第7話
ルイとフィアンナは建物の奥へと進み、様々な店の珍しい商品に目を奪われた。
天井は高く、室内は明るく灯りに照らされていた。様々な装飾が大陸各地の風土人情を彩っている。外からも目立つ、巨大な時計塔が大広間の中央にそびえ立っていて、その頂上の鐘が整時になるたびに大広間全体に響き渡り、人々に時間の流れを知らせていた。
「中にも市場があるんだな、しかもすごく……」
大広間では、旅人たちが入り混じり、活気あふれる光景が広がっていた。議会の隅々には、多くの異なる販売所が立ち並び、ここはただの取引場所ではなく、商人たちが自分のルートと威信を示す場所でもある。
騒がしい中、ルイとフィアンナは市場で魚のようにすり抜けながら歩いた。商人たちは様々な珍しい品物を取り引きしており、二人の視線は、奇妙な装飾品から実用的な装備に至るまで、様々な商品を並べる露店に引きつけられていた。
「やっぱりここには何でもあるね。」
フィアンナは言った。彼女はいつ旅人議会に最後に来たのか覚えていなかったが、ここはいつも人を驚かせることが確かだった。
その時、ルイの目は旅人議会の市場通路を見渡した。
「アクセサリー……芸術品……装備武器、旅行用品……薬草——本。」
「またか。」
フィアンナは、ルイの視線が陳列されている本と革製の巻物に惹かれているのを見て、言った。破れた羊皮紙から黄ばんだ羊皮の表紙まで。
彼の指は本の背をそっと撫で、最終的には血魔法の図柄が描かれた表紙の本に止まった。その図柄は、ページの四隅から伸びる線が連なり星々を結んでいる。
その本の表紙は摩耗していたが、かつての豪華さが感じられた。
「ちょっと待って、フィアンナ。面白そうなものを見つけたよ。」
「その本はどう?」ルイが尋ねた。
その時、彼の手には、じっくり観察したばかりの魔法の本がしっかりと抱えられ、別の旅行者のノートを指差していた。その表紙には様々な花や草のイラストが描かれており、植物図鑑のようだった。
「相変わらず、そういうのが好きだね。」
「面白そうだと思うんだ——それじゃあ、この本は?」
フィアンナは腕を組み、別のテーブルの向こう側にある別の本に目を向けた。
「料理本か……?」
ルイはそれを手に取り、数ページをめくってみた。どうやら大陸の南側、ギルマンの国から来た料理の手引書のようだ。色とりどり、華やかな外観が特徴の料理たち。
「ありがとう!」
ルイは言った。
「……」
フィアンナは苦笑しながら、それはただのひと言だったということを理解した。
ルイは満足げにその本を手に取り、長い間二人を観察していた売り手に差し出した。それは見た目は年老いているが、逞しい体格を持つ老人で、優しく微笑んでいた。
ルイは脇に置かれた価格表示の木板を見て、服の内側から小さな布袋を取り出した。中からは金属がぶつかる音がした。
「ええと……右の本は銀貨5枚、左は4枚です。」
彼は言いながら、合計12枚の銀貨を取り出した。片面にはディオンリスの広場と王宮の図柄が、もう片面にはケールド帝国の国章が刻まれていた。
これはルイが屋敷で手伝いをしていたときにもらった報酬だった。最初はルイがこっそりとキッチンで手伝いを始め、屋敷の掃除を手伝ったことから始まった。ある日、ティアに見つかり、何度も断った末に渋々受け取った報酬だった。ティアは平時にもルイに小遣いを与えていた。
「ああ、坊や、10枚でいいんだ。」老人が言った。
「いやいや——そんな……」
「大丈夫だよ、恥ずかしがることはない。ここは旅人議会、知識を交換し共に成長する場所だからね。」
「君の表情から、すべてのものに興味を持っているのが分かるよ——それが旅人議会の理念にぴったり合ってる!ハハハ!」老人は豪快に笑った。
「わかった!しっかり読んで、大切にする。」
「そうだね、若者よ、料理の本でも、どうやって毒素を取り除くかといった小さなディテールは、君の栄養や知識になるかもしれないからね!」老人は笑いながら言い、フィアンナに目配せし、彼女は気まずい笑顔で応えた。
「これも持っていきなさい——」
彼は言い、テーブルの下から麻布で作られた袋を取り出し、口をひもで縛っていた。
「ありがとう!」
本を売る露店を離れ、賑やかな大広間を行き交う人々の中を抜けて、フィアンナとルイは引き続きゆっくりと露店の間を歩いた。ほとんどの時間、彼らはそれぞれに興味を持ったものを見て回り、時に一緒になって黙って同じものをじっと見つめ、時には様々な異国の品物を好奇心旺盛に見て回り、話し合いながら、空気はリラックスして冒険的な雰囲気に満ちていた。
