第11話

「離れろユーリ!」


「わぷっ!」


 セリスお姉ちゃんによって、僕はエルザから体を離され強く抱き寄せられた。


 い、息が……! 


 セリスお姉ちゃん……息が……!


 セリスお姉ちゃんのおっぱいで呼吸困難に陥りそうになると、セリスお姉ちゃんは残念そうにしているエルザを睨みつけた。


「この破廉恥女ッ! 私のユーリを汚すな!」


「汚すだなんて……とんでもありませんセリスお姉様。私はユーリ様と愛し合っていただけです。

 ……何と勘違いされているのですか?」


「貴様……! 私を愚弄するだけでなくお姉様だと……。ふざけるなッ!!

 今すぐ出ていけッ!! これ以上私とユーリの時間を邪魔をするなッ!!」


「嫌です。私はもっとユーリ様と一緒にいたいので出ていきたくありません」


 セリスお姉ちゃんの怒号に、エルザは怯むどころか余裕そうに微笑んでいた。


 ど、どうしよ……。


 セリスお姉ちゃん凄く怒っているし、このままだと本当にエルザが追い出されちゃう……。


 折角、遠い所から来てくれたのにそれは可哀そうだよ……。


 エルザが追い出されないためには……。


 そうだ! 


 この方法ならエルザは追い出されない!

 

 ……けど。


 果たして僕にそれができるだろうか……。


 いや、やるんだ。やるしかないんだ!


 僕のお嫁さんを守るんだ!!


 覚悟が決まった僕は、セリスお姉ちゃんの圧迫おっぱいから何とか顔を上げて背中をトントンッと叩いた。


「どうしたのだユーリ……。私は今、この女を追い出さなければならない……。

 話は後で聞くから大人しくしてくれ……」


「セリスお姉ちゃん、エルザを追い出すの止めてもらえないかな?」


「ユーリ様……!」 


 僕がそう言うとエルザの嬉しそうな声が聞こえ、セリスお姉ちゃんはエルザに向けていた目を僕に向けた。


「何を言っているのだユーリ。この女はお前の手ほどきを利用してお破廉恥なことをした。許されることではない。追い出すに決まっているだろう?」


「……お姉ちゃんの気持ちは分かったよ。でも僕はエルザともいたい。

 ……だからさ、セリスお姉ちゃん」


「むっ?」


「―――戦って勝った方が、お互いの望みを叶えるってのはどうかな?」


「ほう……」 


 僕の提案に興味を示すセリスお姉ちゃん。


 僕にはこの方法しか思いつかなった。


 セリスお姉ちゃんが納得するかつエルザを追い出されない方法……それがこれだ。


 さて、セリスお姉ちゃんは乗ってくれるだろうか。


 というか乗って! お願いっ!


「……良いだろう。私と戦おう」


「うん。ありがとう、セリスお姉ちゃん」


 よし! 乗ってくれた!


 後はセリスお姉ちゃんに勝てばエルザが追い出されずに済む!


 そう意気込むと、セリスお姉ちゃんは体を離し移動を始めた。


「僕もセリスお姉ちゃんのところに行ってくるから木剣ちょうだい」


「え、えぇ……」


 僕はエルザに向かって手を差し出すと、エルザは戸惑いながら手に持っている木剣を僕に渡した。


 すると、エルザは心配そうな眼差しで僕に向けた。


「どうしたのエルザ?」


「い、いえ……。剣を初めて持ったユーリ様がセリスお姉様に勝てるのか疑問に思ってしまって……」


「あぁ……」


 そういうことか。だからエルザは不安そうにしていたのか。


 確かに剣術ド素人の僕が達人クラスの腕前を持つセリスお姉ちゃんに挑むなんて、エルザからしたら無謀と感じるのは当然だ。


「ごめんなさい……妻である私が夫を信じないなんて……ダメですよね?」


 綺麗な蒼い瞳から涙が落ち、声を震わせながらそう告げた。


 それを受け僕は悲しい気持ちになった。


 自分を責めないでよエルザ……。


 ただエルザは心配しているだけだ。謝ることじゃない。


 僕のことを大切に思われているってそう思ったよ。


 寧ろ謝るのは僕の方だ。


 だけど……それも違うような気がする。


 エルザはその言葉を求めていないと、そう思ったから。


 きっと、エルザに言うべき言葉はこんな言葉だ。


 僕はエルザの肩に手を乗せ真っ直ぐ見つめた。


「ユーリ…様……」


「大丈夫だよエルザ。僕は勝つよ。

 だから――僕を信じて」


「……! はいっ! 

 私はユーリ様が勝つと信じています!」


 僕の言葉にエルザは満面の笑みで応える。


 良かった、元気に……笑顔になってくれて。


 これでセリスお姉ちゃんとの戦いに集中ができる。


「うん。勝ってくるね……エルザ」 


 そうエルザに告げてセリスお姉ちゃんのところに向かって歩いた。


 すると、エルザが勢い良く振り返る音がした。


「ユーリ様! 頑張って下さい!」


 歩いている途中、後ろからエルザの応援が聞こえた。


 僕はその言葉に応えるように木剣を上へ掲げた後ろ姿をエルザに見せた。


 その瞬間、僕の全身は喜びで満ち溢れていた。


 なぜなら―――


 くぅー!! 今の僕、最っ高にカッコイイ!!


 いやーまさか! 背中で語るぞポーズができる日が来るなんて思いもしなかったよ!


 憧れてたんだよねー! 


 この『後は俺に任せろ』的なシチュエーション!


 主人公って感じがしていいんだよね!


 あっ、僕……主人公とは程遠い悪役ポジションだった。


 しょんぼり……。


「あれがになるかもしれないが、

 返さなくても良かったのかユーリ?」


 僕がしょんぼりと俯きながら歩いていると、いつの間にかセリスお姉ちゃんと対峙していた。


 ……が、僕はセリスお姉ちゃんの発言に引っかかる部分があった。


 えっ? 今…最後って言ったよね!?


 もしかしてセリスお姉ちゃんの望むことって


 ―――エルザをこの世から消し去ること!?


 ちょちょちょちょ……えぇ~~~~っ!!!


 追い出すから逸脱し過ぎてる望みだよセリスお姉ちゃん!!


 怖い! 怖いよ~~~~っ!!


 そう怯えていると、セリスお姉ちゃんが流れるような綺麗な動作で剣を構えた。


 か、カッコイイ……。


 とても、これから殺人を犯すとは思えないほど綺麗で洗練された動きだ……。


「さぁ、剣を構えろユーリ!」


「う、うん!」


 セリスお姉ちゃんの剣の構え方に見惚れていた僕は、慌ててセリスお姉ちゃんの言う通り剣を構えると―――


「―――では、始めるぞ!」


 エルザの命運を分ける戦いが始まった。





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