第6話

 二人は石段を降り、地下の空間へと足を踏み入れた。そこはまた別の長い廊下だったが、永遠に続く暗闇に包まれていた。フィアンナは再び壁に触れ、上の長方形の穴が閉じた。


「柵欄門の後ろの扉ってことかと思った。」ルイが言った。


 この一年、主に屋敷の掃除をしていたため、彼は何度か大きな扉を通っていたが、普段はその側門を通っていた。


「それも後門だけど、主に使用人が使ってるわ。」


「うん……でも、なんで僕たちはいつもあの扉を使ってたの?」


 これまでの数回の外出はすべてあの柵欄門を通っていた。ルイにとって、それは十分に隠密な出入り口だった。その後門は小路に繋がっていた。


「実は私も先週ザックに教えられるまで知らなかったの。これは結局、魔法士院のものだから。どうやらこの家の中には他にもいくつかの通路があるらしいわ。」


 その通路の存在は、ルイが思っていた魔法士院の神秘性をさらに強調した。


 フィアンナは血魔法で指先に火球を呼び出し、すぐに暗闇が払われた。そこには岩の剥き出しの通路が現れた。ルイは手のひらから火花を発して、それを直接前方に投げた。照らされた石以外には何も見えず、火花が揺れながら飛んでいくとすぐに消えた。


「行こう。」フィアンナが言った。


 彼らはケールドの地下を進み続けた。フィアンナは指先の火球を維持し、火の光が通過した場所はすぐに再び漆黒に覆われた。上から降りてくる微かな風も止んだ。


「これも全部、ここ一年で作られたのかな?」ルイが言った。


「そうね、私も初めて来るから。ザックはただドアの開け方を見せただけよ。この通路は商業地区に繋がっていて、完全に人目を避けるルートみたい。」フィアンナが補足した。


 ルイは口を引き結んだ。

(なぜザックが彼に教えてくれなかったのか)と、考えていた。


「どうせ最終的に私たち二人で情報を共有すると思ったんじゃない?」

 フィアンナはルイの考えを見抜いて言った。


「うん……」


 彼らは地下の長い廊下を通り抜け、ルイはたまに隣の岩を触った。彼はこの通路を作った人々に感心した。しばらくすると、彼らは分岐点に到着した。


「こんなところにも分岐点があるのか?」ルイが呟いた。


「ザックは左に行けって言ってたわ。右はまだ建設中で、どこに繋がってるかは分からないみたい。」


 右側の通路は依然として暗闇に覆われていたが、地面にはいくつかの石が散らばっていた。彼らは右側の通路への好奇心を無視して、左側の方向へと進んだ。圧迫感が一定期間続いた後、ルイとフィアンナは最初に地下通路に入ったときと同じような階段に到着したが、階段は傾斜がきつく、二人は上を見上げなければならなかった。


「これは商業地区の静かな場所に繋がってるわ。でも、頭にマントをかぶって隠すのを忘れないで。」


「わかった。」

「ーーフィアンナ……?今日は休みだけど、他にも目的があるって言ってたよね。」


「ええ、ケールド西門の港に行ってみたいの。そこにはバールヴィエット家の家があって、父が昔そこで働いていたことがあるの。私が小さい頃、よく父に連れられて行ったわ。」

「今は分家の人たちが維持と掃除をしているけど、住んでいる人はいないわ。」


「分家って?」


「数年前にバールヴィエット屋敷を出た人たちじゃないわ。もっと前、十数年前に出た人たち。彼らは祖父の二男で、ケールド西門の港でバールヴィエット家のビジネスを担当していたの。」

「でも、それ以降はほとんど交流がないわ。バールヴィエット家の名を持つ別の家族みたいなものよ。」


 フィアンナは手に持った火球を空中に投げ、それを空中で維持させ、周囲を照らした。そして、彼女は階段を登り始めた。ルイは彼女の後を追った。火球を頭上に維持するために、フィアンナの胸の血魔法の光が階段の一角を照らしていた。


(僕が覚えているその分家は、ケールド帝国で最大の港、西門港のほとんどすべての商業活動を担っていたはず……)


 ルイは下を見て、何も見えないことに気付いた。彼は意識的に上に登り続けた。階段の傾斜のため、彼は上の階段をしっかりと掴んで身体を支えなければならなかった。その時、フィアンナが手を差し伸べてきた。彼らはもう頂上に到達したようだった。

