第7話
僕はサーシャと一緒に客室で待っている間、死亡フラグを回避するために思考を巡らせていた。
ユーリが殺された理由は分からないけど、多分嫌われたから殺されたのかな?
なら、嫌われないように入って来た瞬間、めっちゃ笑顔で手を振ろう。
そうすれば、嫌われることなく良い印象を与えられる。
うん、そうしよう。
そう思っていると突然、お姉ちゃんたちが客室にやって来た。
「どうしたのみんな? 僕、これから婚約者のエルザと会うんだけど……」
「えぇ、わかっているわ! だからこうしてユーリの婚約者として相応しいか見定めに来たのよ!」
「そうなの? セリスお姉ちゃん」
「あぁ、ユーリを誑かす悪女かもしれないからな」
「そ、そうだよ。私たちがユーリを守らないと…」
確かに姉の立場からしたら、弟が騙されたりしてないか不安でどんな人か気になるか。
「じゃあ一緒に、エルザを待とうか」
「えぇ!」「うん…」「あぁ!」
そうして待っていると扉が開かれた。
瞬間、僕は予定通りすんごい笑顔で手を振った。
すると、中に入って来た女の子エルザは驚いた表情をしていた。
へぇ~将来、絶世の美女になること間違いなしの美少女だ。
綺麗で艶やかな雪みたいに真っ白な髪。瞳は昔、図鑑で見たサファイアのような色。
こんな美少女が僕の婚約者で……僕を殺す人なんだ。
そう眺めていると、エルザは微笑んだ……が。
何だかあの笑顔……どこが不自然だ。
笑っているようで笑っていない。
まるで、感情を殺して笑顔を貼り付けているような……。
もしかして、本当は婚約したくないけどせざるを得ないのかな。
だとすると、この身分違いの婚約をする理由に納得がいく。
エルザの本意を無視して、その背後にいる両親か誰かが、クラリスタ公爵家の力に取り入れたいという思惑が透けて見える。
なるほど、僕が殺される理由はエルザが無理して僕と婚約してたことで我慢の限界を迎えたからだ。
ということは―――
僕の良い人アピールは意味無かった……。
ガックリと肩を落とすと、僕の傍にいるお姉ちゃんたちとサーシャがエルザに詰め寄った。
みんな…急にどうしたの?
「エルザお嬢様に何をするつもりですか」
「これ以上近寄らないで下さい」
エルザの護衛の騎士と思われる男性二人が、エルザの前に立ちお姉ちゃんたちとサーシャを止めた。
「どいて下さい! 邪魔です!」
「邪魔よあなた達! 私たちはこの女に用があるの! どいて!」
「わ、私たちはユーリの保護者だから。話をしたい……」
「どいてもらえるか。私たちは彼女のユーリへの愛を確かめたいだけなんだ」
「……!」
今、セリスお姉ちゃんの言葉を聞いた瞬間、エルザの体が震えた。
やっぱりエルザにとっては不本意な婚約なんだ。
ううん、そんなことを考えている場合じゃない。
まずはこの状況を何とか……できそうにないな。
とすると、巻き込まれているエルザを連れてこの場を離れるしか僕にはできない。
僕は密集している体の隙間に上手く入り、エルザの手を掴んだ。
「えっ…」
「走るよ!」
僕はエルザを連れて走ると―――
「「「待てぇええええええ!!」」」
僕たちの背後からドドドッと物凄い足音と共に迫って来た。
僕はこの状況に興奮した。
なぜなら、鬼ごっこみたいで楽しいから!
僕はこの気持ちを共有すべくエルザの顔を見た。
「エルザ!」
「はい」
「楽しいね!」
「……!」
笑顔でそう言うと、エルザは目を見開いて僕を見た。
僕、おかしなこと言ったかな?
