第4話

「もう大丈夫か……ユーリ?」


「うん。ありがとう、セリスお姉ちゃん」


 結局、僕が泣き止むまでセリフお姉ちゃんに抱き締めてもらっていた。


「それで…ミリスやアリスには謝ったのか?」


「ううん、これから謝りに行く」


「なら…私も一緒に行こうか?」


「えっ?」


 予想もしなかった提案に、僕は目を丸くから瞼を伏せた。


 ……いいのだろうか。セリスお姉ちゃんは次期当主だから、色々とやることがあるから迷惑になる。


 それに、これは僕一人でやるべきことだ。セリスお姉ちゃんを巻き込むわけにはいかない。


 うん……セリスお姉ちゃんには申し訳ないけど断ろう。


 僕は断るために瞼を上げセリスお姉ちゃんを瞳を見ると……。


「ダメ…か…?」


 セリスお姉ちゃんは寂しそうな顔で僕に懇願した。


 もう……そんな顔をされたら断れないな。


 ここは、お姉ちゃんに甘える、という弟の特権を存分に活用しますか。


 セリスお姉ちゃんの厚意を無下にするわけにはいかないからね。


「お願いします…セリスお姉ちゃん」


「……! あぁ! では、早速向かうぞ!」


 セリスお姉ちゃんは僕を抱っこしてベッドから立ち上がった。


「あわわわ! このまま行くのは恥ずかしいよ!」


「むっ? 私はこの方が良いと思うのだが……」


 セリスお姉ちゃんが心底残念そうにしている。


 うっ、心が痛い。そんなに残念がらなくても…。


 でも、抱っこされた状態で会いに行くのは赤ちゃん扱いされてるみたいで恥ずかしいし嫌だよ。


 どうすれば……。


 そうだ! いい事思い付いた! 


 これなら僕たちの求めている条件を満たせる!


「セリスお姉ちゃん、手を繋ぐのはどうかな?」


「手を繋ぐ…か…」


「うん! 僕、セリスお姉ちゃんと手繋ぎたい!……ダメかな?」


 小首を傾げて尋ねると、セリスお姉ちゃんが暗い顔から明るい顔へと変わった。


「あぁ、分かった」


 笑顔を僕に向けてからゆっくりと僕を降ろした。


 ふ~、何とか赤ちゃんコースを避けることができた。


 よし―――


「セリスお姉ちゃん、一緒に行こ!」


 僕が笑顔で右手を差し出すと、セリスお姉ちゃんが微笑みながら頷き、手を繋ぎ歩き始めた。



 僕とセリスお姉ちゃんは目を合わせてから、一緒にアリスお姉ちゃんの部屋の扉を開けた。


 部屋の中には僕たちの予想通り、ミリスお姉ちゃんも部屋の中にいた。


 よく一緒に遊んでいるからね二人は。


「邪魔するぞ」


「お邪魔するね。ミリスお姉ちゃん、アリスお姉ちゃん」


「セリスお姉様! ユーリ!」


「ど、どうして二人が一緒に……!」


 二人は突然、僕たちが一緒に来たことを驚いた。


 それはそうだ。


 二人からすれば、ユーリはセリスお姉ちゃんのことを嫌っていると思っているから、一緒に仲良く来たことに驚くに決まっている。


 そう思っていると、セリスお姉ちゃんが未だ目を見開き意識が飛んでいる二人に、意識を取り戻す魔法の言葉を掛けた。


「ユーリがミリスとアリスに謝りたいことがあるそうだ。二人とも聞いてくれるか?」


「ゆ、ユーリが!」


「私たちに……!」


「「謝りたいこと!」」


 声を揃えないでよ、声を。


 緊張感が無くなるじゃないか。


 これから僕が真剣に謝ろうとしているのに気が抜けてしまうよ。


 でも、すごく心が温まるな……こういう家族のやり取り。


 僕は思わず微笑んでしまうが、ちゃんと謝るために一歩前に出た。


 そして僕は、ぼ~っとしている二人に、お膝を手に乗せ頭を下げた。


「つるぺたって言ってごめんなさい! 

