第4話
ティアの胸から放たれる光は、大量の魔力が燃焼する象徴だった。彼女はフィアンナと同じ色、鮮やかな青紫色を放っていた。しかし、彼女は足元の水たまりに気づいた。敵は水属性の術式を得意としているようだ。
ルイはまだ意識を失っていたが、身を起こそうと闇の中を手探りで進む。外の喧騒の中で、フィアンナの呼び声や遠くの爆発音が聞こえてきた。彼はフィアンナに応えようとしたが、声は外に届かず、暗闇の空間で反響して、頭の中で響き渡る。
「周りの全てを感じろ、全てのものの存在を感じろ。」
突然、父の声が外の音をかき消し、それは父が去る前に残した最後の言葉だった。
「全てのものの存在を感じるんだ。」ルイが繰り返す。
やがて、暖かさが湧き上がり、暗闇が消え去り、明るさと清らかさが彼の身の回りに戻ってきた。数秒間、純白の世界と共にいた後、痛みと吐き気が襲ってきて、彼は咳き込み、肺の水を吐き出そうとした。
「――」
「フィアンナ……」
「――動けるかい?」
ルイは、フィアンナが自分の胸に手を置いて、彼に魔力を分けていることに気づいた。
「動ける……もう大丈夫だ、ありがとう。」
発熱する体、滲む汗。ルイは、体内の魔力がさっきよりも多くなっていることに気づいた。おそらく無意識のうちに魔力を吸収し続けていたのだろうが、その一部はフィアンナからのものだと確信していた。
彼は立ち上がり、二人を取り巻く速い気流を観察した。それはフィアンナが作ったもので、敵の暗器や戦闘の余波から守るための防護風壁だった。一方、ティアは外で息を切らしながら、周囲を火で照らし、まるで火の迷宮を作り出していた。地面の水たまりと空気中の湿気が蒸発していった。
「ティア!」
「――ルイ、目を覚ましたのか、良かった。」
ティアは、呼び声に応えてルイに振り返った。
「二人とも準備しろ、彼らが攻めてくるぞ!」
ルイは、フィアンナと共に今のティアを守らなければならないことを理解していた。戦い続けてきたティアの顔には疲労の色が浮かんでいた。
外の野原に火がついて、影が闇の中で揺れ動いていた。それは敵が体魔法を駆使して加速しているものだった。彼らは火の迷宮の入口が開かれるか、中心への近道が現れる瞬間を待っていた。
「ママ、火を止めて。」
フィアンナが辺りを見渡すと、火の壁の外に7つの魔力の源が燃えているのが見えた。どうやら敵は何かを準備しているようだった。それならば、敵が来なければ、彼らも戦いに出るべきだとフィアンナは思った。
「でも――」
「ルイ、フィアンナの言う通りだ。確かに、ずっと守りに徹するわけにはいかない。私も少し休む必要がある。」ティアはルイの疑問を遮り、苦笑いしながら言った。
「ルイ、私と一緒に来て!」
「わかった。」
これから何が起こるのかはわからないが、フィアンナの指示に従い、ルイは魔法紋を全身に纏い、ティアは火を抑える。次の瞬間、フィアンナが風の壁を解除すると同時に、二人は火の中に飛び込んでいった。
ティアは二人の姿をじっと見つめていた。彼女だけでなく、披風を纏った敵も二人の動きに目を奪われていた。ティアは最低限の血魔法の感知を保ちながら、敵に接近されないようにしつつ、体魔法の状態に入った。彼女は四肢を強化することなく、魔力を肺や体の隅々に注ぎ込み、迅速に体力を回復させた。
「エルトン……あなたが私たちを見守ってくれているんだろう。」ティアは独り言を漏らした。
身体に沿って素早く流れる気流が、ルイを炎から隔て、燃え盛る野原を縫って進ませていた。彼はフィアンナをちらりと見ると、彼女はすでに剣を抜いていた。躊躇の後、ルイは腰の武器に手をかけた。
