値引きシールと、アルミ製の鍋焼きうどん。

櫻月そら

値引きシールと、アルミ製の鍋焼きうどん。


 久しぶりに、アルミ製の鍋焼きうどんを食べた。


 冷やし中華や冷たいうどん、蕎麦のコーナーが、いつの間にか冬仕様に変わっている。


 冬のシンボル。

 コンビニおでんも、その類だ。


 コンロに直に置いて調理するタイプのシリーズは、あまり値引きされない印象がある。


 店内の石焼き芋の香りを聞きながら、アルミに入った麺たちを見つめた。


 今日は珍しく、黄色に赤文字の値引きシールが貼られていた。

 何%オフだろうと考える暇もなく、手を伸ばしカゴに入れる。


 一番上を取ると、その下の商品にはシールが貼られていなかった。


 あとから横に並んだ女性が「あら……」という顔をしている。


 それでも、ごめんなさい。これが食べたいんです。


 関西人だから、というと他の方から苦情が来るかもしれないけれど、値引きシールも好きなんです。


 一生豪遊できる資産があっても、シールが付いたものを私は選びます。


 帰宅してから、早速、アルミ鍋を火にかけた。

 五徳の中心を覗き込み、何度も鍋の位置を調整する。うっかり素手で動かすと、指先が大変なことになる。


 動物の鳴き声のような音を立てながら、アルミの端がこげて、ジワジワと広がっていく。


 その様子を見ていると、自宅で作るポップコーンを思い出した。あれもアルミ製だ。

 今も売っているのだろうか。


 ポンポンと弾ける音に怖がる私を笑う、祖母の声と顔を思い出す。


 足腰が弱り、ケアホームに入居した祖母の顔をしばらく見ていない。

 コロナ禍により刺激が少ないためか、認知症が進み始めている、とケアマネージャーから時々連絡が来る。


 そんなことを考えていると、うどんを少し湯がき過ぎた。


 大丈夫。私は柔らかめが好きだから。

 家族には、私の好みは不評だけれども。

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値引きシールと、アルミ製の鍋焼きうどん。 櫻月そら @sakura_sora

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