第7話
ルイに近づき、彼の胸を軽く叩くザック。
「普通に考えて、魔力を燃焼させると、様々な属性の術式を使えるんだ。」
「我々が最もよく使うのは火、風と水。その用途は広範囲にわたるが、水属性には欠点があってな。湿った環境や水のある場所でしか使えないんだ。」
「木属性の術式に関しては、基本的に戦闘で使われることはない。効果が遅く、多量の魔力を消費する。周囲に生育中の植物が必要で、広範囲に効果を及ぼすこともできない。唯一の用途は、壊れた低木の生け垣を修復するくらいかな。」
(ザックは木属性の血魔法が好きじゃないようだ。)
ルイは心の中で考えた。
その時、ザックの指先から小さな火球が現れ、器用に跳ねていた。
「各人はそれぞれ、魔力を使う独自の技術を持っている。フィアンナのように、細かい部分のコントロールが上手で、光が強すぎないように抑えることができるんだ。これは、俺がアンチェスで一年学んだことだぜ。」
ザックは笑いながらため息をついた。しかし、ルイの目には、彼がむしろ誇りに思っているように映った。
「でも、一番大事なのは、お前自身が発見することだ。血魔法がお前にとって何を意味するのかな?」
「今日は、火属性の術式の練習をしよう。これは誰にとっても最もイメージしやすい属性だ。後で他の属性も試してみよう。」
「お前は火の光が何をもたらすかを想像してみてくれ。」ザックが言った。
「うーん……」
短い沈黙の後、ルイが答えた。
「暖かさと光?」
ザックはルイの髪を撫でた。
「その通り。だから、手のひらの空気を温めることを想像してみて。それを続けていくと、火花が現れるんだ。」ザックが言った。
彼は先に指を鳴らし、火花を生み出した後、それをつまんで消し去った。
「お前の番だ。」
ルイはうなずき、閉じようとした目を
開けた。彼は自分の手のひらをじっと見つめ、体内の魔力を掘り下げ続けた。何としても、まずは自分自身を理解しなければならない。
淡い青色の光が、魔力が燃えていることを示していた。ルイはさらに深くそれに没頭し、巨大な抵抗に直面した。ルイはそれを突破しようと試みた。
「ルイ、小さな火球を灯せばいいんだ。」
ザックは眉をひそめた。ルイの胸の光がますます眩しくなっていたからだ。
「――」
力は体の中から湧き出て、ルイはさらに深く探求し続けた。そして、あの日と同じ、果てしない白い世界を見つけた。
ザックとフィアンナがルイの横で見守っていたが、彼は放心状態に入っていた。
ルイはじっと立ち尽くし、訓練場の反対側を見ていた。そこにはただの石壁があるだけだった。
「ルイ?」
ザックがルイを呼んだ。
「手のひらの空気を温めれば、火球が現れるんだ。」
ルイはまだ遠くを見つめながら独り言を言った。
「確かにそうだが、今のお前の魔力の燃やし方は、単に火を灯すためだけじゃないようだな。」
ザックが言った。
同時に、ルイが魔力を吸収し続けていることに気づいた。周囲の魔力は一向に見当たらない。
一方で、ルイはザックの声が聞こえていないようだった。彼は空気を何度かつかんでみた。
「――」
突然、ルイは我に返り、巨大な熱量が彼を包み込んだ。彼は叫び声を上げた。体内で猛烈な力が爆発しそうになる一方で、ルイの近くにいたザックは熱さを感じていなかった。これは、ルイが魔力を過剰に燃やした結果だった。
「ああーーーまずい、これ以上はダメだ。」
ザックは、ルイが初めての血魔法を体験して、身体が爆発することを望んでいなかった。
「ルイ!その力はお前にとって強すぎる。まだ身体がそれを支えられない。すぐに力を解放しなければならない。」
ザックはルイに向かって叫んだ。彼の言葉が相手の耳に届くことを切望していた。
「……」
眩しい光により、フィアンナは目を細めた。彼女も同様に、目の前で起こっている光景を見守り、ルイの変化を注意深く観察していた。
ルイは叫び続け、胸が重い物で打ち砕かれたかのように感じ、彼は奇妙な角度で頭をねじ曲げた。一瞬のうちに、光が再び爆発した。
「まずい——」
ザックは舌打ちし、瞬時に魔力を点火し、強烈な気流からなる風の壁を彼とルイの間に作り出した。舞い上がった砂塵は狂風にぶつかり、四方に散らばっていった。
