第4話 真実はすぐ近くに

 ガチャ。


 玉瀬が薫子の家の扉を開ける。


「ちょっと! そんなにくっついたら歩けんよ」


 玉瀬は腕にしがみつく薫子を振り払おうとするが、薫子は離さない。


「お邪魔しまーす」


 玉瀬は靴を脱ぎ、玄関に留まる薫子を置いて、先に部屋に向かう。


「ちょっと待ってよ」


 1人になって心細くなった薫子も靴を脱いで後を追う。


 部屋には誰かが潜んでいる気配はなく、玉瀬の家に向かう前の状態と何ら変わらない。


「誰もおらんやん」 と玉瀬。


 その時、カタッと何かが落ちる音がする。


 音がしたのは閉まったクローゼット。


 今まで誰もいないと思っていた部屋の雰囲気も重苦しいものへと変わっていく。


 玉瀬が忍び足でそっとクローゼットに近付く。


 玉瀬は意を決してクローゼットを開けると、中から空箱が1つ玉瀬の足元に転がる。


 誰もいない。


 そう分かった瞬間に、部屋の空気は明るいものに変わる。


「ほらー、何ともない」


 薫子はクローゼットの中にある服を左右に動かして誰もいないことを確認する。


「そんな正夢なんて簡単に起こるわけないねんって」


 そう言いながら、玉瀬は勢いよくドガっとベッドの端に腰掛ける。


 ぐにっ。


 玉瀬はお尻で何か踏んだものを感じる。


「ん?」


 ベッドの毛布をそっとめくりあげると、人間の指先が現れる。


「ウァァァ」


 玉瀬はベッドから飛び上がり、床に尻もちをつく。


 薫子も驚きとともに玉瀬に寄り添うように床に膝をつく。


 2人が固まっている間に、その指先の人物が逃げていく。


 薫子は固まった身体をなんとか向き直し、逃走する者の跡を目で追おうとする。


 しかし、玄関から出ていったその後ろ足しか捉えることしかできなかった。


 その後、薫子は玉瀬と交番に行き、警察に事情を話した。


 男の顔を見ることはできなかったが、もしかしたら防犯カメラやいつも清掃してくれている管理人の方が見ているかもしれないと薫子は警察に伝えた。


 ただ、夢で見たことが現実になったという話はイタズラに思われたくなかったので伝えることはできなかった。


 薫子は犯人が戻ってくるかもしれないということもあり、次の日から実家に過ごしながら引っ越しの準備を始めた。


 そして、仕事を昼から早退して、部屋に荷物を取りに行こうとしたある日、警察から電話があった。


「中山様の携帯でしょうか?長谷警察署の者です」


 急な電話にしどろもどろになりながら、薫子は意味のない会釈をしながら答える。


「あっ、どうも」


「いま、お時間よろしいですか?」


「はい」


「この前の事件ですが、近くの防犯カメラの映像を入手できましたので、今度警察署に来ていただけませんか?」


「はい、もちろんです」


「できればこの前のご友人の方にも見てほしいのですが」


「分かりました。調整してご連絡しますね」


「あと、マンションの管理人の方なんですが」


 すると、薫子はちょうど交差点を曲がり、50メートル先にマンションが見えるところまで来る。


 マンション前にはいつも清掃してくれる男性がホウキでゴミを集めている。


「そのマンションは管理人の方は常駐していないとのことなんですが」


「え?」


 薫子は立ち止まる。


「半年に1回、清掃会社の方が定期清掃するようで。中山様がおっしゃる管理人の方って、その清掃会社の方のことですか?」


 男のズボンのポケットから財布が見え、その財布には鈴が付いている。


 鈴は1つだが、もともと2つの鈴が付いていたようで、切れた形跡がある。


「もしもし?」


 警察の呼びかけが薫子の耳には届かない。


 あの日のことを思い出すと、男の背丈や体格が薫子のなかで一致していく。


 薫子の表情は徐々に確信に変わる。


「もしもし?中山さん?」


 薫子は会話途中のスマホを切る。


 薫子はしばらく掃除する男の後ろ姿を睨み、眉間にシワを寄せ、男に向かっていく。



※作品を映像で見たい方はこちらから

https://youtu.be/UPLqnsSKeSY

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

薫子の心霊日誌「鈴」 jo @mrmistake

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