第6話

#

少し前のこと。



フィアンナの手のひらで、ザックの指示に従い、火の粉が芽生えた。それは瞬く間に増強と減弱を繰り返し、最終的には小さな火球となって指の間で回転した。まるで生命を与えられたかのように、その巨大な蛍光がフィアンナの手の上で舞っていた。


息をのんで見守るルイは、この光景に見入っていた。これは彼が今まで見たことのない光景で、息をすることさえ忘れてしまったほどだ。


(これこそが本物の血魔法だ。)


彼は口を開け、あごが外れるかのように大きく開いた。この奇妙な行動はフィアンナの斜め目を引き寄せた。


「すごいな。」

ルイは無意識のうちに心の中の言葉を口にした。


「そうでしょ、俺にもアンチェスに入ってから、こんなにも繊細な魔力の操り方を学んだんだ。」

ザックは笑って言った。彼はまるで娘が自分の能力を弄んでいるのを見るような表情だった。


フィアンナがザックをちらりと見た時、ルイは初めて彼女の微笑を見た。


「これはただの小技でしょ?」

「ザック、あなたももう魔法士だし、私よりもっと上手にできるわよ。」

フィアンナは火球を指先に集め、周りを照らすろうそくのような形にした。火炎は整然と踊っていた。


「そうかもしれないけど、あなたみたいな天賦の才はないよ。俺はただあなたよりも長く血魔法を使っているだけだからね。」


フィアンナはザックの言葉にはあまり関心を示さず、目の前の花火に集中して、微妙な制御の変化に注目した。


次にザックの胸から深い青の光が灯り、火炎が彼の指の間から湧き出た。

フィアンナの火に比べ、ザックの光はより眩しい。しかし彼は無数の火球を操っており、それらは彼の身体から離れ、空中で舞い、彼とルイの間で跳ねていた。


ルイは感嘆の声を上げた。跳ねる火の球の他に、青い結晶が近くから現れ始め、点々とした青い光が徐々に3人の方へ集まり、その柔らかい光は空中でゆっくりと漂っていた。ルイはその日が彼に与えた温もりを感じていた。


「これが魔力なのかな?」ルイの驚いた声。


フィアンナは、まるで動物を観察するかのように、ルイの胸元に注目していた。


(彼女は何を見ているんだろう?)


ルイはフィアンナの視線の先、自分の心臓のあたりを見た。そこでは薄く光が放たれており、魔力が徐々に彼の胸に隠れていく様子が見えた。それは淡い青の輝きだった。

ルイも無意識に二人が召喚してきた魔力を吸収していたようだ。

フィアンナとは違って、彼女からは靛色の光が放たれていた。


「お前、本当に血魔法を使えるんだね。」

よりはっきりとルイが魔力を吸収する様子を観察するために、ザックは燃えている魔力を消し、三人から放たれる光は一気に深い青色の光を失った。


「それに、どうやって使うかも知ってるみたいだけど、以前に練習したのかい?」


「血魔法かどうかはわからないけど、父さんの言葉に従って試してみたら、なんとなく魔力が感じられたんだ。」


聞いた瞬間にザックは一瞬沈黙した。

(俺だけ、バ……カ?)


「でもその時の結果はあまり良くなくて、体がほとんど動かせなくなってしまったんだ。」

ルイは言い、彼の顔には影が差していた。


「魔力を過剰に消耗したのか……だって、体内の魔力を全部使い果たしたら、まるで巨大な力に打ちのめされたような、空っぽになった感じがして、どんな力も使えなくなるからね。」

「しかも、あの時はまだ十分な魔力の蓄えがなかったはずだ。」

「それに、血魔法能力者にとっては、魔力はまさに生命の燃料だから、完全に燃やし尽くすと寿命が縮むことにもなる。なるべく避けるべきだよ。」

「とにかく、まずは周りの魔力を感じ取ってみることから始めよう。感じたら、それに触れてみるんだ。焦らずにね。慣れてきたら、魔力を取り込むことは呼吸するように自然になるから。」

ザックは教えながら、意外と真剣な表情をしていた。


「はい。」


ルイはその日の訓練を思い出した。恐怖ではなく、躊躇いだった。特にその後の出来事は、この数日間の悪夢となっていた。


彼は、訓練場の端で静かに様子を見ているフィアンナに目を向けた。彼女は静かに遠くで観察していた。

訓練場の真ん中で、ザックがルイのすぐ近くに立っていた。時間が経つにつれて、ルイは無形の中で、空気中にある彼が求めていたものにより深く意識を向けていった。

彼は驚いた。再び温かな感触が彼を包み込んでいた。大勢青い蛍が集まってくるように。


「はは!お前、信じられないな!」ザックは大声で叫んだ。


ルイが目を開けた。ザックは一方で、興奮して奇妙な声を上げながら踊っていた。


「集中しなくては。」とルイは自分に言い聞かせた。


魔力の青い結晶が空気中からゆっくりと浮かび上がり、蛍光のような繊細な光点がゆっくりとルイの方へ飛んできて、最終的には彼の心臓に集まって消えていった。あの日と同じだ。

彼は頭を振り、まだ姿を現していない魔力を探り続けた。ここにはもっと多くの可能性があると感じていた。


「ふふ、魔力っていいものだよな!」とザックが言った。


ザックは訓練場の魔力を少し調べたが、何かがおかしいと気づいた。ルイがほとんどの魔力を吸収していた。


(この子は才能があるかもしれないが、フィアンナとは何か違う。)


