添い寝男子

桃もちみいか(天音葵葉)

兄妹の金曜日の夜

 一人暮らしの大学生のお兄ちゃんちに遊びに行く。


 東京都心に近い。


 お洒落な街。


 だけど、お兄ちゃんちは狭い。


 夜は一緒に同じ布団で寝る。


 お兄ちゃんが実家にいた頃から使っていたベッドは古くて。


 どちらかが寝返りを打つたびに、ギシッときしんだ。


「お兄ちゃん、寝た?」

「寝た」

「ふふっ……、寝てないじゃん。眠ってる人はお喋りしないんだよ?」

「寝言、寝言」


 お兄ちゃんが私を後ろから抱きしめた。


「添い寝するだけってのも、俺にはだいぶ我慢の限界なんですけどね? 晴音はるねちゃん」

「だって、私。最低でも週イチはおにいの添い寝でお兄を充電しとかないと平日ぐっすり眠れなーい」

「もうこっちに一緒に住んだら? ……俺達一応、親の許可取れてる恋人同士じゃん。晴音の高校、送り迎えしてやるよ?」


 そう、私とお兄ちゃんとは家族だけど血の繋がりはない。


 親同士の再婚で家族になった、義理の兄妹なんだよね。


「……私が家を出たら、お母さんとお父さんが寂しがるから」

「そうか〜? あんがい新婚気分に戻って二人きりを満喫するかもよ? あの二人いい年して、所構わずいちゃいちゃしててさ。子供の立場からしても目のやり場に困んない?」

「お兄は知らないんだよ。あのね、お兄が一人暮らし始めて、お母さんもお父さんもけっこう寂しそうだよ?」

「ふーん」


 私を抱きしめるお兄ちゃんの腕にぎゅっと力がこもった。


「俺、9割ぐらいは晴音といちゃつきたくて家を出たんだよね。さすがに父さんと母さんの前で晴音に手を出しづらいじゃん。抱きしめたいし、一緒に寝たい」

「うーん、そっかあ。お兄、ありがとう」


 布団の中でくるりんと私は前を向かせられ、お兄ちゃんと真正面から抱き合う。


 私の顔を見つめてくるお兄ちゃん。


「どういたしまして。……ところで晴音、俺はいつまで添い寝だけ男子でいなきゃなんねーの?」

「お母さんが私が20歳になるまではそういうのだめだって」

「そういうのって?」


 んっ? お兄ちゃんの顔がなんかいじわる。


「キ、キスとか?」

「キス、ねえ〜。もうしちゃってる場合はどうすんの?」

「えっ! えっとー。そ、それから先はだめなんじゃない?」

「じゃあ、キスまではオッケーだ」

「今日はヤダ」

「ヤダってお前さ。生殺しじゃんか」

「添い寝だけして、お兄」

「晴音が可愛すぎて。約束できんわ、俺」

「ふえっ!? ……おっ、おやすみー」

「……こんな状態でお預けとかなしだろ〜、ひでぇな」


 恥ずかしいんだもん。

 急に甘くて男の顔して迫ってくるとか。


 今日は我慢してね、お兄ちゃん。


「もう寝たの、晴音? 仕方ないなあ」

「……んんっ」


 一度、唇に重ねられたお兄ちゃんの唇は柔らかくって熱かった。


 お兄ちゃんの腕の中はあったかくて安心する。


 おやすみなさ〜い。


 



 

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