第5話 【第1章 3-2】
「ええ、私達、親友です。そして、お互いにたった1人の友なの」
千戸世はそう言った。
「たった1人、とは?」
アズマが聞き返す。
藤華の目が陰った。その空気を感じて、千戸世も視線を落とす。
「私も千戸世も、誰も信じていないんだ。人なんか信用できない。あんな事があったから、尚更そう。他の人から見たら、変人に映るのだろうけど、私達は気にしていない」
藤華はきっぱりと答えた。
千戸世はその言葉を受けて、頷いた。
「でもね、アズマ」千戸世は顔を上げた。
「私達は、アズマ、サフィーヌ、レグリー、三人を信じる。どんなことがあっても」
それを聞いた藤華が、はっとした顔になった。
「そうだ、アズマ、大変なんだ。『水の感謝祭』が、
「えーっ! そりゃホントに大変だ」
レグリーが叫んだ。
アズマもサフィーヌもレグリーも、『水の感謝祭』をよく知っている。すぐに、大勢の人間がここに来る事を予感した。
「アズマ様、どうしましょう」
サフィーヌがかなり不安そうに問う。
「
千戸世が水際ぎりぎりまで駆け寄って叫んだ。
「今は禁漁期間だから、いつもの人だかりはないから」
「空飛んで行く、って事か?」とレグリー。
皆の目がアズマに注がれる。
「止むを得まい。そうしよう」
アズマが言った。
「きっと、ピアール隊がここを調査しに来る。今夜にも出発して」
藤華が千戸世の側へ来て、アズマ達を見て言った。
――ピアール隊。その組織は、公認の調査機関、というのが表向きの看板だ。しかし、内実は、アズマを含む〈危険な生命体〉を滅ぼす事だけに躍起になっている、闇ずくめの、得体の知れない集団なのだ。
「また、ピアール隊か。しつこいやつらだ」アズマ。
「私達、ピアール隊の娘と息子と、同じクラスになっちゃったんだ。私達はあいつらのせいで、動きが限られる」
藤華は拳をぎゅっと握りしめ、悔しそうに言った。
この町で『ピアール隊の娘』と言えば、陰見知乃の事を指す。同様に、『息子』とは、中留夕作の事だ。
「あいつ――陰見知乃は、両親、祖父母、伯父から、どいつもこいつもピアール隊員なんだ。特に、父親と伯父は隊長・
言いたくないけど、という雰囲気で藤華が言った。
「だからみんな、あの人には何も言えないの。父が隊員の中留夕作についても、おんなじ」
千戸世が言葉を続けた。
「あの連中の子供も、同じ活動をする。油断できない」
アズマは言う。
「入隊できるのは18歳以上の男女、なんて嘘。あの人達、絶対に親達を手伝ってる」
藤華は半分怒り顔で言う。
「それじゃあ、二人が協力するのって、難しいよ」
サフィーヌが悲しそうに言った。
「いいえ。サフィーヌ、それは大丈夫。二人なら、できる事が増えるもの。今までより、もっとアズマの力になれる」
千戸世が明るく答えた。
「本当に? だって藤華が、動きが限られる、って」とサフィーヌ。
「確かにそうだけど、まだあいつら、私達の秘密を知らない。だから、まだ動けるよ」
藤華も明るく言った。
「私達は決して、あなた達を裏切らない。信じて、私達を」
千戸世は力強く言った。それから、藤華の方を向いた。
「私とあなたも、裏切る事は無い。藤華、私は、死ぬまでずっと側にいるよ」
いきなりそう言われた藤華は、目をぱちくり。
「……よく、それをさらっと言えるよ」
小声で藤華は言った。
いつものふんわりとした笑顔になった千戸世は、藤華の手を取り、握った。
「人間で、信じられるのは、あなただけ」
優しく千戸世は言う。
藤華は千戸世の目を真っ直ぐに見た。
「私も。千戸世、私達は、お互いを守るよ」
藤華が強く言って、相手の手を握り返した。
その様子を見ている、人間ではない三人。アズマは最初の穏やかな表情を崩さずに、藤華と千戸世から目を離さない。レグリーはにっこりして、湖岸すれすれを泳ぐ。サフィーヌは空中にいながら、嬉し泣きしていた。
「さて、我々は姿を隠そう」
アズマが言った。
その言葉に、千戸世と藤華は素早く反応した。
「えっ、もう……」と千戸世。
「次に会えるのは、2ヵ月も先だね」
「さあ、行こう。人が来そうだ」
アズマとレグリーは静かに湖の中へ潜っていった。
「では、また今度」
サフィーヌは袖で涙を拭いて、どこかへ飛んで行った。
千戸世と藤華は手を離した。
二人は
二人以外の人の気配を感じたのは、藤華が先だった。
「千戸世、人が来る」
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