そのうち、大小さまざまで、暗い色合いの石が置かれている露店に、フィアンナの興味が引かれた。
(ついに彼女が興味を持ったものが見つかったか)
ルイは心の中で苦笑した。目の前の少女は、魔法や訓練以外のことにはあまり関心を示さないようだった。
「魔石だ。」フィアンナが言った。
「魔石……」
ルイが繰り返した。彼は少し前に巧みな魔石メカニズムを目にしていた。小さなものでも、材料が良質で、丁寧な作業と十分な魔力が注入されていれば、大きな機構や構造を動かすことができた。
彼の印象に残っているのは、魔石が手に入りにくい鉱物、あるいは資源であることだったが、こんなにも美しく加工されたものを見るのは初めてだった。
「これらは魔法使いが魔力を蓄えるために使う高精度の魔石だから、アクセサリーとして身に着けて、使いやすくしてあるの。」
ルイの表情に気付いたフィアンナが説明した。
露店には、さまざまな形やサイズの魔石が展示されていた。暗い色合いの中で、それぞれが微妙で魅力的な光を放っており、まるで夜空に隠れた星のようだった。彼女は黒くて丸い、表面が鏡のように滑らかな魔石に惹かれた。その魔石は光の下で深い暗色の光を映し出し、深海の暗流のようだった。
「この魔石……特別ね。」フィアンナが静かに言った。彼女の目は魔石の深い色に引き付けられていた。
「それは深海の魔石、大陸で最も深い海域から来たものだよ。」露店の主が答えた。
その時、ルイは魔石が置かれていた上に金貨3枚の価格が示されていることに気付いた。
(そういえば……1枚の金貨は100枚の銀貨だったっけ……)
フィアンナは下に敷かれた綿布越しに、手の中の石を慎重に観察し続けた。その外側は精巧な金属のリングで、魔石の側面をそっと包み込んでいた。そのリングは中心の魔石を囲んで嵌め込んでおり、深い青色でやや透明感のある色合いは、測り知れない力を秘めているかのようだった。動き出さんばかりの青い光は、その純粋さを示しているようだった。
「このタイプの魔石は魔力を蓄えるアクセサリーとして最適だね。」
「高密度で、瞬間的な大量の魔力の出入りに耐えられ、ほとんど損耗しない。そして、原材料が深海から得られるため、魔石自体が非常に高い強度と耐久性を持っていて、外力によって破壊されることは難しいんだ。」
露店の主は、隠れた筋肉の輪郭と誇張された白い山羊髭から、彼の年齢を示しているようだった。まるでザックが歳を取ったような姿だ。
「しかし、この厄介な石が私を困らせてるんだ。」商人はそう言いながら、魔石の隣の二枚の金貨の木板をしまい込んだ。
「使う際に十分な強さの魔力が流れていないと、反応を拒むんだ。まるで自分の性格があるかのようにね、ハハ……」商人は苦笑しながら首を振った。
「だから、この石は長い間私と一緒だったんだ、娘よ——いや、バールヴィエットさん。」
彼はフィアンナの胸元のペンダントに目をやり、ウィンクとともに微笑んだ。
「もし君がそれを目覚めさせることができたら、私がそれを手に入れた価格で売ろう。東の大陸で一枚の金貨で手に入れた旅の仲間だ。」
「分かったわ。」
フィアンナは答えた。
旅人議会の静かな一角で、フィアンナは静かな流れのように立っていた。目を閉じると、彼女の心臓の鼓動と周囲の環境が奇妙な調和を達成しているようだった。
彼女は自らの血脈に宿る魔力が、彼女の呼吸と心臓の鼓動に合わせて体内で徐々に集まるのを感じた。繊細な指先がゆっくりと魔石に触れ、まるで自分の生命力をそれに伝えようとしているかのようだった。彼女の指先から強大で純粋な魔力が溢れ出し、光の川のように魔石の中に直接流れ込んだ。
フィアンナは旅人議会で少し注目を集め、先ほど本を売っていた老人も無意識のうちに少し近づいてきた。
最初は魔石は静かだったが、魔力が絶え間なく注がれると、光は徐々に広がり始めた。最初は弱々しい光から、最も目立たない星のように、最終的には眩しいほどに。光は絶え間なく変化し、元の青緑色の光がフィアンナの体内の青紫色の魔力と絡み合い、徐々に深く厳かな光に変わっていった。
この力に養われた魔石は、まるで自分自身の命と意識を持っているかのように、心臓のようにゆっくりと、穏やかに点滅し、最終的に静かになった。
「色が変わったわ……」
フィアンナは少し困惑しながら尋ねた。
「君に認められたようだね。」
魔石商人は言い、安心した笑みを浮かべた。