 頂上はルイとフィアンナがかろうじて収まる狭い空間で、足元はまだ荒々しい岩で覆われていたが、壁は平らで滑らかな石でできていた。


「ちょっと待ってて。」


 フィアンナが言った。彼女は魔石メカニズムを探していた。

 その時、ルイはバランスを保つために、そしてフィアンナが後ろに倒れないように、彼女の頭上の壁に手を置いた。ローズの香りが彼に漂ってきた。


「ようやく見つけたわ。」


 フィアンナの青い光が石に集まり、拡散していく。延びる魔法の紋様が前方の石壁に扉の形を描き出す。次の瞬間、粗い石壁が後ろに移動し、隙間の中に消えた。


 石の扉が開き、彼らの前には地下室のような木製の扉が現れた。フィアンナは両手で木の扉を押し開けると、二人の視界には高い木製の棚が広がっていた。どうやら儲物室のようだ。抑圧された感じが和らぎ、フィアンナは深く息を吸った。


 ルイは石の扉を通り抜ける際、隙間の奥を覗き見た。魔石メカニズムで動かされるこの扉は、実際は一枚の石壁が別の厚い岩に埋め込まれているようだった。石壁の上部には別の魔石メカニズムがあり、扉が横滑りする軌道をコントロールしているらしい。見えない巨岩の隙間には、石壁を引き込むためのもう一つのメカニズムが隠れているはずだ。


(魔石ってそんなに簡単に手に入るものじゃないよな……ましてや魔石を加工してメカニズムを作る技術なんて……)


「ここはどうやら商業地区の図書館の儲物室みたいね。」

 フィアンナは木製の箱を指差し、その上には「ケールド王立第三図書館」というラベルが貼られていた。


「図書館か……」


 ルイが考え込むと、フィアンナが話を続けた。

「蒂都(ティドゥ)のほとんどの図書館は貴族たちが自費で建てたものよ。表向きは王立ってついてるけど、この第三図書館はバールヴィエット家が建てたの。」

「こんな所に繋がってるとは思わなかったわ。」


 ルイは疑問を投げかけた。

「どうして貴族たちは図書館を建てるの?普通、書籍って大事に保管されるものじゃないの?」


 フィアンナは答えた。

「おそらく、一般市民、特に中産階級の間での家族の評判を維持するためじゃないかしら。」

「近年、ケールドの商業活動が盛んになるにつれ、人々は知識の重要性を認識し始めている。学びの場を求めるんだわ。」


「書籍を持っている貴族たちは、それぞれ図書館を建てて、ケールドの地位を固めるわけね……」


「そうよ。」

「——特にこの一年はね。」

「だけど、これらの図書館に置かれている本の多くは、あまり重要でないもの、あるいは単に余分な書籍を置く場所なのよ。魔法やケールドの歴史に関する本でさえ、それぞれの家族が解釈した内容に過ぎないわ。」


 彼らは高い木製の棚を抜け、儲物室を離れ、主要な書籍保管室に入ると、ルイは予想通り、床から天井まで届く巨大な本棚が視界に広がっているのを見た。角を曲がると、廊下の端には大きな扉があり、ルイはその扉の厚みを想像した。


「まさにバールヴィエットらしいわね……」


「今日は図書館が休みのようね。入り口の隣に小さい扉があったはずよ。」


 二人は大きな扉の隣にある普通の高さの扉へと向かった。その扉は加工された石と金属で作られており、ルイにとって、この図書館はバールヴィエット邸のように要塞のように思えた。フィアンナが無理やり扉を開けると、ルイは彼女を手伝った。そして、扉がゆっくりと閉まると、地面が無音で震えた。


 ルイが振り返ると、その壮大な図書館が何のために本当にあるのか疑問に思った。巨大な入り口の上には「ケールド王立第三図書館」と記されており、その下にはバールヴィエット家の名前と家紋が刻まれていた。


 冷たい風が吹き抜け、塩気のある湿った空気を運んできた。


「海の匂いね。」


「ここはもう壁内商業地区の端だわ。」

「ティドゥの西門では、港から迪昂里斯中心部まで商業活動が続いている。逆に静かな場所もあるのよ。」


 フィアンナの説明を聞きながら、ルイは周囲を見渡した。確かに人通りは少ない。彼らの視界の先には、天に突き刺さるような高い壁が見えた。


 二人は城壁に向かって歩き始めた。元々歩いていた道が段々と広がり、人々や荷物を積んだ馬車が次々と現れ始めた。彼らは西門広場へと続く複数の道路が交差する地点に到着した。あらゆるものが巨大なアーチ状の門を通過するために列を作っていた。彼らも自然と列に加わり、アーチをくぐり抜けた。その金属製の巨大な城門は圧倒的な存在感を放っていた。


