04. ぼくたちの「象徴」の在処は?
唇にシャワーが当たるたびに、びくっとして、ノズルを離してしまうのはなぜなのだろう。
毎日のように、度の過ぎたイタズラを受けてきたわけだけれど、それはぼくとの認識の違いに起因していたのか。
ほかの院生にバレると面倒だから、大学では「古原」と呼び、キャンパスの外では「よーくん」と呼んでくる。そうした使い分けをするくらいだから、真剣に「お付き合い」をしているつもりなのかもしれない。
わしゃわしゃとタオルで髪をかきまぜて、ごちゃごちゃとしていく感情を薄めてみようとしたけれど、絵の具をかき混ぜるがごとくに、パレットの上が色濃くなっていくだけだった。
He suggests that some of humanitarian intervention operations suffered from……from……from!
はあああぁぁぁ! 集中できない!
眠いとか、やる気が起きないとか、そういうのなら、まだ対処のしようがあるのだけれど、水をかければかけるほど勢いを増す、魔法の暖炉の火みたいな、コントロールできない熱っぽい感情が、ぶわーっと全身に広がっていく。
かりに、ぼくたちを「恋人」にまとめあげる「象徴」があるのだとしたら、なんなのだろう。どちらかから告白をしたわけでもない。お互いに恋人どうしであると確認しあったこともない。
でも――ほんとうに、そうなのだろうか?
愛情が、より特別な愛情になるための生成が、無意識のうちに行なわれているのだとしたら?
だからぼくは、先輩を拒めないのではないか?
そういうことも、なくはないのだろうけれど、実感として迫ってこない。
* * *
電灯の光を受けて形作られた先輩の影が、壁に背をついているぼくに重なる。ぴたりと両の掌が壁について、先輩のふたつの腕が、ぼくの逃げ道を消してしまった。
「ほかの院生に悟られるとイヤだから……嫉妬されたりしたら
「ちょっ……ちょっと、先輩っ!」
先輩の顔がゆっくりと近づいてくる。甘い吐息がこそばゆい。だけどぼくも、すっかりそれを受け入れようとしている。
すると、もう逃れられない宿命から目を逸らさない――というより、運命に翻弄されてみようという覚悟みたいなものが生まれてきた。
そして――残量がなくて途中までしか録画できなかったドラマのように、ぷつんと物語は切れてしまって、カーテンの隙間から束になって差し込んでくる光が、朝の到来を伝えてきた。
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