第12話

 セリスお姉ちゃんが強く地面を蹴り凄まじい速度で僕に迫って来た。


「はぁッ!」


「わっ!!」


 セリスお姉ちゃんが真上から振り下ろした剣を右へ大きくダイブして避けると――僕のいたところの地面が割れた。


「あわわわ……」


 僕は体を震わせながら割れている地面をただ見つめていた。


 う、嘘でしょ!?


 セリスお姉ちゃん何で全力の攻撃するの!?


 エルザだけじゃなく、僕のことも殺す気!?


「お姉ちゃんの攻撃を避けるだなんて……ダメじゃないか?

 弟は姉の全てを受け止めなければならない………違うか? ユーリ」


「………!」


 ゆっくりと振り下ろした剣を上げながら告げるセリスお姉ちゃんの言葉に僕はハッと気付かされた。


 そうか、それだけセリスお姉ちゃんは本気ってことなんだ……。


 だからこそ、全力で攻撃をして来たんだ。


 なら、僕も本気で全力でその気持ちに向き合わないといけない!


 セリスお姉ちゃんに勝つんだ!


 僕は立ち上がって剣を構えると、セリスお姉ちゃんは口角を上げた。


「来い! セリスお姉ちゃん! 

 僕も全力を出すよ!」


「あぁ……その意気だ!」


 僕たちは同時に地面を蹴り斬りかかった。


「はぁッ!」


「やぁッ!」


 互いに剣を振り下ろし衝突するッ!


「どうした! その程度の力なのかユーリ!」


「くッ……!」


 セリスお姉ちゃんがグッと、押し込んで来たことで押し負けそうになってしまう。


 さ、流石に体格差が違い過ぎる……!


 このままだと僕が押し負けてしまう……!


 早くこの状況を打破しないと……!


「はッ!」


「何ッ!」


 僕はセリスお姉ちゃんの剣を上に弾いた。


 そして、お腹がガラ空きになり、すかさず前蹴りを入れた。


「くはッ!」


 吹き飛べ!


 そう気持ちを込めたことで、セリスお姉ちゃんは遠くへ飛んだが、剣を地面に刺して倒れず膝をついていた。


 う~ん、倒れていたら一気に畳みかけるつもりだったけど不意打ちの攻撃だけじゃ、そう簡単にはいかないか。


 やっぱり、セリスお姉ちゃんは強いや!


 僕は落ち込むと同時に尊敬の念を抱くと、セリスお姉ちゃんは立ち上がり僕を見据えた。


「剣術に格闘術を組み合わせるとは……中々やるではないかユーリ。だが、そんな技術を一体何処で身に付けたのだ?」


「ギクーッ!!」


 セリスお姉ちゃんの質問に僕は大きく動揺した。


 い、言えるわけないよ……。


『足が自由なんだからさー! 足でも攻撃すればいいじゃんって、前世で思い付いた攻撃をしてみただけだよー!』……だなんて!


 絶対に言えない!!


 そう僕がどう返せばいいのか困惑しているとセリスお姉ちゃんが「ふっ」と笑った。


「ユーリほどの才覚を有している者であれば、あのような攻撃も容易か。流石、私の自慢の弟だ」


 セリスお姉ちゃん勝手に解釈をして僕を褒めた。


 た、助かった…勝手に納得してくれて。


 前世の記憶があるだなんて言わずに済んで本当に良かった。


 そう安堵した途端に―――


「だがな……それだけでは私に勝つことは出来ないぞ!」


 セリスお姉ちゃんが先ほどよりも強く地面を蹴り僕の視界から消えるが辛うじて捉えていた。


 早いけど完全に見えない速さではない!


 左に移動するのが見えたからそこで構えていよう!


「ここだ!」


「ふふ…凄いぞユーリ! この攻撃を防ぐとは!」


 セリスお姉ちゃんが左真横から攻撃を察知し、そこに剣を振りかぶると予想通りその攻撃が来て防ぐことに成功した。


 よし! 攻撃のチャンスだ!


 僕が剣を振りかぶった瞬間―――


「しかし! この攻撃は防げるかユーリ!」


 セリスお姉ちゃんが高速の斬撃を繰り出した。


 目で……捉えられない!


 ううん、違う!


 目で捉えるんじゃない……感覚、気配で捉えるんだ!


「はぁアアアアッ!!」


「そうだユーリ! 攻撃を目で追おうするな!

 己の感覚を研ぎ澄まし感じるのだ!」


 僕も高速の斬撃を繰り出し防ぐと、セリスお姉ちゃんは弟の成長を大いに喜んだ。


 しかし、僕は紙一重で付いていくのがやっとだけどセリスお姉ちゃんは余裕そうだ。


 そういうことだったんだねユーリ……。


 君が『脳筋女』って言う気持ちがよく分かるよ。


 確かにセリスお姉ちゃんは―――『脳筋美人お姉さん』だ!


「今……『脳筋』って思ったな」


「へっ?」


 まさか……僕の心の中を読んだの?


