやるんだろう……。


「う~ん……」


「ふふふ……分からないみたいだね。

 でもね、大丈夫だよユーリ―――」


 考え込む僕に、アリスお姉ちゃんは優しく声を掛けながら椅子に座った。


「い、今から私が手取り足取り、隅々まで教えてあげるから。ねっ?……こっちにおいで」


 アリスお姉ちゃんが微笑みながら両手を広げた。


 あそこに飛び込めばいいのかな?


 そしたら答えは分かるのかな?


 よーし!


「―――ダーイブ!」


「ゆ、ユーリ!」


 少しの助走をつけて、僕はアリスお姉ちゃんの背中に腕を、腰に足を回し全力で抱き着いた。


「ゆ、ユーリ? 向かい合うんじゃなくて膝に上に座って欲しかったんだけど……」


「あっ、そうなの?」


 両手を広げていたから、つい向かい合って座ることだと思っていたよ。


 あはは、間違えてちゃった。


 僕はそのまま反転し、お膝の上に座った。


「え、偉いね……。お姉ちゃんの言うことが聞けて……よしよし」


「ん〜。頭をなでなでしてくれるのは嬉しいけど、早く教えて欲しいよアリス先生!」


「う、うん。そうだね、そろそろ始めようか……。魔力の源はね、おへその下にあるんだよ。

 だ、だからお姉ちゃんが今から、ユーリのおへその下に手を当てるから何かを感じたら教えてね?」


「うん! わかった!」


「そ、それじゃあ……。さ、触るね……」


 アリスお姉ちゃんがゆっくりと僕のおへその下を撫で回した。


 おへその下に何かを感じるか……。


 何だかポカポカしてるような感じがするけど……これが魔力なのかな?


 聞いてみよ。


「アリス先生……」


「うん? どうしたのユーリ?」


「何かね、おへそに下がポカポカして温かいんだ。これが魔力?」


「!…凄いねユーリ。うん、そうだよ。そのポカポカして温かいのが魔力だよ」


「へぇ~これが魔力なんだ!……でも、魔力が何かは分かったけど発動はどうやるの?」


「それはね、その温かい魔力を全身に広げるように意識するんだよ。

 ―――こうやって」


 アリスお姉ちゃんが撫でていた手の位置を変え、僕の胸全体を大きく撫で回した。


「あっ! 温かいのが全身に巡ってるような感じがする! 何これ凄い!」


「ふふふ……。これでユーリも魔法を発動する準備ができたよ」


 僕が後ろを振り返るとアリスお姉ちゃんが微笑んだ。


 そうなんだ! 


 これで僕も魔法が発動できるんだ!


 確かユーリは全属性扱えるから、僕はどの魔法も自由に使いこなせる!


 くぅ~~~~っ!! めっちゃ楽しみ!


 やってみたい魔法があるんだよね!


 いや、正確には魔法ではないんだけど……。


 とにかく、やってみたいことがあるんだ!


「アリスお姉ちゃん! 

 魔法発動したい! したい!」


「あ、慌てないでユーリ。魔法には発動するときに必要な魔法構築とか、魔力調整とか色々あるから……」


「ううん! そんなことしなくてもイメージで何とかなるよ!」


 僕はアリスお姉ちゃんのお膝椅子から立ち上がり窓を開けた。


 外に向かって放つなら迷惑にはならない!


 後はターゲットを見つけて……いたっ!


 あのゴソゴソしている草むらに向かってやろう!


 僕は眼に魔力を集中させて大きく見開いた!


 ―――いざ、≪天〇アマテ〇ス≫ッ!!


