第6話
転生してから1週間が経った。
つまり…8年後、僕を殺すであろう婚約者との初対面の日だ。
その間に、僕はこの世界で得た情報と自分の持っている前世の記憶を組み合わせた。
まず、この世界で得た情報は、シュトライト子爵家の長女―――エルザ・シュトライトという名で、二つ年上の10歳の女の子が僕の婚約者だということだ。
公爵家と子爵家の婚約……余りに身分違いだ。
訳アリの匂いがプンプンするけど情報整理が最優先、スルーしよう。
そして、僕の持っている前世の記憶ではユーリの婚約者の相手となる子は、この世界で絶世の美女と評されるほどの美貌を兼ね備えている……その情報しかない。
なぜなら、エルザは≪NTR≫のヒロイン枠ではないし本編に登場しない。
要するに僕は、エルザの姿も性格も何もかも……未知数だ。
そんなエルザが僕を殺す理由なんて……理由なんて……!
「分かんないよ~~~っ!!」
「何が分からないのですか? ユーリ様?」
情報を整理した結果、殺される理由が分からず叫ぶと同時に、ガチャッと扉が開きサーシャが不思議そうに僕を見ていた。
「サ、サーシャ! 僕に何か用事?」
「それもありますが、ユーリ様は何が分からないのでしょうか?
私で宜しければ協力致しますよ! ふんっ!」
サーシャがキラキラとした眼差しでやる気を示すポーズを取った。
協力か……それじゃあサーシャに―――
『僕、婚約者に殺されるから、それを回避するためにサーシャの力が欲しいな』
ってお願いを……できるかっ!?
あぁ…どうすれば……。
そうだ! これなら自然に誤魔化せる!
「あのね、サーシャに教えて欲しいことがあるんだ」
「はい! 何なりとお申し付けください!」
「今日の着ていく服、何がいいか教えてくれる? 婚約者さんにカッコイイって思ってもらいたいからさ」
「あぁ! それでしたらこちらをどうぞ!」
サーシャが後ろに隠しているものを僕に見せた。
そ、その服は……!?
「大変よくお似合いです!……ぐへっ」
「あ、ありがとう……サーシャ」
サーシャに着替えさせられ鏡を見ると、膝小僧を出した貴族服を着て苦笑いする僕と、涎を垂れ流し両頬に手を当てうっとりしているサーシャの姿が映っていた。
……この世界でもこんな格好をすると思いもしなかったよ。
実はこの格好に似た、某執事漫画の我儘主人公のコスプレを前世にしたことがあった。
正確には強制的にお姉ちゃんにコスプレさせられた、だけど。
はぁ…まさか、クラリスタ家からフ〇ントムハイヴ家にチェンジ……はしてないか。
仕方ない、恥ずかしいけどこの格好で向かうとしよう。
僕はサーシャの方へ振り返った。
「それじゃあ、客間に行こうか」
「はいっ!」
僕とサーシャが部屋を出て廊下を歩いていると、掃除をしているセバスチャンと会った。
「坊ちゃま! そのお召し物は!」
「サーシャが用意してくれたんだ。ねっ?」
「はいっ! ユーリ様の生足はどんな存在よりも美しいです!
ですので、存分に堪能できるよう私が作りました!」
「おぉ~~! 流石だサーシャ!
良くぞ作ってくれた!」
二人が意気投合している中、僕は真実を知って驚愕していた。
えっ!?
僕の足を見るためだけにわざわざ作ったの!?
僕は自分の着ている服を観察してあることに気づいた。
あれ? この服の生地……中々お高いものでは?