 何それスゴッ……。


 瞬間、セリスお姉ちゃんの重い一撃が放たれた。


「ぐッ……!」


 僕は何とかその攻撃に反応できたが、吹っ飛んでしまう。


 しかし、剣を地面刺してたことで膝をつくだけで済んだ。


 早く立たないと……! 


 僕は剣を使って立ち上がると、セリスお姉ちゃんはその様子を静観していた。


 どうして攻撃を仕掛けてこないだ? 


 こんなに隙だらけなのに?


 そう疑問に思ったがすぐに答えが分かった。


「このままでは埒が明かない。……これで決着をつける」


「………!」


 セリスお姉ちゃんの雰囲気が変わった!


 あの技をするつもりなんだ!


「行くぞ! ユーリ! はぁアアアアッ!!」


 セリスお姉ちゃんはその場で真上から剣を振り下ろすと斬撃を飛ばす―――≪斬撃波≫を放った。


 この攻撃を防ぐためには、攻撃を弾く≪パリィ≫しかない!


 だけどその技は、主人公にしか扱えないから僕ではどうしようもない!


 クッ……!


 だけど、やるしかない……!


 それしか、僕とエルザの未来を守る道は無い!!


「うぉオオオオオッ!!」


 僕は迫りくる攻撃に剣を横に斬り≪パリィ≫した。


 あっ! やった、成功した!!


 でも……あれ? 


 僕の想定では後ろに弾いたつもりなんだけど……どこに行った? 


 僕の≪パリィ≫した斬撃。


「ゆ、ゆゆゆゆユーリ!!

 助けて~~~~っ!!」


 僕が周りを見渡し探していると、セリスお姉ちゃんの叫ぶ声が聞こえた。


 どうしたんだろうセリスお姉ちゃん?


 そんな大声出して。


 取り敢えず気になるので、セリスお姉ちゃんのほうを見てみると、僕が≪パリィ≫した斬撃がセリスお姉ちゃんに向かっていた。


 あっ、もしかして僕。


 弾いた攻撃を相手に返す―――≪パリィカウンター≫をしてしまったようだ。


 おぉ~? そうなると……主人公の発展技をした僕は主人公よりも圧倒的に強いってことになるね。


 凄いやー僕!


「あはっ! あはは……って笑っている場合じゃないよ!? 早く助けないと!!」


 僕は全力で斬撃の元へ駆け出すと、セリスお姉ちゃんの目前にまで迫っていた。


 間に合え……!


「はッ!!」


 僕は斬撃の下に滑り込み、下から上へ剣を振るうと斬撃を消すことができた。


「ふ~、間に合って良かっ―――」


「ユーリ~~~!!」


「んぐっ」


 木剣を腰に携えている鞘に収めようとすると、セリスお姉ちゃんに思いっきり抱きしめられた。


「ありがとうユーリ! 体を張って助けてくれて、お姉ちゃんは感動したぞ!

 ん~ちゅちゅちゅ―――」


「あははっ! くすぐったいよ!」


 セリスお姉ちゃんが僕のほっぺにちゅーの雨を降り注がれたり鼻息が顔に当てられ、くすぐられ続けた。


 そんなに助けてもらったことが嬉しかったのかな?



~sideセリス~


「では…こほんっ。私とユーリの勝負の勝者はユーリだ。私はユーリの望み通り追い出すを止める」


「わーい! やったよエルザ!」


「はいっ! ユーリ様、凄いです!」


 私が勝敗を伝えると、ユーリとエルザは互いの手を取り、ピョンピョンと跳ね喜びを分かち合った。


「ぐぬぬ……耐えるのだ私。勝負に負けた上に嫉妬を重ねるなど恥ずべきことだ……!

 耐えろ……耐えろ……!」


 私は拳を強く握り、ユーリと手を繋いでいるエルザへの嫉妬心を殺す。


「しかし、こうも早くユーリに負けるとはな……」


 自然とそう呟いてしまった。


 類まれな才能を有しているとは思っていると知っていたが、まさか私に勝つだけだなく、≪斬撃波≫まで弾き返すとは想像していなかった。 


 というよりも、想像できるとは思えん。


 そんな所業をあっさりとユーリはしてみせた。


「ふふ……」 


 ユーリは将来が楽しみでつい微笑んでしまった。


 それはそうだろう、こんなに凄いユーリが将来、どんなことを成すのが楽しみで仕方ないのだから。


 自慢の弟が成長する姿を見るほど嬉しいものは他にない。


 それに…私はそんなユーリと生涯を共に―――


「ではユーリ様……剣の指導の続きを……」


「うん、いいよ」


 過ごしたい……そう誓おうしている時に!


 あの破廉恥女めッ……!


 また私のユーリを汚そうとするなんで許さん!!


 私はユーリを汚されるのを防ぐべく、こう声を上げた。


「――私のユーリに近づくなぁアアアアアアッ!!!」



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