彼はまだ完全に剣の使い方に慣れていなくて、剣を振るときに感じる血肉が剥がれる感触が苦手で、彼の戦闘スタイルは中〜遠距離戦に向いていた。
自身の体調を見極めると、昨日フィアンナとの練習のおかげで、体がまるで石を背負って動いているようだった。フィアンナに心から感謝した。
彼はまず、血魔法で敵を抑えてフィアンナを支援し、様子を見ることにした。
「こいつらを先に処理しろ――」
披風の男が叫んだが、突然動きを止めた。彼の仲間の一人が、フィアンナの長剣で首を突き刺され、横に引き裂かれていた。頭がほとんど体から離れた状態で倒れた。
「戦闘中は気を散らすな。」
ルイは皮肉に笑い声を上げた。彼は火炎を高圧縮された空気の柱に巻きつけ、それを火炎の矢として使った。空気の柱の中の濃厚な酸素により火炎は更に高温になり、白く輝いた。彼の腕の振り下ろしと共に矢が放たれた。
男は自分の前に風の壁を立てた。炎が空気を切り裂き、唸り声を上げながら二人の間に残像を描いた。男はルイが高強度の血魔法を使って火の玉を作ると予想していた。彼は魔法院の院長と共に行動する者を侮らなかったが、想像していた火の玉ではなかった。
火炎の矢は一瞬で男の風の壁を霧が晴れるように軽々と貫通し、気流がぶつかるときに尖った摩擦音を立てながら、男の胸を貫いた。極端な高温で体の切り口が焦げ、黒い隙間だけが残り、その穴から背後に影響を受けた溶けた岩を垣間見ることができた。
同時に、フィアンナはティアに近づこうとする者に目を向けた。しかしその相手は、フィアンナが自分に向かって迅速に動いているのを見て、剣を抜いて迎え撃つ態勢を取った。フィアンナは低く身をかがめ、下から上に敵の首を狙って剣を振り下ろした。
金属が衝突し、耳をつんざく音を立てた。
「小娘が、俺に挑むとはな!」
男は強力な力でフィアンナを押さえつけ、体魔法の蹴りで彼女の腰を狙った。
「――」
フィアンナはうめき声を上げ、男の右足によって地面に投げ出された。空中で回転し、着地の瞬間にフィアンナは脚に大量の魔力を注入し、大きくて速い一歩を踏み出し、再び剣を振り下ろした。その過程で腕に広がる黒い魔法紋が彼女を覆った。
二人の剣が再び交わり、今度は相手がフィアンナの力に耐え、足が泥に押された。フィアンナの一撃が終わりに近づき、相手がすぐに反撃できない隙に攻撃範囲から離れようとした瞬間、別の体魔法の敵がフィアンナの傍に現れた。フィアンナは体の動きを反応に合わせようとしたが、先ほどの魔力の大量注入により一時的に疲労を感じていた。
(間に合わない――)
敵の剣がフィアンナに届く寸前、巨大な熱量がフィアンナの顔をかすめた。ルイの火炎の矢がフィアンナと敵の間を通り抜けた。
敵の長剣は火炎によって空中に吹き飛ばされ、フィアンナはその隙に長剣を男に突き刺し、頭に蹴りを入れて骨が折れる音を立てた。
「――ああ、ああ…ああ!」
赤く燃える剣と焦げた柄が近くの草地に落ち、焦げた匂いとわずかな残骸が空から落ちてきた。
元々フィアンナと戦っていた男は悲鳴を上げた。というのも、彼の仲間がさっきまで持っていた長剣でフィアンナを切りつけようとした腕が、もはやなく、肩に繋がる焦げた部分だけが残っていた。ねじれた頭が地面に落ち、膝が泥に沈んだ。
「お前ら――」
男は急いで後退し、合流してきた仲間と一緒に立った。その時、火の迷宮は完全に消えていた。
「残りは4人だ。」フィアンナが言った。
「うん。」
「でも、もう私たちの問題じゃないみたいね。」フィアンナが付け加えた。
