ダーク・タイズ - ザ オリジン

第一章ー始まり

第1話

　ゲイルと別れた後、涙が枯れる寸前で、エイフィの目の下を流れ落ちた。家の中にふらふらと入り、冷たい風が彼女を揺らすと、突然の虚弱感に襲われ、壁にもたれかかった。

　胸の奥が痛みで裂け、息を吐き出すと、彼女の体は一瞬のけいれんを起こした。

　肺が崩れるような感覚があり、体内の病魔を引きずり出したいと願うが、力の無さがそれを夢の中だけのことにしてしまう。

　その時、ルイが階段の角から身を乗り出してエイフィを見つめていた。

「——」

　ルイは階段を駆け下り、エイフィのそばに駆け寄り、支えようとした。

「エイフィ！どうしたの？」

　ルイは震える声で叫んだ。彼は一瞬、父の行方を尋ねようと思ったが、すぐにその疑問を飲み込んだ。

　エイフィは微笑みを浮かべ、強がりを見せた。壁にもたれて立ち上がり、頬の涙が静かに床に落ちた。

「部屋に戻って休んで！」

「ルイ、大丈夫だよ……」

「そんな状態で大丈夫なわけないじゃないか、休むんだ。」

　ルイは悲しげに言った。エイフィはいつも弱々しく、ルイはただ見守るしかなかった。エイフィは疲れを見せないため、彼は彼女の体調がわからない。

　その時、何かがルイの頭に触れ、冷たい感触が背中を流れる。それはエイフィの手だった。前にこんなに冷たいものに触れたのは、冬の森で見つけた死んだ野獣だ。

「もう一度寝っていいよ、まだ早いからね。」

「本当に大丈夫。」エイフィは優しい微笑で答えた。

　ルイは疑問を目で表し、頷いた。エイフィは彼の髪を再び撫でた。躊躇しながら、ルイは部屋に戻り、ドアの後ろにしゃがんだ。

　これほど力ないエイフィを見たことがない。いつも虚弱であっても、健康だった彼女を記憶の中で探すしかなかった。

　しかし、ぼんやりとした記憶の中では、見知らぬ景色や顔が時折浮かんでくる。

　夕暮れ時、ルイはベッドに座り、沈む太陽を見つめた。オレンジ色の光が徐々に暗紅色に変わり、闇が光を飲み込む。夜は何よりも迅速に訪れた。

（周りの環境を感じる……父さんは一体何を言いたかったのだろうか？）

　父の最後の言葉は皮肉にも最も印象に残っていた。

　寒さに震えながらの訓練に、彼は苛立ちを感じた。なぜなら、ベッドで寝ている彼をエイフィが看病してくれたからだ。

　彼の思い出の中に父の姿がちらついた。その銀白の粗い髪は老いを感じさせ、筋肉質の体は森の木のようだったが、顔をしっかりと見ようとすると、それは今日の昼食のようにぼやけてしまった。

　彼の心は父の言葉でいっぱいだった。

　父が家を出てから数日が経った。その間、その人物に関するニュースは一切なかった。ただエイフィが玄関で待つ時間が日に日に長くなっていった。

　その前まで、ルイは友達がいなかった。子供の頃からほとんど一人で遊んでいた。他の子供たちと遊んでいる時でも、いつの間にか排除されてしまうことが多かった。

　笑い声が聞こえても、彼はその楽しさを感じることができず、人々が笑顔を見せる話題にもついていけなかった。

　そのため、「木偶」というあだ名をつけられ、自分自身を疑うようになった。やがて、他人との交流を諦め、周囲の世界に没頭した。それが彼を受け入れてくれる唯一のものだったからだ。

