第5話
部屋に入って来たのは、デブで禿散らかしている父ゴルジと厚化粧ですんごい顔をした母リリスがいた。
「父上! 母上!」
「ユーリ、ご飯の時間だ。俺達と一緒に食べるぞ」
「ユーリちゃん。ささ、こっちにいらしゃい」
セリスお姉ちゃんの声など無視して二人は僕に笑顔で近づき両手を広げる。
なぜ、両親が僕にだけ優遇するのだろうか?
そう思ったが、僕はその理由を知っていた。
僕は末っ子……家族の頂点に立ち溺愛されて我儘が許される唯一の存在……末っ子だ。
その効果はこの世界でも同じで、ユーリは両親に溺愛されて育っていたことを思い出した。
あれ? 溺愛されている?
ってことは……お姉ちゃんたちに協力をお願いしなくても何とかできるのでは?
取り敢えず確かめてみよう。
「パパ上~、ママ上~」
僕は両手を広げている二人に飛び込み抱き着いた。
「リリス……」
「あなた……」
二人は何故か涙目で互いを見つめてから僕を見た。
それを見て、悪い予感はしないが……嫌な予感がした……。
すると、その予感は見事的中してしまった。
「「ユーリの反抗期が終わった!」」
「へっ?」
「あっ、だから昔みたいに『お姉ちゃん!』とか『大好き!』って言ってくれるようになったのね」
「そ、そうみたいだね。い、違和感の正体がようやく分かったよ」
「ふっ、お前たち。私なんか『セリスお姉ちゃん! 抱っこして!』と太陽よりも眩しい笑顔で……そうお願いされてしまったぞ」
「「いいなぁ~~~っ!!」」
目の前では両親が僕の反抗期を終えたことに喜び、背後では姉たちが楽しそうに会話を弾ませていた。
一方……僕は苦笑いを浮かべていた。
あ、あはは……。
み、みんなからしたら僕は反抗期だと思われていて、それが急に無くなったという訳か………。
し、しかし!
彼らは反抗期が終わったと認識しただけだ!
ユーリが真正のツンデレだということバレて―――
「いつもツンツンしておるが、やはり俺たちのことが大好きなのだな、ユーリは」
「えぇ!本当は甘えたいのに甘えてこないところも可愛いけど!
一番可愛いのは素直なユーリよ! はぁ…小さい頃のユーリに戻ったみたいで嬉しいわ……」
「ねっ、アリスお姉様! 今みたいに素直で甘えん坊なユーリが一番可愛いよね!」
「う、うん。ユーリのあの笑顔は反則級に可愛い……。でも…ツンツンしているところも私は好きかも……。必死に甘えるのを我慢しているみたいで……か、可愛い」
「あぁ、その気持ちよく分かるぞ。涙目になりながら我慢する姿はとても可愛い」
みんながうっとりしている中、僕は硬直しながらめっちゃ焦っていた。
えっ!?
思いっきりユーリのツンデレがバレたってこと!?
何それ!? 恥ずかしすぎる!!
ううん、待て待て……。
恥ずかしいのはユーリだけだ……僕ではない。
そうだろう?
そうだろうと……分かっているはずなのに……!!
うわぁアアアアアアッ!?
瞬間、僕の顔が熱くなり、言葉では表現できない感情が全身を覆い尽し叫んだ。
すると、叫びと共に段々と冷静さを取り戻し思考を切り替えた。
いやいや、この状況は利用しよう……。
ってか! 利用しなきゃダメだ!
恥ずかしい思いをしただけで終わってしまう!
それと、このムーブを生み出した両親に一泡吹かせたい。
あーはっはっはっはっ!!
魔王が如く心の中で笑い、ニヤリと口角を上げた。
「あのね~パパ上~お願いがあるんだけど~いい?」
僕が甘えた声で言うと、パパ上が僕を優しい表情で見た。
「どうしたんだい?
何か欲しいものでもあるのか。何でも買うぞ」
「違うの~。使用人と~領民のみんなに~お金を上げて欲しいの~」
「それはその…だな……」
「ユーリちゃん……」
僕がそうお願いすると、二人は顔を見合わせ困っていた。
やっぱり、ただお願いをするだけじゃ二人も決断できないか。
なら、僕のとっておきの切り札を切って、二人の背中を押してあげよう!
僕は瞳をうるうるとさせて二人に見せる。
「うぅ……ぐすっ……」
「ユーリ!」「ユーリちゃん!」
嘘泣きをする僕に二人が目を見開いて心配そうに見た。
よし、ひっかかった!
これで決める!
「みんなにお金あげなきゃ~パパ上もママ上も嫌い!」
「わ、わかったから!
ちゃんと皆にお金を返すから!!
パパを嫌いにならないでくれ!! 頼む!!」
「お願いユーリ!!
パパが全責任を持って返すから私を嫌いにならないで!!
一生のお願いよ!!」
二人は今にも本気で泣き出しそうな顔で僕の肩を掴んだ。
ふふ…作戦通りパパ上はお金を返すことを約束してくれた。
つまり、これで僕の死亡フラグ回避だ。
ありがとう二人とも、おかげで僕の命が助かった。
そんな二人にはご褒美を与えないと。
「ありがとう! パパ上! ママ上! だ~い好き!」
「ユーリ……!」
「ユーリちゃん……!」
「俺も大好きだ!」「私も大好きよ!」
僕が泣き止み満面の笑みを見せると、二人に抱き締められた。
そして、二人が見えない隙に笑顔を解いた。
はぁ…今日の僕、本当に頑張ったよ。
みんなに謝りに行って、死亡フラグを折って…大変だった。
そう言えば、二人はご飯を一緒に食べたくてここに来たんだよね。
僕もお腹空いたから、ご飯食べたいな。
「パパ上、一緒にご飯食べよう」
そう言うと、二人は体を離した。
「あ、あぁ…そうだった。俺たちは一緒にご飯を食べるために来たのだった。すっかり忘れていた」
「あなた、ご飯を食べるだけじゃないでしょう? あの話も伝えないと」
「それは覚えている。ユーリにとって大切なことだからな」
あの話? 僕にとって大切なこと?
どういうことだ?
気になるので尋ねることにした。
「ねぇ、あの話ってなに?」
「ん? あぁ、ユーリの婚約者が一週間後ここに来るって話だ。ご飯を食べながらサプライズでもしようと思ったがユーリに聞かれてしまったら答えるしかあるまい。
なっ、リリスよ」
「そうね、ユーリを喜ばせてあげたかったけど、子の疑問に答えないだなんて親として失格だもの、仕方ないわ」
二人が優しく微笑みながらそう答えた。
その瞬間、僕はあることを思い出した。
そうだ! 僕はこの婚約者によく分からない理由で殺されるんだった……!
つまり、僕の死亡フラグは完全には折れていない!
回避をする方法を探さなければ……!
そう僕が考えていると―――
「ゆ、ユーリの…!」
「こ、婚約者……!」
「それは一体……!」
「「「どこのどいつだぁああああ!!」」」
姉たちがまだ見ぬ僕の婚約者に向かって咆哮を上げた。
お姉ちゃんたちよ……叫びたいのは余命宣告されている僕の方だ。
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