「高品質で価値のある魔石は通常、使用者の魔力を記録するんだ。君は——ただ魔力を注入しただけでなく、完全に目覚めさせたんだ。」
「『目覚め』って?」
「そう、『目覚め』さ。」
商人はうなずきながら語った。
「魔石は単なる容器や道具ではない。生命体のようなもので、使用者と深い繋がりを築くんだ。誰もが持っている魔力の独特な周波数や質感があり、魔石がその人の魔力と共鳴すると、徐々にその人の特性に適応し、色や光を変えていくんだ。」
「それはどういう意味なの?」フィアンナは興味深げに尋ねた。
「それは、この魔石が今や完全に君のものになったということだ。ただ君の魔力を蓄えるだけでなく、必要な時に君に完璧に合った力を解放するだろう。」商人はフィアンナの瞳の奥を見つめ
、彼女の将来の輝かしい姿を見据えているかのようだった。
商人は微笑み、うなずいてから、繊細な小箱を取り出し、魔石を慎重に中に収めた。
「それを持っていって、バールヴィエットさん。君の旅にとって欠かせない力になると信じてるよ。」
フィアンナはその精巧な小箱を受け取り、目に複雑な感情を浮かべた。魔石はただの物ではなく、まるで戦友のように、重要な時に力を与えてくれることを彼女は知っていた。しかし同時に、そのような力は無償ではなく、使用者との深い絆を築く必要があることも理解していた。
「了解したわ。」フィアンナは静かに言った。
「でも、この魔石は私にとって単なる取引ではないわ。それが私と深いつながりを築くことを意味するなら、今の状態では他の誰にとってもほぼ無価値なのでは?」
商人の目は一瞬キラリと光った。彼はこの若い女性が魔石の本質をこれほど早く理解するとは思っていなかった。口元に満足の笑みを浮かべた。
「その通り、バールヴィエットさん。」
商人は頷いた。
「魔石と使用者との関係は確かに非常に特殊で個人的なものだ。一度共鳴すると、他の人にとってその価値は大きく減少する。より強力な血魔法能力者が元の周波数を上書きして再び共鳴することができる場合を除いてね。」
「だから……この魔石をあげたいと思う。」
フィアンナは少し考えた後、ポケットから一枚の金貨を取り出し、露店の上に置いた。
「この魔石が私にとってどれほどの価値があるか理解している。しかし、あなたが商人である立場も理解しているわ。この金貨は、あなたの正直な説明に対する感謝のしるしとして。」
商人はテーブルの上の金貨を見てから、再びフィアンナを見た。彼の目にはさらなる賞賛が込められていた。金貨をそっと拾い上げ、深々とお辞儀をした。
「バールヴィエット家の気品はやはり格別だ。あなたのように謙虚で感謝を忘れないお客様にお会いできて光栄だよ。」
商人は心からの言葉を述べた。
「バールヴィエット家の名誉と栄光は、永遠に語り継がれるだろう。旅の安全を祈り、血魔法の力があなたと共にあらんことを。」
フィアンナは微笑んで感謝の意を示し、魔石を丁寧にしまった。
「ありがとう。」
(金貨の価値がこんなにも変わるのか……)
ルイは、二人の間の価格の変動と気前の良さに、商人と貴族の交流に感嘆した。
「そろそろ行こうか。」フィアンナが提案した。
「うん。」ルイは頷いた。
二人は旅人議会の出口に向かい歩き始めた。途中、旅人議会のもう一つの特徴である低価格の宿泊施設に目を留めた。これらの施設は質素だが、旅人たちに休息の場を提供し、情報交換の重要な場所となっていた。食堂エリアには、平らな巨石が並べられており、そこでは身分の高低にかかわらず、皆が一つ屋根の下で物語や経験を共有していた。旅行者たちは集まっており、それぞれの冒険の話を共有している。様々な言語が交錯し、独特の調和を生み出していた。
「ここは本当に不思議な場所だ。みんなが自分の話や経験を共有している。」ルイは感慨深く言った。
「ええ、ここにいる人それぞれの話は本当に特別よ。昔、父とよくここに来ていたの。」フィアンナは静かに語り始めた。彼女の声には、いつもの冷たさがなく、何か柔らかなものが感じられた。
旅人議会は、単なる取引の場所以上のものだった。知識や文化が交流する中心地であり、ルイにとって、それは学びと発見の場でもあった。彼は、フィアンナがこの場所に持つ特別な思い出を感じ取りながら、彼女の言葉に耳を傾けた。彼女の話から、フィアンナの人間らしい一面が垣間見えた。それは、彼がこれまでに見たことのないフィアンナの新たな側面だった。
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