第10話

 お姉ちゃんたちとサーシャ言い渡された修行の内容はこんなことだ。


 セリスお姉ちゃんは剣術の修行を。


 アリスお姉ちゃんは魔法の修行を。


 ミリスお姉ちゃんは勉学の修行を。


 サーシャは家事全般と……モデル?の修行を言い渡された。


 お姉ちゃんたちはわかるよ。


 僕がユーリになる前に教えたがっていたから、修行という名目でそれらを教えたいと考えているのは。


 でも……サーシャはどうだろうか? 


 家事全般はいいとして、モデルって何? 


 モデルって?


 僕は一体、何をされるの?


 しかし、そう聞くと面倒な予感がするのでスルーし、言い渡されてから翌日になってしまった。


 この日、僕が受けるのはセリスお姉ちゃんによる剣術の修行だ。


 そのため、僕たちは屋敷から少し離れた回りに森がある草原にて修業を始めようとしていた。


「セリスお姉ちゃん! よろしくお願いします!」


「あぁ、お姉ちゃんがバシバシ鍛えてやるからな」


「うん!」


「頑張って下さーい! ユーリ様ー!」


 僕は少し離れたところから見ているエルザに笑顔を向けて手を振る。


 まさか、クラリスタ領とシュトライト領はかなり離れているから翌日に来るとは思わなかったよ。


 わざわざ遠いところから会いに来てくれるなんて、僕はエルザに愛されている幸せ者だ。


 そう幸せに浸っていると、何故かセリスお姉ちゃんが徐々に怒った顔へと変わり、エルザに向けて指差した。


「なぜこの女がここにいるのだ!!」


「えっ、僕に会いに来たみたいから連れてこようかなって思ったんだけど……ダメだった?」


「ダメに決まっている!! 

 はぁ……折角、二人っきりになれると思っていたのにどうしてだ……」


 さっきまで怒っていたのが嘘かのように、セリスお姉ちゃん尻すぼみになりガクリと肩を落とした。


 今日のセリスお姉ちゃん情緒が安定してないな。


 もう、仕方のないお姉ちゃんだ。


「セリスお姉ちゃん。剣の修行しようよ、ねっ?」


「ユーリ……! あぁ! 

 剣の修行を始めるとしよう!」


 僕は落ち込んでいるセリスお姉ちゃんに近づき肩に手を乗せ励ますと、ハッとした顔をしてから笑顔になった。


 うん、いつものカッコイイ僕のセリスお姉ちゃんに戻ってくれたようで良かった。


「では、早速始めるぞ。ユーリ、剣を構えてみろ」


「うん」


 僕は手に持っている木剣で構えた。


 どうかな! できてるかな! カッコイイって言われるかな!


「し、姿勢は良いが! 

 剣の持ち方がいまいちだな!」


 どうやら僕は、ちゃんと剣を構えられていないみたいだ。


 流石にユーリの体だとしても、すぐには出来ないか……。


「がくり……」


「し、仕方ないな! 

 そんなユーリには、私が直々に教えてやろう!」


 落ち込む僕を見て、興奮気味のセリスお姉ちゃんが僕の背後に回り手を重ね直接指導を始めた。


 だけど…それによってある問題が生じた。


「せ、セリスお姉ちゃん……おっぱいが肩に乗っかって重たいから乗っけないでよ……」


 僕の肩に、セリスお姉ちゃんのおっぱいがボインッと弾ませながら乗せたことで、肩に大きな負荷がかかった。


 なので、それをやめてもらうよう伝えると―――


「だ、ダメだ! そんなことで音を上げていたら強くなれんぞ! それでも良いのかユーリは!」


「………!」


 当然のように却下されるが、そのことよりも僕はセリスお姉ちゃんの言葉に心を突き動かされた。


 そうだ、セリスお姉ちゃんの言う通りだ!


 自分を甘やかしてばっかりいたら、いつまで経っても強くなれないしファンタジー世界を楽しむことが出来ない!