「フィアンナ。」
彼は後ろを振り返り、フィアンナも別の風の壁を作り出していた。
ルイの手の中で、火球が急速に成長していた。火球の表面では閃光と火花が飛び散り、時折眩しいばかりに明るく、時には暗くなる。この不安定な火球は、ルイの身体にある魔力の光が、断続的に点滅する光線に変わることの象徴だった。
「これは単なる火花じゃないな。」
「——」
爆発音が建物全体に響き渡り、爆発後の火球が、ドームを支える梁と柱にぶつかり、砕けた部分と残骸が次々と落ちてきた。
それから、意識を失ったルイは黒煙に包まれた。
#
「これがさっき起こったことだ。覚えてるか?」
ザックがルイの肩を支え、彼が力尽きて倒れないようにしながら言った。
訓練場に横たわるルイが口を開けると、苦い味がした。それは口から出た黒煙のせいだった。
「うん……」
ルイの目に映る世界はまだ揺れていた。まるで二人のザックがいるようだ。
「立てるか?」
ザックは言いながら、ルイの体を一手で持ち上げた。
ルイは力なくなると思ったが、脚から伝わる支える感覚は本物だった。
どうやらザックはルイの体をルイ自身よりもよく理解しているらしい。
「おい、お前は信じられないほどだ!そして何より、生きている!四肢もまだ体につながっている!!」
ザックはほぼ歓声を上げるように言った。
「お前が訓練を受けていれば、魔力の制御が失われることはなかったはずだが、これはすぐに改善できるだろう。」
ルイは首を回し、遠くに立つフィアンナを見た。
フィアンナは訓練場の端にいた。彼女とルイの視線が交差し、一瞬でルイが先に目を逸らした。
「こっちへ来い。」
ザックが手を差し伸べた。麦色の肌の下には、太くて逞しい筋肉がある。まるで太い棒のようだ。
「お前はこれからフィアンナと一緒に訓練するんだ。」
「アンチェスに入れれば、卒業した者は誰もが魔法士と呼ばれる。魔力を燃やせるかどうかにかかわらず、自分を証明しているんだからな。」ザックが言った。
(アンチェスか……?)
ティアが父と彼女がアンテスで知り合ったことについて話していた。
これまでのことは、ルイにとって本に書かれたことだけだった。アンテスに入るなんて夢にも思わなかったが、今、ザックはその可能性があると言っている。鍵は現実感のない血魔法で、それが今、彼の手の中にある。
彼は農作業で荒れた自分の手を見下ろした。
「しっかりと訓練しなければならない。アンチェスに入れば、お前は普通の人を超えることができる。お前には特別な才能があるんだ。」ザックが少し焦りを感じながら言った。
「僕は――」
ルイは何か言おうとしたが、言葉が見つからなかった。伝えたいことが多すぎる
「ありがとう。」彼が言った。
「礼には及ばない、お前はもうバールヴィエットの一員なんだからな。」
ザックはこの新しい家族のメンバーに満足感を抱いていた。
ティアによれば、ルイはティアの妹エイフィの息子で、血縁はないが、アンパリ家の子だった。
ザックは目の前の少年を見つめた。
「これが血魔法だ......」
「もちろん!」ザックが感嘆した。
ルイは繰り返すと愚かに見えると知っていた。彼にとって血魔法は、まだ融合していない時計の歯車のようなものだった。慣れ、そしてできるだけ早くそれを使いこなさなければならない。
「お前は自分の体を吹き飛ばしかけたんだぞ。」
ルイは二人がいる場所を見て、焼け焦げた穴だけが残っていた。もし以前の姿を知らなければ、ここが訓練場だったとは思わないだろう。
「まずは魔力の燃焼をコントロールすることだ。そうしないと、次はお前がああなる。」ザックが燃えている梁を指差して言った。
「本気で言ってる。お前が本当にああなったら、ティアにどう説明すればいいのか分からない。彼女は絶対に僕を許さないだろうからな。」
ルイは頭上を見た。もともとドームのあった場所には、今や深い夜空が広がっていた。最後に見た光景を覚えていない。意識はまるで暗闇に吸い込まれたかのようだった。
(違う、最近何をしていたんだ?)
