第2話 夢の夢の夢


 夢を見る。

 私自身のことだったり。他の誰かのことだったり。全く知らない人のことだったり。身近にいる人のことだったり。

 遠い国でのこともあった。家の中でのこともあった。

 楽しいものもあった。悲しいものも、苦しいものもあった。

 でも、それは全部、夢。

 じゃあこれはどうだろう?

 私はふわふわとした場所にいた。実際に触ってふわふわとしている手触りというものではなくて、ただやわらかく光る、抽象的な空間にいた。

 どこなんだろうな、ここは。

 呑気に、そんなことを考える。こうして思考ができているということは、私は夢の中にいるわけではないのかも知れない。

 あーあ。どうせ夢を見るのなら、もっと面白いものの方がいいのに。不満を口に出してみる。だが、この空間に変わりはない。

 ぼんやりとした光が、辺りに浮かんでいる。ぽつ、ぽつ、と。

 光を目印にして、ふわふわの中を歩いてみることにした。この先に何があるのかはわからないけれど、何かがあるんじゃないか、と期待してみることにしたのだ。

 ふわふわの中は、あまり歩きやすいとは言えなかった。足元が不安定で、よっこいしょ、と持ち上げたりしないと歩けない場所もあった。天井は高く、手を伸ばしても届かない。

 ここは、何だろうな。改めて疑問に思い、足を止める。

 もうここのことを考えるのはやめにしようかな。目を覚まそう。ぐ、とまぶたに力こめて目をつぶり、ここは、どこでもない私の部屋だ。と思う。

 すぐに目が覚めた。私は、部屋の中にいた。

 でもどうしてだろう。部屋の扉の前で、ぽつんと立っていたのだ。

 あれ? 私、布団の中にいるんじゃないの? 

 まあいいや。とりあえず布団に横になろう。そう考えて、布団を捲った。


「私?」


 そこにいたのは、私だった。

 いつもの癖で、くるりと胎児のように丸まって眠っている。いや、眠っているんじゃない。

 これ――――、死んでる。

 ひ、と。短い悲鳴が出た。これは、私の死体だ。

 そうだ、私、そうだ。

 たくさん、たくさん眠りたくって。

 頭の周りに、空の瓶がいくつも転がっていた。私は、ただ眠りたかっただけだ。もうお父さんに殴られるのもお母さんに怒鳴られるのも嫌だから。眠りたかっただけなのだ。

 ああ、でももう死んでるなら、いいや。

 私は、床に敷いた絨毯の上に座り込んだ。そのまま、居眠りをするみたいにこくり、と船をこぎ始める。

 遠いところで、お父さんとお母さんが怒鳴りあっている声が聞こえた。

 願わくば、全てが夢でありますように。

 そして私は、眠りに就いた。

 【了】





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