もしかして…パパ上が返してくれたお金を全部これにつぎ込んだのか。
あ、危なかった……。
もし僕が恥ずかしくて着たくないなんて言ったら、サーシャが物凄く悲しむし、この服が無駄になるところだったよ。
そうか…サーシャは僕のために一生懸命に作ってくれたんだ。
なら、そんなサーシャにはご褒美を上げないと。
まぁ…ご褒美というか僕のやってみたいことだけど。
「セバスチャン」
「はい、どうかされましたか?」
「ちょっと、跪いてみて」
「は、はぁ…」
セバスチャンは不思議そうに僕の指示に従い、僕の前で跪いた。
そして、僕はこう告げた。
「―――セバスチャン…『イエス、マイロード』って言ってみてくれる?」
「っ! はいっ! このセバスチャン!
全力で主のために言ってみましょう!
では…こほんっ」
頼むよセバスチャン!
原作みたいにカッコ良く決めてよ!
僕はセバスチャンに期待を込めた眼差しを向けると、いよいよセバスチャンが口を開いた。
「いえすゥ……まいィ……ろーどォ」
「………」
「ぶふっ!!」
セバスチャンの中ではカッコ良い声で言ったつもりらしいけど、ただのよぼよぼおじちゃんボイスだよそれ。
っていか、サーシャ何か思わず吹き出して笑っているし、口元を押えて必死に耐えているし。
まぁでも…分かったことがある。
やっぱりセバスチャンは“セバスチャン”というより“タ〇カさん”ということだ。
うん、期待外れ。客間に行こ。
そして僕はセバスチャンから体の向きを変え歩き始めた。
「坊ちゃま~~~! 坊ちゃま~~~!」
僕はセバスチャンの引き止めることも聞かずに、未だに笑っているサーシャと共に客間に向かった。
~sideエルザ~
私は今、護衛の騎士二人と共に四人掛けの馬車で、婚約者のユーリ様のいるクラリスタ家に向かっています。
そして私は馬車の車窓から外の景色を眺め、ここにいない婚約を決めた父ハウザーのことを嘲笑っていました。
頭の悪い人ですねお父様は。
確かにクラリスタ家は公爵という地位を得ていますが、悪徳貴族……。
いずれ、領民の暴動により滅びる運命でしょうに……。
目先の利益に目が眩んだ、愚かな選択だと考えられないのでしょうか。
ですが―――それを止めないでいる私もお父様と同様に愚かですね。
いえ、お父様の言う通りに従い、クラリスタ家に嫁がされて権力を取り入るためだけの道具である私の方が愚かでしょうか。
そう私は自虐をしていると、クラリスタ領の村の様子が目に入りました。
「………!」
村人たちが楽しそうに会話を……!
クラリスタ家は領民たちに重税を課しており、生活が困窮していると聞いていましたが……そのようには見えません。
私が聞いていた話は単なる噂でしかなかったということですか?
そんなことを考えていると、クラリスタ家に辿り着いていました。
私と護衛の騎士たちが共に降りると、クラリスタ家の使用人がいました。
「お待ちしておりました。
客間までご案内致します」
「はい、よろしくお願いします」
クラリスタ家の中に案内される途中、使用人の方々が笑顔で私たちを迎えていました。
本当にこのクラリスタ家は悪徳貴族なのでしょうか?
思わず、そう思ってしまうほど親切な対応に驚きました。
すると、案内役の使用人が立ち止まりました。
その瞬間、私はお父様の道具としての役目を思い出しました。
いえ、気持ちを切り替えなければ。
使用人の方々が親切であっても、ユーリ様は残虐非道な方である可能性もあります。
そう仮定すると、私は酷いことをされても感情を殺し、婚約破棄されないよう立ち振る舞いをする必要があります。
覚悟を決めるのです。
「中へお入り下さい」
扉が開かれ私と護衛の騎士は客間に入りました。
「………!」
私は目を見開いてしまいました。
なぜなら、女の子ような顔立ちをした少年……ユーリ様が私に向かって満面の笑みで手を振っており、その傍にいる四人の女性は目が笑っていない顔で私を見ていたのです。
ユーリ様の傍にいる彼女たちは何者ですか?
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