 ムチケツって言ってごめんなさい!」


「へっ?」


「む、ムチケツ……。

 ユーリはそのことを謝りたかったの……?」


 僕は頭を上げて「うん」と頷き、顔をぽかんと口を開けているミリスお姉ちゃんに目を合わせる。


「本当はミリスお姉ちゃんのが大好きだ! 守りたくなるんだ!」


 その幼児体形を!…と伝えたかったが、ミリスお姉ちゃんが大泣きするビジョンが見えたのでやめた。


 すると、ミリスお姉ちゃんの顔が真っ赤にして頭から湯気のようなものが出て来た。


「だ、大好き!? 守りたい~~~!? 

 ま、まぁ分かっていたけど! 

 ユーリが私のこと好きで好きでたまらなくて両想いで―――」


 ミリスお姉ちゃんが変な独り言をぶつぶつ言っている。


 何だか怖くなったので無視した。


 次はアリスお姉ちゃんだ!


 僕は困惑しているアリスお姉ちゃんに目を合わせる。


「本当はアリスお姉ちゃんのが大好きだ! 

 顔を埋めたくなるくらい大好きだ!」


「~~~~っ!?」


 そう真っ直ぐに伝えると、アリスお姉ちゃんが顔を赤くして凄まじい速度で俯いた。


 それを見て僕は、心の中でガッツポーズをした。


 よし! 大成功だ!


 無事にユーリの本音を二人に届けることができたよ!


 本当に良かった……僕がユーリの記憶で知った、お姉ちゃんたちへの本心を伝えることができて。


 ユーリ…僕が代わりに君の思いをお姉ちゃんたちへの思いを届けたよ……。


 僕はユーリに思いを馳せていると……


 アリスお姉ちゃんが後ろを振り向き前屈みになった。


 アリスお姉ちゃん……? 


 どうして僕にお尻を向けているの?


「何……しているの?」


「ゆ、ユーリが…私の……お尻に顔を埋めたいって言ってたから……埋めさせてあげようって思って

 ―――というか埋めて欲しい……」


 えっ!? 


 今なんて言ったのアリスお姉ちゃん!? 


 埋めて欲しいってどういうこと!?


 それじゃあ、僕は今からアリスお姉ちゃんのお尻に顔を突っ込まなきゃいけないの……?


 僕はアリスお姉ちゃんの大きなお尻を凝視した。


 大きい…叩いてみたい……いやダメだろ僕!?


 そう自分にツッコミを入れていると、プルンプルンと弾ませながら徐々に僕の顔を目掛けてお尻が迫って来た。


「ほらおいで……ユーリ……」


 アリスお姉ちゃんがはぁはぁ…と息苦しそうに呼吸していた。


 アリスお姉ちゃんが苦しそうにしている……!


 なら…僕が助けなければ! お尻に顔を突っ込まなければ!


 覚悟を決めて飛び込むんだ!


 そう決意した瞬間―――


「何をやっている、この馬鹿者」


「きゃひんっ!?」


 セリスお姉ちゃんがアリスお姉ちゃんのお尻を手で叩いたことで、アリスお姉ちゃんはお馬さんのような声を出し、お尻がブルんと揺れた。


 お尻ってあんなにブルンブルンするんだ……。


 それを見て感動していると、セリスお姉ちゃんがミリスお姉ちゃんに冷たい眼差しを向ける。


「お前もいい加減妄想の世界から帰ってこい」


「はっ! せ、セリスお姉様! 違います! 妄想の世界に何か旅立っていません! 

 私はただ、ユーリとの思いを重ね合わ―――」


「それを妄想と言うのだ。頼むから静かにしてくれ」


「はい……」


 ミリスお姉ちゃんがしょんぼりとする。


 可哀想…ミリスお姉ちゃん……。


 だけど、何にせよ三人にちゃんと謝ることができた。


 今日からまた仲良し姉弟に返り咲きだ!


 とすると…後は僕の死亡フラグを折るだけだ。


 そのためには、クラリスタ公爵家当主とその妻……ユーリの両親を説得して使用人と領民に対する圧政と搾取を止めてもらわなければ。


 しかし、僕一人だけで説得できるだろうか、他に協力者がいれば……。


 僕は眉をひそめて思考を巡らせていると、ある解決策を閃いた。


 そうだ! 


 僕にはお姉ちゃんたちがいるじゃないか! 


 一緒に説得すれば何とかなるかもしれない!


 早速、僕の計画を伝えよう!


「あのね! みんなに聞いて―――」


 欲しいことがある!……そう言おうとした瞬間、背後からバタンと大きな音を立て扉が開かれた。


 そこにいたのは――――


 ユーリの父ゴルジとその母リリスがいた。











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