第6話 説明してもらう。
『お前にもわかるように、簡単にこのゲームの説明をしてやろうかのう』
自身の命の危機だと言うのに、この現象をゲームなどと軽く表現するお姫様の気持は良くわからなかった。だが私は下僕であり奴隷であり魅了された形ある獣である。「はい」と返事をする他ない。
寝転がっていたのだが、お姫様の大事なお話である。私は身を起こした。美少女はよいしょよいしょといった体で、避けていた、折りたたみの小さな座卓を二人の間に設置する。
『あおたま、ちょいと頼むぞ』
ラメの入ったあの青いボール状のお姫様の手下は、手下なのか、我々が思うところの道具状の何かなのか、形に縛られたものにはよくわからないのだが。ともかくあおたまと呼ばれているそれは、彼方と此方を、割と自在に往還しているようだ。
美少女の手によって卓の上に載せられたあおたまは、分裂してふたつに。それぞれがしろたまとくろたまに別れる。黒白はそれぞれがさらに細かく分裂して卓上に散開。一見、囲碁かオセロの盤面のようになる。
『先に言ったとおり、敵対勢力があるのじゃ。不定形な存在に対して形の決まった奴らの、血で血を洗う骨肉の仁義なき抗争というやつじゃ』
小さなお姫様はつまらない単語をご存知である。
「負けそうなの」
『どこまでもマイナス思考じゃのうお前は』
「うん。勝負事なんて勝てる気がしない」
『しかしまあ、負けとるんじゃが』
黒のほうが若干、数が多く、白を包囲している箇所が多いようにも見える。
「やっぱり」
『一見拮抗しておるんじゃが、実質は圧されておるのう。このあおたまが』黒白は一瞬であおたまに戻る。『情報を収集してくれているのだが』言い終わるとまた囲碁に戻る。
「有能だね、あおたま」
『うむ。こんなことも一瞬じゃ』
黒白が集合して、美少女の姿に変わる。テーブルの上に乗った、さらに小さなお姫様は、テレビか何かで見たのだろうか、可愛らしく踊っている。
「ああくぁわいいい」
『ちょろいもんじゃなあ』
「それどころじゃない。劣勢なんて大丈夫なのどうするの」
ハンドタオルを畳んでちょうどいい大きさにしてテーブルの上に置くと、小さなお姫様はちょこんと座る。それどころではないはずだが、お人形遊び用のミニチュアセットなどよろしいのではないですか、などと考えてしまっていた。
『ふうむ。そもそものう、奴らと我々は拮抗しているのが、両者にとってもっとも良い状態と言えるのじゃ。さらに言えばお前たちにとってもいい状態と言える』
「えっ、私達に関係があるの」
『ある。ただ、これらは一概には言えないのじゃ。便宜上、彼方此方と言い表すことにするが、彼方の勢力があまりにも偏ると、深刻な気候の変化が生じる場合がある。これは彼方此方に共通して影響が出る』
ただ、気候の変動が起こったからといって、それが何事かに対して決定的な事柄に通じるかと言うと、これはわからない。私達の世界、此方は温暖と寒冷を繰り返して現在に至っているし、生命体の勢力図の形成に大きく影響はしているが、生命体自体が根こそぎ滅ぶというような事態には陥っていない。
『だから、お前たち人類が滅んだりするかも知れんが』
大きな目で見れば大したことではない、と美少女は平気な顔で言う。
『我々がお前たちを滅ぼしてやろうと思い立ったのも、彼方の形あるものとお前たちとは、形がある、形を成そうとする、という点において、親和性が高く、影響し合っている可能性が高いのじゃ。そこで、お前たちの勢力を減ずれば自然彼奴等も大人しくなるものじゃろうと睨んだのじゃが。何しろお前たちも、近頃でかい顔をしておるようじゃから』
ということは、彼方も地球上に存在するということなのだろうか。それとも、私の知らない世界の見方があるのかも知れない。
『だがのう、ここに来て不確定要素が生じてしまった』
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