第34話 【第3章 1-2】

「誰かに見られてないよね」

 千戸世が振り返り振り返り歩く。

(見つかったら、終わり。ピアール隊に何をされるか、分からない)

 藤華も用心深く周りを見て歩いた。

 15分後に、北へ向かった。そこから10分後、竹林に着いた。

 途中、幸いにも、人に会う事は無かった。

「誰もいなくて良かった」

 二人はほっとした。

 ここから湖まで道は無い。二人は竹林の中へ入り、竹をけて進んだ。

 竹林が終わると、目の前に加沼があった。

 二人の近くに、なんと、サフィーヌがいた。

「あっ、千戸世と藤華。今回はこっちから来たのね」

 サフィーヌが振り返って言った。

「うん」千戸世。「サフィーヌ、アズマにどうしても聞きたい事があって。呼んでくれる?」

「分かった」

 サフィーヌは水の中に飛び込んだ。

 3分後。湖が波立った。

「アズマ様、敵はいません。大丈夫です」サフィーヌが出てきた。

 ゆっくりと、アズマが水中から現れた。側にレグリーもいる。

「緊急の用事らしいな」アズマ。「何があった」

「ピアール隊の娘と息子の話を聞いたんだ」藤華が話す。「ピアール隊は、あいつらが『青い宝玉』と呼ぶ物を持ってるらしい。それが、あいつらにはとても重要な物だ、と」

「もしかしたら、それはアズマに関係がある物なのかもしれないと思ったの」

 千戸世が言う。

「アズマ、それについて、何か知らない?」

 真剣な表情で藤華。

 アズマは頭を巡らせているようだ。サフィーヌとレグリーも考えている。

「……分からない。思い出せないのだ。きっとそれは、私と深い関わりがある品なのだろう。だが、今の私の頭には、何一つ手がかりが浮かんで来ない」

 悲しげにアズマが言った。

「私も、分かりません」

 サフィーヌもしょんぼりと言う。

「俺も、同じだぜ」

 レグリーも悔しそうに言った。

「そっか……」

 千戸世も沈んだ声で呟いた。

(これを聞いたら、ヒントになるだろうか)藤華は考えていた。(よし、聞こう)

「1つ、気になってる事がある」

 藤華が切り出した。

「なぜ、新年竜神しんねんりゅうじんの言い伝えを行う事で、アズマが生き返れたのか。知ってるなら、教えて」

「あ、そういえば、言ってなかった」

 とサフィーヌが言った。

「私が言おう」アズマ。

「まず、そもそも私は完全に死んだのではない。竜の肉体が傷付き、滅んでも、魂は骨の中に留まっていた。私は、1度だけ、元の竜の姿を得る事が出来るのを知っていた。魂が再び体を取り戻すには、きっかけが必要だったのだ。それこそが、古くからこの世界に在る、とても強い魔法――新年竜神なのだ」

「それじゃあ、新年竜神というのは、魔法の事だったのね」

 納得、という顔で千戸世は言った。

「その通り」

 アズマは頷く。

「しかし、誰もが出来るのではないのだ。それが出来るのは、魔力を持っている者のみだ」

「という事は」藤華。「サフィーヌとレグリーが、それだったんだ」

「半分、正解」

 レグリーが千戸世を見ながら答える。

「藤華、日記帳を書いて、投げ入れた人を忘れてるぜ」

「わ、私?」

 千戸世が驚く。

 アズマ、サフィーヌ、レグリーが首を縦に振った。

「そうなの?」

 千戸世、半信半疑だ。

「で、でも、私、魔法とか、不思議な事が自分から出てくる経験をした事が無いよ。……あの日の波の事以外は」

「もちろん、そのままでは魔力は発揮出来ない」

 アズマが言った。

「千戸世が持つ力は、訓練や練習をしないと、使えないよ」

 腕を振る仕草をしてサフィーヌも答える。

「訓練や練習? どうやって?」

 不思議そうに藤華。

「それを行える場があるのだ」アズマ。「この世界に、ほとんどの人間が知る事の出来ないようにして、それは――」

 沈黙。

「アズマ様?」

 サフィーヌがアズマの顔の高さまで飛んで、聞いた。

「どうしちゃったんだよ」

 レグリーも不安がる。

 千戸世と藤華は顔を見合わせ、次に、アズマを見た。

 アズマは目を閉じ、厳しい顔つきになっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る