ルイは、この数日間、ずっと意識を失っていたことに気づいた。短い間に何度も昏倒していた。
ケールドの人々として、魔法について知っているのは当然のことだ。ディアンリスを信仰する者たちにとってはなおさらだ。
父の言葉がふと彼の耳に飛び込んできた。
周りに漂う煙が晴れ、訓練場にいたフィアンナはもうここを離れていた。
「そして、最後に一つ。」
ザックは声を伸ばし、ルイの脳に言葉が入るようにトーンとスピードを落として言った。
「血魔法はいいものだが、体魔法も忘れるな。比較的、体に馴染みやすい。しっかりと訓練すれば、頼りになる武器にもなる。」
ルイはザックの視線に捕らわれ、ザックがまた真剣な口調で言った。
ルイは頷き、最後の文字に迷いを感じた。彼にとって、これらは実用的な道具であるべきだった。
「わかった。」彼は言った。
ザックは微笑んだ。
「まだたくさんあるが、二つの魔法は大体こんなものだ。残りは後で話そう。今日はここまでだ。」
ルイは頷いた。今までの経験が信じられなかった。
彼は人生が変わったことを感じ、血管の中で止まることのない鼓動だけが理解できるかもしれない。
その悲しみはまだ彼を包んでいた。彼はザックが差し出した手を取り、立ち上がった。そしてザックの粗い手のひらが彼の頬を撫でた。
「お前は休め。ここは俺が片付ける。大掛かりな作業になるがな。」ザックは口角を引っ張りながら言い、足先で焦げた土をこすった。
「風呂に行きたいなら、さっき出てきた部屋の廊下の突き当りだ。」
「あと訓練後はまたお腹が空いてるだろう?魔法は大量の体力とエネルギーを消耗するから、ケアも訓練の一部だよ!」
「何か食べたいなら、キッチンにいるヘスティナに言ってね。」
ルイは頷き、訓練場を後にした。
彼は厩舎と建物の裏口を通り、何度も曲がり角を曲がり、ほとんど迷子になりながら、数日間寝ていた部屋にたどり着いた。どうやら、元は家族の誰かの寝室だったようだ。
彼は扉を開くのにかなりの力を使った。先ほどの訓練のせいで、この扉はさらに重くなったようだった。部屋に入ると、依然として豪華な空間が目に飛び込んできたが、やや質素なベッドにはきれいな服が置かれていた。近づいて見ると、たたまれた服の横に手紙があった。
(ヘスティナはあの女性侍従か。)
ルイはそのような優しさに違和感を覚えた。貴族の家では侍従が様々な仕事を手伝うことは聞いていたが、実際に助けを受けると、彼には不安に感じた。
「キッチンは食堂の壁の向こうか?」ルイは独り言を言った。
彼はお腹を撫でたが、その時感じるのは筋肉の痛みだけだった。家での練習よりもはるかに耐えがたい痛みだったが、それでも彼は痛みの下に隠れた空腹をぼんやりと感じていた。
「さっき大食いしたばかりなのに、魔法って……」
ルイは慎重にきれいな服を手に取った。泥だらけの自分の体に服が汚れないように気を付けながら、彼は部屋を出て、ザックが言っていた浴室に向かった。
夜の微酔いがティアの顔に優しく触れ、今夜も明るいディオンリスの隅、バールヴィエット家の訓練場に彼女は足を運んだ。
「フィアンナはまだ魔法士になるまでの道のりがあるようね、特に魔力のコントロールが問題だわ。」独り言が語るティアは焦げて目立つ穴を見ながら唇を引き結んだ。
「えっ?でもあの子、そんなにコントロールが効かないわけじゃないでしょ?ザック、あなたから長年学んできたし、彼女の父が去ってからの……」ティアは突然沈黙に沈んだ。
「実は……それはフィアンナがやったわけじゃないんだ。」ザックが口を開くと、ティアの眉がひそまり、目に何かがちらついた。彼女はザックを見つめて言った。
「もしかして……ルイ?」
「ああ、あの子は、魔力の貯蔵量も放出能力も普通じゃない。これは彼がコントロールを失った結果だ。」ザックは足元をちらりと見ながら言った。
「彼は気づかぬうちに体魔法を使って、爆発から自分の体を守っていたんだ。本当に素晴らしいーー驚くべきことだよ。」彼が言った。
ティアはザックの最後の言葉に疑問を感じた。普段粗野なザックがこんな言葉を使うなんて珍しい。しかし、今の彼女は壊れたドームを見上げ、ルイのパフォーマンスに言葉を失っていた。自分が目撃できなかったことは残念だが、彼女はその子の今後の成長を想像し、期待していた。
「フィアンナのライバルになる人がついに現れたわね。」
ティアは微笑みながら、穴の開いた天井を見上げて深い空を眺めた。彼女は目を細めた。
(エルトン……あなたもあそこで見ているわよね……)
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