　彼は首を振り、なぜこのことを思い出したのかわからなかった。もしかすると、自分に力がついて他人の注目を浴びるようになってからかもしれない。

　訓練を始めて2週間が経ったころ、ルイはようやく父の言葉の意味を理解し始めた。周囲と一体化するために、彼はベッドに横たわり、全身をリラックスさせた。

　目を閉じ、呼吸が落ち着くのを待ち、空気中の何かと一体になることを待った。ルイは何かを掴んだ感触があるにもかかわらず、それが何なのかはまだわからなかった。

　数回の呼吸を経て、彼は再びその何かを感じた。それは無形の暖かさだった。

　この日々で得た成果を思い返しながら、彼はそれを手に入れるために、衝突することも、掴もうとすることも必要ないことを理解した。

　もっと深く、直接的に触れ、それと融合することだった。ルイの指がわずかに動き、胸に馴染みのある温かい感触が流れ込んできた。

（それと遊び、感じてみる。魔力はその中に隠れた主人だ。）

　夜が更けていくにつれ、ルイは父の言葉に囚われ、過去と現在の境界がぼやけていった。父の姿が遠くなり、エイフィの病気が進行する中、彼はただ、何かを待っているようだった。そして、彼は知らないうちに、自分が魔力と一体になりつつあることを感じ始めていた。

　その低い声がルイの耳に響き渡る。彼と父ゲイルの交流は少なかったが、父が彼を欺くことはないとルイは思っていた。

　知らず知らずのうちに、暖かさが彼の胸に集まる。

（これが血魔法か？）

　父が説明しなくても、体魔法とは異なることを彼は感じ取っていた。この力を得ることに心を躍らせていた。

　血魔法は他人の話の中で時折耳にする言葉で、遠い存在だった。自分がそれを使えるなんて信じられなかった。それは貴族の象徴だったからだ。

　ルイにとって、血魔法の具体的な能力は謎のままだった。基本的な体魔法さえもまだうまく扱えない彼にとっては、まるで呼吸のようなものだ。

　父の言葉によれば、三人に一人が体魔法を使えるという。体が弱い老人でも、この力で命を延ばすことができる。しかし、使えないエイフィは突然の病に抗うことができなかった。

　ルイは、父が出発する前に教えてくれた血魔法と体魔法についてのことを思い返す。それまで彼はその両方について何も知らなかった。それが彼の父についての最も鮮明な記憶だった。状況に応じて個人差があり、使い方によって身体にも様々な変化がある。

　ルイは頭を振る。今は血魔法に集中する必要がある。火を操る能力は魅力的だ。体魔法と同じく魔力を消耗するのが血魔法だ。両者と

　も環境の魔力を使うが、血魔法を使う者はそれを積極的に探し出し、引き出す必要がある。ルイは思わず笑い、額の汗を拭いた。

　父との稀な会話の後、彼の顔には隠し切れない興奮と驚きが浮かんでいた。血魔法は彼の人生において未知のものだった。頭の中で細かい声が響く。

（すべては君の手の中にあり、あなたは自分と他者の命を握っている。）

（これは神話時代から伝わる力だ。古来から平民に対して、血魔法を持つ者は周囲の事物により近づきやすく、隠された魔力を発見し、世界を変える力を持っていた。）

（自然と彼らは高い地位を占め、凡人以上の階級になり、名声と富を得ることは言うまでもない。）

　ゲイルが残した言葉だが、ルイが理解できなかったのは、なぜ血魔法を持つ父がこんな辺境で暮らさなければならないのかということだった。この疑問は長い間彼を悩ませ、エイフィに尋ねても答えは得られなかった。

　始めは静坐する意味がわからず、自己の存在を忘れる必要性にも戸惑っていた。軍人の父からはその答えを得ることができなかった。目を閉じ、無駄な思考に再び陥った自分を責めながら、外の雪が溶け始めていることに気づき、気温の低下にエイフィの体が耐えられるか心配した。彼は首を振った。