そう不安になっていると、エルザは微笑んだ。
「はい…とても楽しいです」
「うん! さぁ、みんなを巻こう!」
「えぇ」
僕とエルザは屋敷中を走り回り隙をついて部屋に入って隠れた。
そして、僕は扉に耳を当てながらエルザを抱き寄せた。
「し~、静かにね」
「は、はい…」
僕たちはみんなが通り過ぎるのを待った。
すると、足音が消えみんなが通り過ぎたのを確認した僕はエルザから体を離した。
「……行ったみたいだね」
「はい。ですが、これからどうするのですか?
ここがバレるのも時間の問題だと思いますが…」
「まぁバレたらバレたでいいじゃん。
暫く一緒に休も」
僕はエルザと手を繋ぎ、ベッドへ腰掛けると僕はあることを思い出した。
エルザは僕と婚約したくないというのは僕の憶測。
だから、本当にそうなのか聞いてみないと。
「あのね。エルザは僕と婚約を―――」
『お前は俺の性奴隷だッ! ガキを産むだけの家畜メス女になりやがれぇえ!!』
僕がエルザに尋ねていると突然、頭の中から声が聞こえた。
その声は……僕の声だった。
この声はもしかして……ユーリ?
えっ!?
まさかこれは! ユーリの悪役セリフ!?
そしてツンデレユーリの―――遠回しなエルザへのプロポーズの言葉なのでは!!
だって! ガキは赤ちゃんって意味だ!
そこから『セイドレイ』の言葉の意味が導き出される!!
つまりユーリの素直な本心は
『―――僕のお嫁さんになって、赤ちゃんをたくさん産んで下さい』
って言いたかったんだ!!
何だ~本当はエルザのことすっごい好きじゃん。
このツンデレめ~。
そうなると、仮にエルザが僕と婚約したくなくても、僕はユーリの本心を届ける責務がある。
いや……ユーリの気持ちをエルザに届けたい。
「あの…ユーリ様? どうかされましたか?」
僕が黙ったことを心配してかエルザが僕の顔を覗き込んだ。
言うなら…今しかない!
エルザの手の上に自分の手を重ねた。
「ゆ、ユーリ様……?」
突然、手を重ねたことにエルザは驚くが構わず僕は笑顔で思いを伝えた。
「エルザ! 僕のセイドレイになって!
たくさん赤ちゃんを産んでください!」
「せ、性奴隷~~~!!」
この反応は!
エルザ顔を真っ赤にしているから『セイドレイ』は、この世界で『お嫁さん』って意味で合っていたんだ!
良かった、ちゃんと推理が当たってて。
ねぇユーリ、君の思い……エルザに伝えることができたよ。
すると、エルザが僕の重ねていた手から抜け出し、俯きながら僕の服の袖を掴んだ。
「どうしたのエルザ?」
「ゆ、ユーリ様は……」
「うん」
「性奴隷の意味を知っているでしょうか……」
えっ、そんなの当たり前じゃん。
「ずっと一緒にいたいお嫁さんって意味でしょ?」
「へっ?」
僕が『セイドレイ』の意味を言うと、エルザはぽかんとした顔になった。
もしかして伝わらなかったのかな。
仕方ない説明してあげるか。
「僕はね、エルザとずっと一緒にいたいの!
エルザとの赤ちゃん100人欲しいくらい大好きなの!
だからエルザは僕のセイドレイなの!
分かった!」
「は、はい……」
お鼻とお鼻がごっつんこするぐらい顔を近づけ『セイドレイ』の意味を教えると、ようやく伝わった。
意外と鈍感さんなのかなエルザは。
でも、ユーリの気持ちを伝えることはできたけど、肝心のエルザはプロポーズを受けてくれるだろうか。
そう不安になった瞬間―――
「んっ……」
僕の唇とエルザの唇が重なった。
あっ、エルザにちゅーされちゃった。
僕はエルザの真っ白で長いまつ毛を見てそう思っていると、エルザは名残惜しそうに唇を離し優しく微笑んでこう告げた。
「私は今日から……あなた様の性奴隷です。何でもご命令下さい……」
どうやらエルザは―――
僕のセイドレイになってくれたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます