第4話 社会復帰への挫折と一筋の希望



 

 前の章において、私自身の体力や気力が少しずつでも上向いたときに出勤訓練を重ねては、そのたびに失敗をして落ち込んだ経過に触れたので、ここをもう少し深く掘り下げたうえで、次にお話を進めることにしたいと思う。


 以前にも触れたように、休職を決定した当時、その期間というのは2か月ほどを見込んでいたし、医師からの診断書も1月ごとに延長の内容で発行してもらっていた。


 その合間にも、外出できる訓練として、以前の職場でお世話になった上司や先輩方ともお話をできる時間を作っていただいた。


 その時には少し元気を分けていただき、それを自信(と言えるかは分からないが)として、出勤訓練に挑むのだが、その都度失敗してしまう。


 何度も産業医と職場の三者面談をした中で、一度は3月1日の復職を目標にしようと仮決めまでした。


 しかし、その直後の事であった。やはり心身共に準備はまだできていなかったのであろう。

 あろうことか、私は自宅で一時的に意識が遠のいてしまい、気が付けば救急車の中で寝かせられていたという経験をしている。

 病院では過度の緊張による過呼吸という診断をしてもらい、点滴をして帰ることになった。



 しかし、この事件の反響は大きかった。



 まず、薬(抗うつ剤)の種類が変わり強さも引き上げられ、緊急措置として診断書が1か月延長された。


 次に産業医への連絡を入れたところ、3月1日の復職予定は一度無期限で延期された。


 そして、復職の件は一度横に置かれ、3月9日に産業医と私だけの面談が行われた。


 特段に緊急性の持病もないなか、主治医の指示通りに服薬をしている環境下での意識喪失と救急搬送の発生という事実は、まだ精神面では復職には程遠い状況が明確だということ。そのため、まず社会的復帰を目指そうということ。その延長線上に復職を持ってこようという長期戦に変わった。


 これまででは、そこに対する手引きなどはなかったのであるが(まずは休養第一であったため)、その時に産業医は「職場復帰へのリハビリとして『リワーク』に参加してみるのも一つの方法なので参考にしてみては?」という方針をくれた。


『リワーク』という言葉だけは、2月までの間に「うつ病から立ち直る一つの手法」とだけの知識しかなかった。


 詳しく話を聞いてみると、リワークにもいくつか種類があり、国や県、または職業訓練センター、ハローワークなどが実施するもの、また精神科病院などが独自にプログラムを組んでいるものなどがあるという。


 前者は行政が行っているため、受講すること自体は無料であるが、定員や見学の日程、プログラムの開始日などがあらかじめ決まっており、そこに入り込めるか?という懸念はあるという。

 後者は各病院独自のカリキュラムなので、問い合わせて詳細を確認することになるが、病院で実施することから、費用が掛かってしまうということであった。


 これはあくまで私の勤める会社の規定ではあるが、病気で仕事を休み始めてから180日間は「病気治療による無給」として扱われ、その後発令が出て「病気による期間」となる。


 どちらも無給であり、業務に行けていないことに変わりないが、復帰時に大きな違いが出てしまうのである。


 前者であれば医師の診断書と産業医と職場の合意があれば比較的軽い手続きで復職が可能になる。しかし後者になってしまうと、そこに外部機関の治癒証明(精神面での治癒証明は難しい。一般的に完治とは言わずするほどである)であったり人事課等との面談を追加するなどの手続きがあり、復職へのハードルが上がってしまう。


 そのため、産業医としても「休暇」のうちに復帰をするのがベターだが、先に述べたように行政によるリワークのスケジュールからすると、4月頭から開始になる可能性がある。リワークというものはその種類によらず、概ね3か月で1クールである。この間に体調面、課題遂行能力、集中力、周囲との協調力などを再定義していくものであるとの説明を聞いたのだが、4月頭からのスタートでは、終了は6月末となる。

 その結果を待ってから復職判定をするにはかなりタイトなスケジュールになることが予想されたが、次の診断書をリワークに行くことを前提とした6月末日までの3か月分にすることを提案されて了解した。


 リワーク関係の結果は追って連絡を入れることを約束し、その日の産業医面談は終わった。


 何気なく、私の住む地域でリワークを行っている場所はどこであろうか?とその場で調べたところ、なんという偶然か、通院する病院のウェブサイトに「リワーク」の文字があるではないか。つまり、同じ病院組織の中に主治医もいるということである。自宅から病院へは車でわずか5分の距離だ。


 自宅に帰り、その日のうちに病院に電話を入れた。


 産業医からリワークを受けたほうが良いのではないか?というアドバイスを受けたことを伝えると、すぐにリハビリ担当につないでくれた。そして、「病院なので開始するスケジュールはいつからでも大丈夫」ということ。本来は診断書等の書面が必要であろうリワークの参加可能かの判断は、その場に主治医がいるということで、電話の保留中に確認を取ってくれ、即答で許可が出た。(主治医のいる病院にリワークがあることの利便性はこのときから発揮され、その後何度もお世話になることになる)


 電話の翌日には見学、その場で「自立支援医療(精神通院)支給認定申請書(※)」を説明してもらいながら記載し、翌日に市役所へ提出。


 産業医面談から1週間以内という異例の速さで、3月13日に初日を迎えることになった。懸念事項だったリワークの3か月はこれであれば半月以上の余裕を持てる。


 以上を産業医と職場に報告し、まずはリワークがスタート。別途落ち着いたころに面談を設けることとなった。(この時の病院の選択があとで大きく関わってくるなどとはその時に知る由もなかった)


 とにかく、ここから3か月。社会復帰に向けた訓練が始まることになった。



(※) 自立支援医療(精神通院)受給認定:簡単に言ってしまうと、精神科への通院は長期間(数年~数十年)に渡ることが多いため、県などによる医療費助成の制度があります。病院と薬局等を申請・登録することができ、そこで「精神科の治療」に関係する費用(診察・リハビリ・処方薬等、健康保険適用の項目の自己負担分)が一定額までに抑えられるという仕組みです。患者個人によって上限額は異なり、家族構成(扶養家族人数等)や前年度の収入などによって変わります。なお、受給者証を提出した場合、登録された病院・薬局での自己負担は1割(通常の保険証のみでは3割)となります。

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