#
焼け野原と化した田園には、もはや燃えるものは何もなく、ただまだ蒸発していない泥濘と焦げた荒地だけが残っていた。初めに遮断された川が、乾ききった大地を潤すために奮闘していたが、蒸発する音がその努力の虚しさを物語っていた。
この全てはティアの手によるものだった。彼女はルイとフィアンナの方へ歩み寄ってきた。
先ほどと同じく、焼け焦げた荒れ地は、すぐに再び生命に満ちた田園となる。その土地は多量の魔力を隠していた。数秒後、まるでティアの呼びかけに応えるように、青い光点が各所から浮かび上がり始めた。泥濘から、乾いた大地から、焦げた物から、空から現れた光点もあった。そして彼女の周囲に集まり、藍色の蛍のように素早く舞う嵐を作り出し、最終的には彼女の胸の前で集まった。血魔法の光が、太陽の光を失った野原を照らし出し、次の瞬間、闇が払われた。
砂塵が風によって舞い上がり、空気が圧縮され、点火された。数十の巨大で鋭い火炎の矢が現れ、ゆっくりと上昇した。
「この女が――」
「ここから早く離れろ!」
「ダメだ、逃げられない、あの速度は――」
男の披風が強風で吹き飛ばされ、ティアが相手の顔を見て目を細めた。彼女は再び空気を圧縮し、その間に燃え盛る火が高圧の酸素を燃やし続けた。火の温度は、まるで真夏の正午の太陽の光のようだった。
「早く前……前に攻撃せよ!」男が叫んだ。
4人が近接戦闘の範囲に入ると、前後からの2つの竜巻が彼らの進行を阻んだ。それはルイとフィアンナが作り出した2つの気流だった。
「空気を圧縮しろう――早く、風の壁を!」
「ダメだ、こっちが先に倒れる。それに、あれは……」
男は命令を出したが、自分と仲間の魔力がもう底をついていることに気づいた。さらに強い血魔法の術を強行すれば、彼らは意識を失うだろう。しかし、この土地の魔力はティアによって完全に吸い取られているはずだ。それにもかかわらず、ルイとフィアンナは依然として血魔法を使用していた。
「あの女はともかく、彼女は血筋の魔法院長だからな。でも……あの2人のガキ……彼らの魔力量は、いや、血魔法も、俺たちよりはるかに上だ……」
「あの2人のガキさえいなければ……」
男は歯ぎしりし、眩しい光と熱さに目を細めて手で顔を覆った。
「――」
焔の矢の放出は一瞬に過ぎず、まるで夜空を照らす稲妻のように、轟音と爆発が一部の土地を掘り起こし、蒸発させた。衝撃波は周囲の全てを粉砕し、少し離れた場所にいた幸運な物体は空中へと吹き飛ばされ、砂塵と軽い物体はすぐに爆心地に引き寄せられた。
風の壁に囲まれた三人は、嵐の中心のような静けさの中にいた。猛烈な風と物体が吹き抜けていく中、しばらくすると、彼らのいる場所だけが荒れ地となり、少なくとも土の色が見えるようになった。その周囲では焦げた土地が広がり、遠くの巨大な穴に向かって集まり始めた。そこに残された土塊や岩は溶け、マグマが底に向かって流れていった。
砂塵と飛び散る破片が落ちて、一部はマグマと一体化し、触れるとすぐに塵と化した。すべてが静止し、風も吹かなくなった。上空に静かに浮かぶ雲は、動かない絵画のようで、周囲の生気のない風景は冷たい月光に照らされていた。三人は別の白黒の世界にいるかのようだった。
時間が過ぎ、最後の一片の砂埃が落ち着くと、清々しい空気を運ぶ冷たい風が、息苦しい静けさを破った。
「お疲れ様、二人とも。」ティアは言った。
彼女はルイとフィアンナを抱きしめ、二人の存在を感じていた。
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