（集中しなければ。）

　ルイはゆっくりと息を吸い込み、煩わしい思考を無視し、体をリラックスさせて周囲の環境を感じようとした。2週間の探求を経て、彼は思考を環境に溶け込ませ、無形のものに触れることができた。それはルイにリアリティと帰属感を与え、心の思いよりも彼に近かった。まるで彼らがこの肉体の本当の主であるかのように。突然、巨石が胸に落ちるような圧力が彼に襲いかかり、止められ、激しく息を吸い込んだ。

「——」

　何度も試みるが、いつもこのような暖かさがルイを包み込もうとすると、それが起こる。

　ベッドに横たわるルイは、肺が奇妙に動いているのを見つめた。まるで獣が籠の中に閉じ込められているように。彼はゆっくりと起き上がり、身体のけいれんを落ち着かせた。

（続けなければ。）

　ルイは眉をひそめ、頭の中で女性の声が響いた。それは少し自分の口調を帯びているようにも感じたが、不思議とは思わなかった。その瞬間、ルイは巨大な熱量に包まれていたが、火のように焼けつくような熱さではなかった。

　生き物が彼の胸から飛び出そうとしているように感じた。その時まで、激しい痛みが体を襲っていたが、ルイの息が落ち着くにつれて、その重たい鼓動も徐々に静まっていった。彼は皮膚の下に浮かび上がる血管を見つめ、その薄い層の下で、暗い黒の線が光っているのを感じた。それは魔法紋だった。

　無意識のうちに、彼は体魔法を纏い、冷えと体力の激しい消耗に耐えた。そのことに、彼は興奮を感じた。

　ルイの呼吸は深くなり、練習から時間が経ってもなお疲労感が残っていた。力のない体と痛む四肢は彼に消耗感を与えた。

　まだ体魔法が消えておらず、初めて体の限界を感じた。しかし彼の中では、休息は最後の汗が出るまで必要ないという考えがあり、父から教わったことの一部だった。今は立ち止まる時ではない。

　特に、エイフィが病気と闘っている日々は想像を絶するものだった。強い集中力で、ルイは再び注意を集中させた。

「……」

　彼の脳内に散らばっていた細い糸が徐々に集まり、縛られ、強固なロープになっていく。同時に、以前には気づかなかった周囲の微細な音に気が付き始める。それは雪が溶けて地面に落ちる音で、静かに窓を通して入ってくる。

　外では空を旋回する鳥たちが何かを探していて、遠くで鳴き声を上げる彼らが、今はルイの耳に大きな叫び声として響く。さらに、ルイの目の前には終わりのない暗闇が広がっていた。

　突然、このほぼ無光のトンネルに、蛍のようにちらつく光点が現れる。次の瞬間、ルイは白い空間にいた。

　影さえ見えないその場所で、ルイは清潔さと鮮明さの二つの新しい友達に出会った。過去2週間、彼らはルイが思考を極限まで圧縮する時だけ姿を現した。

　彼の前に広がるのは、純白の世界。他の人たちもこうなのかどうかはわからないが、父が彼にこの場所について話したことは一度もなかった。

　目を覚ます努力をしても無駄で、しばらくここから離れることはできないだろうと悟り、不思議で未知な乳白色の空間を探索することにした。何もない景色を楽しむ一方で、内心は何かで満たされていく。それが興奮なのか、はたまた理解できない安心感なのか。

　その時、果てしない白い世界に変化が現れた。ルイは何度もここに来ていたが、初めての経験だった。

　色が少しずつ浮かび上がり、結合し始め、ぼやけながらもどこか懐かしい顔が現れた。彼女は上品な雰囲気を放ち、厳かな空気が立ち上がった。

　ルイは驚いて叫んだ。

　目をパチクリとさせると、夜が訪れた野原に立っていた。遠くの空にかかる夕日が異常な速さで地平線に沈み、続いて小さな光が点々と上がり、大地の中央に立つルイに近づいてきた。