「西門港ね。」


 城壁の外には小さな広場があり、傾斜した斜面が下り、四台の馬車が並んで走れる広い道路に繋がっていた。フィアンナとルイは広場の頂点に立ち、見渡すと、王宮前広場よりは少し小さいが、周りの露店が集めた人々でごった返していた。地面には白い縞模様のある鵞卵石が敷き詰められており、城壁よりも高い建物に囲まれていた。それぞれの建物は異なる機能を持っており、レストランや宿屋、商業施設のようだった。中には大きな鐘が吊るされた塔があり、その下のホールには大勢の人々が集まっていた。大きな看板がルイの目を引いた。


「西門港……」


 二人は話しながら城壁に向かって歩き続けた。道路は徐々に広がり、人々や荷物を積んだ馬車が増えていった。彼らは西門広場に到着し、巨大なアーチ形の門の下を通り抜けた。金属製の大きな城門は圧倒的な存在感を放っていた。


「西門港ね。」


 城壁の外は小さな広場で、傾斜した斜面が四台の馬車が並んで通ることができる広い道路につながっていた。フィアンナとルイは広場の頂点に立ち、眺めると、王宮前の広場よりは少し小さいが、周囲の露店が集めた人々で賑わっていた。地面には白い縞模様の鵞卵石が敷かれており、城壁よりも高い建物に囲まれていた。それぞれの建物は異なる機能を持っており、レストランや宿屋、商業施設のようだった。中には大きな鐘が吊るされた塔があり、その下のホールには大勢の人々が集まっていた。大きな看板がルイの目を引いた。


「旅人議會って何?」


 ルイは、一際異彩を放つカラフルな建物を指差し、その多様性を象徴する外観について尋ねた。


 フィアンナは一瞬戸惑いの表情を見せた。

「見たことあるでしょ?」


「覚えてないな……」

 ルイの応答に、フィアンナは何と返そうか考えた。彼が城外丘陵の家からあまり出なかったこと、そしてバールヴィエット家に入ってからもほとんど外出していなかったことを思い出した。


「中を見てみる?」


「うん。」


 フィアンナとルイは再び人混みに混ざり、周りにはさまざまな人々がいた。異国の言葉を話す者もいれば、装備を身に着けた旅行者もいた。彼らは数段の石階を登り、前の人に続いて厚重な扉を押し開けた。そこからは活気あふれる混沌が彼らを迎えた。


 旅人議會の内部は想像以上に広く、迷路のように入り組んでいた。受付そばの壁には巨大で精巧な木の断面が飾られており、それは泰爾森林の巨木から来たもののようだった。


(こんなに硬いものが……)


「ここではマントを外しても大丈夫よ。ここなら誰も私たちに迷惑はかけないわ。」

 フィアンナが言いながらマントを脱ぎ、金色の髪がさらりと流れ落ちた。

「——だってここに入れる人は限られているから。」

 彼女は服の中からバールヴィエット家の紋章を取り出し、胸に付けた。それは硬貨大のサイズで、家の威光を表している。


 入口の警備員、身長二メートルを超える筋骨隆々の男が、フィアンナの胸の紋章を見て、低い声で話し、頭を下げた。


「——バールヴィエット嬢さま。」


 バールヴィエット邸の図書室でルイが読んだことのある言葉が、彼の頭に浮かんだ。それはケールドの貴族について紹介されている本で、そこからバールヴィエット家の強大なシステムについて多くを学んだ。家紋のペンダントは精巧で堂々としており、家族の歴史と力を十分に表している。円形の徽章は硬貨ほどの大きさで、表面は丁寧に磨かれ、淡い金色の輝きを放っていた。中央には家族の象徴が刻まれている。力強いライオンが勇気と権威を代表し、四肢は強く、一つの小さな盾に前足を置いていた。これは保護と堅牢さを象徴している。ライオンの周りには、家族の生命力と繁栄を象徴する橡の葉が細かく描かれていた。徽章の周囲には細かい模様があり、家族の精緻さと繊細さを物語っていた。このペンダントはバールヴィエット家のアイデンティティの象徴であり、彼らの長い歴史と不屈の精神の証でもあった。


 ルイも提亞から最近もらったバールヴィエット家の紋章を取り出し、首に掛けた。


「旅人議會へようこそ!」

 白い肌に背の高い女性が、恥ずかしそうに覗き込むルイに声をかけた。

「ここは、歐斯杜特で絶大な影響力を持つ人々が集まって形成された会議所よ。世界中の主要都市に散らばっていて、通常は各地の旅行者や商人が運営しているわ。国家の管理を受けず、だから旅人議會と呼ばれているの。

「安価で旅行者向けの宿泊施設も提供してるわ!外の宿よりは少し質素だけどね——」女性は明るく笑いながら言った。


「——」

 戸惑いを隠せないルイはどう返答すればいいかわからず、視線を彷徨わせていた。一方、フィアンナは優雅な笑顔で頷いた。


「是非、ここで楽しんで探検してみて!」

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