第2話
僕は勢い良く部屋の扉を開け廊下に出る。
「うわぁ! すごい絨毯! っじゃなくて」
僕は廊下に敷いてある綺麗な模様をした絨毯に感動しそうになるが、頭をブンブン横に振り目的を再確認する。
まずは、使用人のみんなにごめんなさいをしないと。
僕は首を動かし左右を見ると、遠くの方で老執事とメイドが会話をしながら掃除しているのが見えた。
だから僕は、二人に謝るために駆けだした。
「セバスチャーン! サーシャー!」
僕が走りながらそう呼ぶと、二人は目を見開いて走る僕を見ていた。
「ど、どうしたのですか…ユーリ坊ちゃま?」
「はぁ…はぁ…二人に謝りたいことがあって……はぁ……」
意外とこの距離まで走るのは疲れた……流石、お金持ちの屋敷は大きい。
そう思いながら息を整えていると、サーシャが「え~~~~~っ!!」と奇声を上げた。
「うるさいぞサーシャ! 黙らんか!」
「だ、だって…あのユーリ様が私たちに謝るのですよ!?
驚くに決まっているでじゃないですか!?」
そ、そういうのは本人――僕のいる前で話さない方が……まぁいいけど、前の僕ではないから。
「むっ…確かに私も驚きはしたがきっとユーリ坊ちゃまに私たちに対する心境の変化が―――」
「こんな唐突にですか……!」
二人の謎議論が凄く白熱している。
そんな光景を見て僕はセバスチャンに感心していた。
すごいなセバス…急な僕の人格変化に適応している。
普通だったらサーシャみたいに深い違和感を覚えるはずなのに……やっぱり年を重ねているだけのことはある。
でも…どうしようか…割り込むのは気が引けるけど……仕方ない謝るためだ。
「あ、あの…二人ともいいかな」
「「す、すみませんっ!」」
先ほどまでの熱戦が無かったかのように、僕がそう一声かけただけで、二人は背筋を正しながらガタガタと体を震わせている。
きっと二人は、僕を置いてけぼりにしていることを怒られると思っているだろう。
……が、その予想は違う。
僕は今から二人が考えていることの全く正反対のことをするよ。
僕はお膝に手を乗せ二人に向かって頭を下げた。
「―――二人に酷いことをしてごめんなさい!」
瞬間、ほんの僅かな沈黙が訪れるがすぐに終わった。
「ぼ、坊ちゃまっ!? 頭をお上げくださいっ!?」
「そ、そうですよっ!? ユーリ様が私たちのような使用人に謝る必要がありませんっ!? どうか、頭をお上げください!?」
二人が僕の目線の高さまで屈んで、手をわちゃわちゃして慌てている。
だけど僕は、二人の発言を無視して頭を上げなかった。
いや、上げたくなかった……。
なぜなら―――
「ううん、僕は謝る! 二人にもみんなにも悪いことしたから絶対に謝るもん!」
悪いことをしたら謝る、という身分が上だからって関係のない、当たり前のことをするためだ。
セバスには、お馬さんごっこを一緒に遊んでいるときに、僕はセバスの背中の上でジャンプをして思いっきり踏んずけてしまった。
そのせいでセバスは腰痛持ちになった……謝るべきだ。
サーシャにはスカートをめくったりスカートの中に入ったりとセクハラをした。
特にスカートの中に入って、サーシャの足に抱き着いた時―――
「ユーリ様…あんっ…ダメ…あんっ…ですよ…あ~んっ…ぐへっ」
……って、とても嫌がっている声がスカートの中で聞こえて来た。
子どもだからって何でも許されるわけじゃない!
れっきとした犯罪だ!
僕は何としても二人にも…使用人にも…姉にも…悪いことをしたら誰であっても謝ることのできる普通の人間に僕はなる。
それが、以前のユーリに対する悪印象を変えることに繋がるんだ。
そう気持ちを強くしてから大きく息を吸い大きな声で言った。
「―――セバスの腰を悪くさせちゃってごめんなさい! サーシャのスカートをめくったり中にはいったり嫌がらせをしてごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
……二人に僕の謝罪の気持ちが伝わっただろうか。
そう不安に思っていると、右肩に大きな手が乗せられた。
この手はセバスチャン……?
「……坊ちゃまのお気持ちは十分…私たちの心に伝わりました。ですからお顔をお上げください」
僕は恐る恐る頭を上げると、二人は微笑みながら僕を見ていた。
瞬間、僕の胸が熱くなった。
謝って良かった…心の底からそう思ったから。
僕は二人の優しい瞳を交互に見る。
「セバスチャン…サーシャ……」
「私はユーリ坊ちゃまの馬となれて喜んでおります。ですので、腰痛のことなど気にしないで下さい」
いや、気にして。普通に危ない。
自分の体、大切にしてよ。
そう心の中でツッコんだが、この優しい空気を壊したくないのでスルーした。
「私もセバスチャンさんと同じです。気にしないで下さい。……それに」
さっきまで目が合っていたサーシャが僕から視線を外し頬を赤く染めて俯いた。
「ゆ、ユーリ様にスカートの中に入られるの……大好きです……。きゃっ! 私ったらユーリ様に向かって何てはしたないことを……!」
サーシャが頬を手に当て、頭を横にブンブンと凄い速度で振っている。
そうなんだ。
あの声は嫌がったわけじゃないんだ。
サーシャにとって僕のセクハラ行動は嬉しいご褒美になっているんだ。
なら、これからはもっとサーシャのスカートの中に侵入してたくさんをご褒美をあげよ。
……となると他のメイドさんたちもスカートをめくったり中に入ったら喜ぶのかな?
ううん、それよりも二人にちゃんとごめんなさいができたから、他の使用人たちと姉たちにも謝りに行かないと。
善は急げだ。
「僕、他にも謝りたい人がいるから! じゃあね!」
そう言って立ち去ろうとしたが……。
「お待ちください! ユーリ坊ちゃま! その恰好では……」
「ん?」
僕は立ち止まって自分の恰好を確認すると、衝撃的なものを見た。
そ、そうだ! 寝起きだったから僕は―――
パジャマ姿のままだった。
恥ずかし~~~~~いっ!!
僕はその場で顔を覆い隠すように屈んだ。
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