　あっという間に光に囲まれ、ルイは後ずさりして地面に倒れた。同時に轟音が鳴り響き、天からの光が舞い降り、眩しい輝きの後に、無造作にルイの側に落ちた。彼は手を伸ばして、淡い青色の輝きを放つ光点に触れようとしたが、雷が彼を阻止した。

　彼は急いで手を引っ込めたが、予想外に痛みは感じられなかった。

（僕は眠っているのか？）

　ルイは手のひらを見つめた。長年川から水を汲んできた結果、そのしわがはっきりと刻まれていた。

（ここは夢の中なのか？）

　そう仮定したルイの身に、わずかな雷鳴がまとわりつく。肌に触れる微かな熱さは、まるで棘のある薔薇がそっと肌を撫でるようだった。

　驚きの声はすぐに巻き起こる旋風に混ざり、無数の光点を巻き込んで、中央に立つルイに向かって輝きを放った。目に見えない暗闇が降りてきた。

（ここはどこだろう。）

　沈黙の後、ルイの胸には突然、見知らぬ暖かさが広がった。胸を撫でると、手を上げてみると、手のひらで微かな光が点滅していた。それは躍る炎のようで、まるで手が燃えているかのようだった。

　次の瞬間、指の間から光が伸び、炎が降り注ぎ、その暖かさが猛烈な火に飲み込まれそうだった。熱い息がルイを焦がし、再び田野が彼の前に現れたが、今度は周りが火の海に沈んでいた。

　ルイは悲鳴を上げ、自分に迫る猛炎を避けようと目を閉じた。目を開けると、視界には焼け残った灰だけが残っていた。

「——」

　瞬きの間に、彼は部屋に戻った。いつもの家具、壁や窓には多くの亀裂があったが、家具は古くても倒れた形跡はなく、焼けた痕跡もどこにもなかった。

「さっきのは一体何だったんだ……？」

　ルイは息遣いと胸の上下が一致しないまま、ベッドから床へと転がり落ちた。制御できない弱った体で、彼は口を大きく開けてもっと空気を得ようとした。

　周りに隠れているものをかすかに感じ取れた。それが体が欲しているもの、魔力だろうと彼は思った。

　しかし、暗い部屋には魔力の気配はなく、ルイを取り囲むわずかな光だけが地面をほのかに照らしていた。

　火の光に飲み込まれた瞬間を思い出し、震えが彼を襲った。汗で濡れた服を触り、湿った布地の下で、青い光がかすかに揺れていた。

（これが魔力との触れ合いか……？）

　彼は自身の体が火に焼かれる感覚を思い出し、恐怖に震えた。その時、彼は何か重要なことを悟ったような気がした。魔力はただのエネルギー源ではなく、もっと深い何か、生命そのものと密接に結びついているように感じられた。

　部屋の中で、ルイは再び立ち上がろうとしたが、まだ力が入らない。彼は床に横たわり、自分の体に起こった変化を理解しようとした。魔力との一体感、それはただの力ではなく、生きるための根源的な何かだった。

（これが、父が言っていたことか……）

　彼は深く呼吸を繰り返し、心を落ち着かせた。そして、再び目を閉じ、魔力との調和を試みた。ゆっくりと息を吸い込み、それを吐き出す。その度に、彼の周りの空気が変わり、魔力の流れがより明確に感じられた。

　少しずつ、彼の体に力が戻り始めた。ルイは自分の体が魔力に反応し、それによって強くなっていることを感じた。その力はただの物理的なものではなく、精神的なものでもあった。彼は自分の中に新たな可能性を見いだし、それによってこれまでの孤独や不安が少しずつ薄れていった。

（僕はもう……魔力がいる。それが僕を強くする。）

　静かな夜、ルイは魔力との調和を深め、自分の内なる力を確かめた。そして、新たな一日が始まる準備をしながら、魔力の力を身につけ、これからの未来に向かって歩み始めた。彼にはまだ知らない世界が広がっていたが、その一歩一歩を踏み出す勇気が、今は彼の中にあった。