 何より……転生した意味が無くなってしまう!


 おっぱい何か負けるな!! 頑張るんだ、僕!


「分かったよ! セリスお姉ちゃん!」


「そうだ! 頑張れユーリ!」


 そうして、セリスお姉ちゃんのおっぱいを肩に乗せながら剣を構え方を教わり、素振りを100回ほど行った。



「ふ~、疲れたよエルザ~」


「お疲れ様です、ユーリ様」


 草原の上で仰向けで寝て休憩している僕に、エルザはハンカチを当て修行で出た汗を拭ってくれた。


「ありがとう、エルザ」


「いえ、当然のことです。ふふ……」


 よく分からないけどエルザは僕の汗がついたハンカチを持って凄い微笑んでいる。


 何か良いことがあったのかな? 


 まぁどんな理由であれ、エルザが喜んでいるならそれでいいか。


 そう言えば、エルザは10歳だから、お家の方針ですでに剣とか習っているのだろうか? 気になる。


 僕は体を起こし、未だに微笑んでいるエルザの肩を軽くたたいた。


「ど、どうかしたのですか? ユーリ様」


「エルザってさ、剣とか教えられたりしてるの?」


「いいえ、私が12になった時に勉強すると聞いています」


 12歳……2年後か……それなら―――。


「エルザが12歳になったら、僕が剣を教えてあげるよ」


「! よろしいのですか! 

 ユーリ様に剣を教えていただくなんて……」


「うん、教えるよ」


 2年後になったら多分だけど、剣を自由自在に使いこなせると思う。


 だって、今の僕はユーリだ。


 努力をせずにいてもハイスペックな、あのユーリだ。


 そのユーリである僕が努力をしたら、きっと想像以上の強さになるはずだ。


 だから、約束を破る心配が無いので、自信を持ってそう約束ができる。


「あの…ユーリ様……」


「うん? どうしたの?」


「私に今から剣を教えていただけませんか?」


「………」


 エルザが僕の手を覆い、真剣な眼差しで僕を見つめた。


 僕はエルザの真剣な瞳を見て「今からは流石に無理だよ」って言うのを止めた。


 エルザは本気で僕に教えて欲しいんだ………!


 その気持ちに僕は答えなくてはならない!


 エルザの将来の旦那さんとして!


「分かったよエルザ! 

 僕の(小一時間の)剣を君に教えよう!」


「はいっ!」


 僕はエルザの手を掴み共に立ち上がった。


「エルザ、こう持つんだよ」


「こうっ…ですかっ……」


 僕がエルザの背後から剣の持ち方を教えると、どう言う訳か、エルザはお尻を後ろへ突き出し僕の腰に当てて来た。


「違うよ! こうだよエルザ!」


「あんっ……!」


 僕は腰を前に突き出し、エルザの姿勢を正しい位置へ戻すと、エルザが嬉しそうな声を上げた。


 ん? 何かおかしいぞ?


「こうっ…んっ……ですか……ユーリ様……」


 またまたエルザは再びお尻を後ろへ突き出した。


 あれ? ちゃんと教えているのにどうしてエルザは教えている通りにしないんだ?


「だから違うってば! こうだよ!」


「あんっ!! はぁ…はぁ……ユーリ様……!」


 僕は先ほどよりも強く腰を前に突き出すと、エルザが大きく嬉しそうな声を上げ息を荒くしながら僕の顔を見て微笑んだ。


 僕の言う通りにはしてくれないけど、エルザが喜んでいるならもっとしてあげようかな。


 「どうエルザ! 嬉しい!」


 「はいっ……! とっても幸せです……! はぁ……はぁ……!」


 そして、僕たちがそんなことを繰り返していると―――


「な、なななな何をしているのだっ!!」


 離れたところで素振りをしていたセリスお姉ちゃんが、顔を真っ赤にして僕たちにそう叫んだ。




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