第2話

 ルイは壁に取っ手を引き下ろし、厚い本棚から機械音が響いた。その後、本棚の側面に移動し、本棚を固定する機構が解除されたため、彼は本棚を押し動かし始めた。本棚の裏には隠し扉があり、外側は木製で内側は様々な加工が施されていた。


 去年父にこの鍵を託された時、何回もこの部屋に入ろうとしていたが、多分その時に血魔法や魔力の強さはまだ足りなってなさそうで、この扉がずっど無反応だった。


(今は違う。)


 ルイはポケットから鍵を取り出し、隙間に差し込んだ。金属の合わせ音に彼は興奮せずにはいられなかった。


「周りを感じて、万物の全てを感じる。」もう一度繰り返す。


 青い粒が暗い部屋なきに浮き、光が集まってから彼は重い扉を押し開けた。それはバールヴィエット家の扉のような重さだった。


 彼は少し罪悪感を感じた。というのも、ティアもこの間、魔法院の仕事を一段落させ、ようやくエイフィの墓参りに時間を割けるようになったからだ。


 ルイは息を呑んだ。これまで一度も入ったことのない空間だった。家の外観と構造から、この階段の下にはもう一つの空間があると推測していたが、あまり深く考えてはいなかった。

 現在、その空間はこの扉の後ろにある回転階段で、地下に埋もれた部屋に続いている。最上部の天窓から反射する光だけが部屋に入る。


 父が家を離れる前に自分に託した多くの言葉は理解できず、唯一具体的な物はこの鍵だけだった。


 高い書棚といくつかの品物が目に入り、古い書籍がルイの視線を捉えた。外側の部屋の書棚にある書も、ルイにはほとんど理解できないものだった。しかし、今のルイは、少なくとも研究する方向を持っている。


「ここは、ルイのお父さんの書斎なの……?」


 フィアンナの声がルイの斜め後ろから聞こえてきた。彼女は回転階段を降りてこの部屋に入ってきた。


「ティアは?」


「まだ外にいるわ。」


 ルイは頷き、探しているものを探し始めた。


「血魔の……書斎……」フィアンナは独り言のようにつぶやいた。


 ルイは眉をひそめたが、それを無視し、異常に厚い一冊の本に手を伸ばした。彼はその背表紙を撫でると同時に、本の横には精巧な木製の箱があった。平凡な外見の木箱だが、ルイの記憶は彼にそれを取るよう促した。


 彼は以前、父が家紋のような物をこのような木箱に入れるのを見たことがあった。ルイが小さかった時のことで、具体的なことは覚えていないが、アンパリ家の家紋だったかもしれないし、ただの物かもしれない。しかし、アンパリ家の家紋についての記憶があるのだから、少なくとも彼の記憶には出てきたはずだ。


 ルイは失敗の恐れを抑え、その本を横に置いた。その本はフィアンナの興味を引き、彼女は内容を読み始めた。

 彼は木箱を開けると、中には手書きのメモが入っていた。メモ以外には何もなく、ルイは箱全体に彫り込まれた装飾のパターンに注目した。すべての紋様は箱の中心に向かって伸びており、最終的には星のマークに集まっていた。