 瞬間、「ぎゃぁ~~~~っ!!」っと老人の悲鳴のような声が聞こえて来た。


 僕はこの声に聞き覚えがあった。


「だ、誰の声……?」


「た、多分だけど……あの声は―――」


 そして、草むらから黒炎を纏って転げ出て来たのは予想通り……。


「―――セバスチャンだよ」


「ああッ!! 熱いッ熱いッ!! 死ぬッ!! 焼け死ぬゥウウウウッ!! 体が焼け死ぬゥウウウウッ!! 助けて坊ちゃま~~~~っ!!」


 僕は体を縦横無尽に動き苦しんでいるセバスチャンを指差してアリスお姉ちゃんに教えた。


「ど、どうしよ……! セバスチャンが死んじゃう……! は、早く助けないと……!」


 アリスお姉ちゃんが手足をバタバタと動かし慌てているけど問題無い。


 なぜなら―――


「大丈夫だよ、アリスお姉ちゃん。ほら」


 瞳を閉じれば≪天〇アマ〇ラス≫の黒炎は鎮火できるのだから。


「あっ……! 黒い炎が消えた……! 

 は、早くセバスチャンのところに向かって助けないよう!」


「うん!」


 僕は差し出された手を掴むとアリスお姉ちゃんは≪転移魔法≫を発動させ、セバスチャンと所まで転移した。



「だ、大丈夫セバスチャン……! 

 今、≪回復魔法≫を掛けてあげるから……ね!」


「あ、ありがとうございます……。アリスお嬢様……」


 アリスお姉ちゃんは、屈んでから手の平を向けて、仰向けで倒れているセバスチャンに≪回復魔法≫を掛けた。


「ど、どう……? 体、痛くない……?」


「はい、何処も痛くありません。しかし、私の身に一体何が……」


 アリスお姉ちゃんに手伝ってもらいながら上体を起こすセバスチャン。


 ど、どうしよ……。草むらがゴソゴソしてるから何かの動物だと思ってやったら、セバスチャンだったなんて……言えない。


 だけど、これは明らかに僕が悪いことだ。


 偶々そうなったとはいえ、ちゃんと謝らないと。


「ごめんなさい! 魔法を発動したら、うっかりセバスチャンの体を燃やしちゃった! 本当にごめんなさい!」


「ゆ、ユーリ……」 


「坊ちゃま……」


 僕はお膝に手を置きセバスチャンに向かって頭を下げた。


「凄いじゃないですか坊ちゃま!」


「へっ?」


 予想外の言葉に思わず頭を上げ、目を丸くさせてセバスチャンに見た。


「初めての魔法で、あのような魔法を繰り出せるとは凄まじい才能ですぞ。いやー、食らった身としてはもう二度と御免ですがな!」


「う、うん。私も凄いとも思う。初めての魔法でこんな強力な魔法を発動させるなんてユーリの同じ年だった時の私には無理だよ……。流石だねユーリ」


「アリスお姉ちゃん……。セバスチャン……」


 普通だったら僕を責めたり怒ってもいいのに、二人とも何て優しい言葉を掛けて来れるんだ……!


 涙が出てきちゃうよ……!


「ですがユーリ様……」


 あれあれ? 何だか雲行きが怪しくなってきたぞ……。


「あの黒い炎はどうやって発動したのですか?」


「あっ! 言われてみれば、黒い炎なんて見たことも聞いたことも無い……!」


 そうだよね~っ!  


 このゲームをやったことのある僕ですら見たことも聞いたことも無いのに、二人が知らないに決まっているよね~~っ!


 しかし……! 二人の疑問に答えなければ怪しさがプンプンになってしまう~~っ!


 考えないと……!


 僕は思考をフル回転させてある答えを導き出した。


「―――漆黒の炎ってカッコイイじゃん? 

 それをイメージしたら自然とそうなったんだよ」


「「おぉ~~~~っ!」」


 二人がパチパチと拍手をする。


 よし! 謎説明で二人が納得して乗り切ることができぞ!


 すると、二人が僕に詰め寄って来た。


 ん? まだ何か?


「それで! その新魔法は!」


「ど、どういう名前にするの……!」


 あー、確かにこの世界では新魔法ということになるのか。


 う~ん、そうだね。


 ―――この魔法の名は。


「≪アマテラース偽天〇≫だよ」


 もうちょっと、捻った方が良かったかな?








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