第9話 これからの零式菩薩改

 珈琲の良い匂いが驚きの連続であった僕の心を落ち着かせてくれていた。零式さんを見ると、珈琲に角砂糖を二個、さ、三個? 入れていた。入れすぎじゃないのかな。まぁ、自由だな。


「堕天使の対応は、大変ですね。純粋な悪魔ならば、エクソシストや陰陽師おんみょうじの出番とか考えれそうですけど……」


「いや、逆に純粋な敵でない事を利用する事を思いついたのだ。ルシファー側近の堕天使の魔時空執行の魔力を利用して、大天使と僕の零式菩薩が魔時空執行待ちの下級堕天使達を物語へ続く道へと導く方法だ」


「‥‥‥」


 僕は、言葉が出なかった。そんな、おとぎ話のような事が出来るのだろうか? 

 しかし、零式さんの真剣さが雰囲気で分かるから、笑い飛ばすことが出来ない自分が居たのだ。堕天使のパワーを利用する方法があったのか……。

 それから零式さんは、普通の人間にとって堕天使は危険な存在であるから、なるだけ近寄るべきでないと語ってくれた。堕天使の負の力は危険だ。余計な事を聞かさない、発言させない為に耳や喉を狙う事や最悪の場合は、魂を奪われる。すなわち死だ。魔時空執行で魔道落ちの者に殺害されることも。会社が取りかれると失敗した製品や完全でない製品を世に出し、経営の危機になるかも? と注意してくれた。


 珈琲カップを持ったままで、零式さんは、立ち上がり、窓際に歩んで行く。そして、その場で外の景色を見ながら珈琲を飲みだした。渋い大人の男を演出しているんだな。


「零式さんは、珈琲を飲むのも渋いですね。僕は、先生の作品に対する考えすら甘かったようですね?」


 探るような思いで尋ねると、僕の方に身体の向きを変えた零式さん。その姿は、窓から入る太陽の光に温かく照らされて、輝いて見えた。


「笑顔戦記 second editionは、僕の全霊を持って勧請かんじょうをした作品だった。蓮輔れんすけと言う主人公と共に魔と、起こりえるかもしれない最悪の魔時空執行の悪夢を本として、その世界に封じ込めるのが目的なのだ」


 緊張したせいか、渇いた喉を潤すために珈琲を喉へ流し込んだ。

 僕は、ミルクも砂糖も入れないで飲むブラック派だ。どうやら、このインタビューも珈琲のように甘いものでは、ないようだ。


「笑顔戦記second editionは、師匠マスター如来にょらいを助けると言う意味の名の蓮輔と第六天魔王と匹敵するであろうパワーの免罪された天使ルシファーとで、滅亡回避の契約更新するのも目的であったのだが‥‥‥」


「失敗だったのですね。もう、駄目なのですか?」


「この作業は、時期などのタイミングも重要だ。それと、封印はデリケートだ。もし、僕の書いた小説のコンテストの応募したのを部分使用したり、ネット掲載を見て意識して僕の許可なしにセリフを使うと、ロックが解除されるのだ。そして堕天使達がこの世に解き放たれて、魔時空の悪夢が復活する。零式菩薩は、他時空を彷徨さまよう状態になってしまう。これでは、僕も神の裁きの対象になる可能性が有る……。リスクが高すぎるんだ」


 何だかよく分からないが、やすやすとする事が出来ないみたいだな。零式さんは、転生の召喚術しょうかんじゅつを実行して他時空異世界の零式菩薩の魂を心へと呼び戻したそうだ。そうでないと、このインタビューなかったのだろう……。


「どうやら零式菩薩が他時空に居る時に僕は、魔時空と堕天使の因縁いんねんから解放されたみたいだ。僕との運命をチェンジ可能とする共鳴対象が現れたので、ルシファーの側近堕天使は乗り換えたのだろう。その者は、大変な受難の道となる。神との契約を常に意識せねばならない。『雨よ降り続けろ! 心をうるおたせろ!』なんて事を多くの民衆に対して発言すれば、神の裁き発動の号令に等しい。そして、堕天使の魔時空約束の地が執行となるかもしれない……」


 神の裁き? 人間が審判を受けるのか? 人間は、神に裁かれるのか? 僕は、最悪の出来事が来るのを待つだけなんて嫌だ。


「なんとかならないのですか? 零式さんは、これからどうするのですか?」


 無力な自分を棚に上げて、責めるような気持ちで問いかけると零式さんは、手をあごえて、そして無言で考え込んでいるようだった。窓の外は、太陽が沈みかかり、僕と零式さんは、夕焼けの光に包まれていた。



「堕天使との共鳴者を日本のザビエルにするしかないな。ヘアースタイルもヒゲもだ。ザビエルニッポン! になるしかない……知らんけど」


「もぉー! 知らんけどを言うと思いましたよぉ。で、真面目な話はどうなんですか?」


「そうだな。もしかしたら、僕が諦めたなら、全て終わりなのかもしれないな。気を張らない程度の活動をしようか。魔から守れる心を人々が持てるように、人々が笑顔でいられる豊かな心にするために、楽しめる小説を書くかなぁ……。まぁ、でも僕ひとりの力なんて小さなものさ。大事なのは、皆に知ってもらう事。そして、皆で考えて気を付ける事だ。過ちを繰り返さない事が重要だ。それに神の裁きでない災害が起きたとしても、人々が力を合わせて助け合う事で、笑顔を取り戻せる日々が戻って来ると信じている」


 零式さんは、吹っ切れた感じで、僕に語りかけた。それから沈む夕日を眺めていた。

 こうして僕による、零式さんへのインタビューは、終わった。

 零式さんに、お礼と別れの挨拶をしてホテルを出た時には、真っ暗な夜の世界になっていた。

                                おわり

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インタビューwith零式菩薩改 零式菩薩改 @reisiki-b-kai

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