 ルイはメモを折りたたみ、ポケットに入れた。


「アンパリ……」


 彼の声にフィアンナの視線が引き寄せられ、手にしていた本から目を離した。


「この箱……ルイ、側面を見て。この深さ、浅くない?」


 フィアンナの言葉にルイは箱の側面を見た。確かに、今まで見えたのは箱の半分の深さだけだった。


「ここに鍵穴が……」


 フィアンナは箱の中央の星形の物を回して、ルイの手にある鍵と合うように見える鍵穴を見つけた。

 ルイは鍵を差し込んだが、回らなかった。


「これ、魔力の鍵穴よ。その鍵に魔力を注ぎ込んでみて。」フィアンナが言った。


 彼女の言葉に合わせて、二人の周りに青い光の点が現れ、ルイの心臓部分に集中した。たちまち、ルイの手にある鍵が光を放った。


「魔力がこの鍵に入るってことは、これは銃石の鍵ね。」


「銃石……ね、だから外のたびらが......」ルイはフィアンナの言葉を繰り返した。


 彼は銃石が何であるかを知っていた。魔力を注入して保存できる石で、細かい加工でさまざまな魔力のメカニズムを作ることができる。


 ルイは手首を回転させ、本来少し傾いていた星形の物が正位置に戻った。


「あっ……」


 彼は驚いた声を上げた。意図せずに、彼の魔力が流れ込み、木箱に吸い込まれた。同時に、箱の中央の星が輝き、青い魔力の光が紋様に沿って箱の内側の隅々に広がった。


「開いた。」

 ルイは鍵を引き抜き、木箱の隠れた空間が開かれた。

「これは……本にある紋章と同じ……」


「やっぱりアンパリ家の家紋ね。」フィアンナは感嘆した。


 木箱の奥には、バールヴィエット家の図書室で見たのと同じ家紋があった。それは血魔の心臓と魔法の紋様が円形の枠に広がっており、銃石で作られたネックレスだった。他の銃石とは異なり、この銃石には一切の欠陥がなく、細工された紋様以外は純粋な黒色だった。


「アンパリの家紋……」フィアンナが言葉を続けた。


 彼女がルイにネックレスをつけさせると、一瞬、過去の記憶にある血魔の姿が彼女の脳裏に浮かんだ。ディオンリスでのデイ都大パレードのシーンで、幼いフィアンナはティアの隣に立つ男の影を見て、彼が現代最強の血魔、ゲイルだと知っていた。その男の隣にはルイがいた。

 しかし今、ルイには同じ記憶がないようだった。この一年間、フィアンナはルイが父の話を避け、父の姿を思い出さないことに気づいた。まるで、ゲイルが家を去る最後の数日間だけが記憶にあるかのようだ。フィアンナがゲイルのことを尋ねると、ルイの口からはいつも同じ言葉が出てきた。


「——」

 突然の爆発音がフィアンナを記憶から引き戻した。


「ティア!」ルイが叫んだ。


 二人は手に持っていたものを置き、地下室から出た。ルイは入口を鍵で閉め、書棚を元の位置に戻した。

 ルイとフィアンナはドアを破って外に出ると、前庭でフードをかぶった二人の男と対峙しているティアを目にした。さっきの爆発音が地面に黒い穴を残していた。


「ティア!」


 ルイはティアを呼び、フィアンナと一緒に彼女の元へ駆け寄った。


「ルー、いや、私たちの名前を呼ばないで。向こうはまだ私たちが誰か分からない!」


「分かった。なぜ彼らは僕たちを攻撃するの?彼らは誰?」


「おそらくアンパリのせいよ。あなたがここを去った後、ここが最後のアンパリ家とばれたのね。」


 ルイとティアは会話を続けながら、襲ってくる敵に警戒していた。


「ティア、覚えてる……魔法院の院長だよね、ティアは!だからどこかで見たことがあると思ったんだ。」一人の男が言った。


 元々マットに隠されたティアの顔がおそらく先の爆発のせいで現れた。


 彼の四肢には魔法の紋様があり、胸の前で浮かぶ光は、彼が二つの魔法を使えることを意味していた。ティアは彼が何らかの貴族の配下だろうと推測した。その隣にいる男には魔法の紋様しかなかった。


「魔法院の院長がなぜここに?」


「他にも誰かいるんだろう?彼らに知られなければ。」ティアが答えた。


 これはルイがティアを戦闘状態で見るのは初めてだった。彼は周囲の魔力が大きく動いているのを感じた。


「俺らが伝えられないと思うのかい?」男が笑って言った。


「どう思う?」


「ふん、面白いな。」

 男の顔には隠せない笑


 みが浮かんだ。


「やっと……やっとだ——この一年間、誰も来ないようなこの場所に!やっと大物が来た……そうでなければ、今までの奴らはつまらないし、何も知らない人ばかりで退屈だった!あのくそったれな命令がなければ、前回のあの女性にも手を出したくなかったんだ——」


(エリンさんか……)


 ルイは血魔を使おうとしたが、近くの魔力はすでにティアに吸い取られていた。ティアが先に魔力を燃やし、周囲の全てを感知しようと試みた。


「二人とも!急いで馬に乗って、ここには10人ほどの敵がいる。包囲される前に距離を取らないと。」


 ティアは敵に向かって火炎を放つと、男たちは後方に転がり、一瞬で男の前の道路に火がついた。男たちは舌打ちをし、炎の壁が視界を遮った。

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