ザックはルイの変化を注視し続けた。彼はこんなに淡い光を見たことがなかった。人々が魔力を燃やすとき、青い光を放つが、他の国の血魔法能力者も同じだ。

しかし、ルイの魔力の光は淡い青色で、白い輝きに包まれて青と混ざり合っていた。


「ルイ、二つの魔法能力についてどれだけ知ってる?」とザックが尋ねた。


ルイは首を振った。


「以前、本で体魔法について読んだことがあるけど、断片的な情報だけだった。でも、血魔法については父さんが教えてくれたことしかない。」と彼が答えた。


「それじゃあ、大まかに説明しようか」とザックが言った。


ザックはフィアンナの方を見た。彼女がこの話に飽きずに自分の訓練に集中していることを望んでいたが、彼女はすでに自分の訓練に没頭していた。彼は微笑んだ。


「魔力を吸収するのは、空気を吸うのと同じ。生まれつきできることだけど、血魔法能力者だけが本当に魔力を感じて、それを操ることができるんだ。」

「人が空気中の魔力を吸収して、それを体の四肢や隅々に送ると、身体能力が強化される。これを体魔法、または魔法化と呼ぶんだ。」

「体魔法は血魔法に比べてほとんど魔力を消耗しないから、一般人でも使えるんだが、個人差が非常に大きい。中には後天的な努力では補えない人もいるんだ。」


ザックは話を続けた。ルイは母親のエイフィを思い出した。彼女は魔法化できなかったため、病に苦しみ、今は冷たい土の中に横たわっている。


「未訓練の平民は、自分を少し長く走らせたり、高く跳ぶために、あるいは少し重い物を運ぶために体魔法を使うだけだ。彼らが体魔法を使っても、体に魔法紋がほとんど現れない。」


ザックはルイの腕を指差し、まだ完全には消えていない黒い線を指摘した。


「——」とルイが驚いた。


二週間前まで、体魔法の練習をするたびに、体中に黒い蔦のような線が現れていた。それらは全身に這い上がり、血管に沿って成長するかのようだった。


ザックは自分の腕を見せた。彼の筋肉はまるで刃物で刻まれた線のようで、腕を伸ばすと、それらが動いているように見えた。一瞬で、皮膚の下の黒い線が墨のように広がり、体の端まで押し出された。


ルイはまた、ザックの足が魔法紋で覆われているのを見た。それらは浅いところから深いところまで広がり、どこにでもあり、皮膚の血管のように、周囲に漆黒の涼しさを放っていた。


ザックは魔力に満ちた手足を伸ばした。


「——」

ルイは息を呑んだが、目の前の光景には恐れることなく、ザックの身に起こる変化をじっと見つめていた。


ザックはルイの驚いた表情を見て、彼の肩に手を置いた。その指の間から、いつでも骨を砕く力を感じ取ることができた。


「生まれつきってことか?」とルイが言った。


「そうだ。お前が身体を飛ばしていたとき、無意識のうちに体魔法を使って、自分の肉体を強化し、バラバラになるのを防いだんだ」とザックが答えた。

「お前は体魔法を使って、自分の身体を守ったんだ。」ザックが付け加えた。


ザックもまた手を伸ばし、黒い線が瞬時に彼の腕を覆った。ルイはひやりとした気配を感じた。


「もちろん、ちゃんと練習すれば、これはお前の身体の一部になる。」とザックが言った。


ルイは黙って手の甲を見た。そこにはかすかに線が見え隠れしていた。


ザックは話を続けた。

「血魔法の話になると、それも魔力を使って動かす。普通は使うときに魔力が心臓に集まって、それを燃やすから、胸から光が放たれるんだ。」

「でも、それぞれが放つ光の色は違う。ほとんどが基本的に青色の光だ」

「俺の場合は深い青色で、バランスの取れた血魔法能力の象徴だ。他の奴らに負けない攻撃力を持ってると自負してる。」とザックが口元を緩めた。

「お前のはもっと軽い青色だな。」彼が指した。


彼の指がルイの光る胸を指していた。訓練場の薄暗い光の中で、その淡い微光はまるで一つの明かりのようだった。


「光の色は、使われる魔力の方法に多少反映される。例えばフィアンナの場合、彼女が魔力を燃やすときは大抵インディゴ色になる。」

「違う人間は、魔力の量、精度、吸収速度に違いがある。つまり、血魔法能力者間にも能力の差がある。」

「人の血魔法は、自分の精神力とか潜在意識や性格など......」

「要するに——自分の存在の証でもある」

ザックが言った。


ルイの体が一瞬震えた。この話題は彼を落ち着かせることができなかった。血魔法の背後には複雑さと深遠さがあり、それは高い学問のようだった。ルイは通常、最も高い位置にある果実に挑戦する。難しさにかかわらずだ。


(自分の能力を掌握できなければ、他人を守ることなどできない。)


また、父親の言葉が彼の頭をよぎった。


ザックがルイに説明を続ける中で、彼はルイの目に輝く光を見つけた。それはかつての自分を見ているようだった。


「どうやら、魔法に魅了される人がまた一人増えるみたいだな。」

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