第13話 職場にいて仕事ができない?(通勤訓練)



 とうとう通勤訓練が始まった。


 正直なところ、休み始めて1か月後くらいに一度失敗したことが頭の中に残っていることもあって不安だらけだ。


 当時と違うのは、この先の進路が少しずつ見えていることと、いざという時の服薬やそこからの逃げ方を学んでいたということであろうか。


 また、今回の訓練ではそれまでの「行けるときに行く」ではなく、「〇日に行く」ということをあらかじめ決めておき、それを実行できるかという、自分の中での戦いでもある。


 迷惑をかけた職場の同僚に合わせる顔がないと思いながら、それでも初日は職場と相談し、健康な状態でも憂鬱になりがちな月曜の朝は避けるほうが無難ということで、火曜日の通勤時間を避けた時間から開始となった。


 今回失敗したら……という思いは、私だけでなく、職場の方にもあったのだろう。


 初日は、出勤メンバーも半年前に比較的あたりが少なかった方々のいる日にしてもらえたようである。


 本来であれば、そこで1日を過ごし、夕方に帰るということが練習条件であったが、最初のうちは指定した日に出てきたことを重要視して、最初のうちは午前中のみの短時間で上がり、数日ごとに少しずつ延ばす方法がとられて、最終的には日勤の時間を丸々クリアするレベルまでもっていった。


 このときに不便がなかったわけではない。


 この時、私はまだ休職中であり、正式に業務をすることが出来ないのである。当初は半年間で溜まりに溜まったメールの処理であるとか、ロッカーの整理などをしていたが、それにも限界がある。


 確かに出勤訓練なので、「出勤」することと、「事務室内で時間を過ごすこと」が訓練内容であるわけで、その目標は十分に達成しているのだけれど、目の前にやれる作業があるにも関わらず、勤務的には「休んでいる=不在」なわけだから、単純に言えば私のサイン(業務をしていた痕跡)が残っていては困ってしまうわけだ。


 そこで、書類関係を除いた(在所していた痕跡を残さない)作業をメインに行うことにして、空いている時間はその日の作業日誌を継続して書いていたり、窓口業務の裏方をして過ごしていた。

 折しも当時はコロナ禍で、新入社員の研修ができなくなってしまったり、配置転換などで慣れない業務に就いている社員も多数おり、そういった彼らの知恵袋的なものであれば、私の滞在履歴は残らない。


 病院に通院する日を報告しておき、職場での指定日(事前に分かっている予定が入っている日)を避けるようにして概ね週4日間は職場に通うことを続けた(通院の日はリワークに出所するので、形的には平日5日は全て家を出る形になる)。


 3週間も後半になったころ、4週目の半ばで産業医との面談を行うためのスケジュールの確認があった。


 いわゆる復職の判定会議というもので、この日までに主治医からの診断書も用意しておくことを約束した。


 不安がないわけではないが、逆に開き直りもできるようになってきた。

 職場の方でも十分に(外面的な)状況は把握できているから、無理はしなくてもいいとのことでもあったけれど、やはりそこにターゲットを持って体調面などを調整するのが社会人としての務めであろう(コロナに罹患するという、当時は法的に拘束力を持つ想定外の事象は抜きにして)。

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