第1章
第2話 【第1章 1】
4月。
校舎の前の掲示板に、第1学年のクラス名簿が貼られた。新入生の群れがワッと押し寄せて、自分や友達の名前を探し始めた。
その中を、高く結った長いポニーテールの少女が人の隙間を通って、前面に出た。
名簿を一通り見終えた途端、彼女の顔がぱあっと明るくなった。
その少女はまた人の隙間を通って群れから抜け出すと、校門の方を見た。
ちょうど、髪をハーフアップにした少女が、大人の女性と共に門を通った。
「
ポニーテールの少女が門の方に叫んだ。
ハーフアップの少女――千戸世の表情が柔らかくなった。
「
千戸世も叫んだ。ポニーテールの少女――藤華がにっこり笑った。
「お母さん、また後で」
千戸世は隣の女性に言うと、小走りで藤華の側へ行った。
「私も千戸世も2組。7年連続で一緒ね」
藤華が言った。きらきらという表現がぴったりの笑顔だ。
「本当に? 嬉しい」
千戸世が微笑んだ。こちらはふんわりとした笑顔だ。
「ほら、見に行こうよ」と藤華。
二人は掲示板の前に来た。1年2組と書かれた名簿には、〈
「本当ね。よかった。離れたクラスだったらどうしようかと思ってた」
千戸世はほっとした顔になった。
突然、がやがやとした声がぴたりと止んだ。ひんやりとした不気味な空気が辺りを包む。
新入生達の群れがさっと2つに分かれ、掲示板までの道を空けた。誰1人として笑っていない。不安そうな顔や、嫌悪感剥き出しの表情ばかりが並ぶ。
校門から、真っ直ぐな黒髪を腰まで下ろした少女と、背の高い少年が、歩いてくる。
「
藤華が小声で、その少女の名を言った。彼女も険しい顔つきに変わっている。
知乃は少年と、何事も起こっていないかのように、皆が空けた空間を通った。掲示板の名簿をさらっと眺めると、振り返って、彼女の後ろに立つ少年に、
「
と無表情で声をかけた。
知乃は次に右を向いた。目が、そこにいる千戸世と藤華を捉える。
「よろしくね」
意味有りげな微笑でそう言うと、知乃と夕作はまた空いた空間を通って、昇降口へと歩いていき、校舎の中へ入った。
再び人の群れが
千戸世と藤華がもう1度名簿を見ると、確かに、2組の所に〈陰見知乃〉と〈
「少なくともこの1年、辛い日々になりそう」
藤華の言葉に、千戸世も小さく頷いた。
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