第4話
ゲイルは目を閉じ、呼吸が落ち着く瞬間を待った。光が再び隙間を通って来た時、嵐蛇は消えていた。
一番前線の仲間まだ生きているか戦い続いているか、ゲイルは後ろの将軍たちを見て言った。
「彼らが今すぐここに攻めてくることはないだろう、少し休もう。」
解放されなさそうな将校たちは、部屋の隅に身を寄せて眠りについた。やがて部屋には鼾の音だけが響く。ゲイルはひとりで臥床のそばに座り続け、目をこらして暗がりを見つめた。彼も睡眠が必要なのに、周囲の人々と同じく、彼は目を閉じずに指をたたいていた。
彼はこの瞬間、唯一目を覚ましている人だった。寒さがボランダ二の体を侵さないよう、彼は自分の胸で魔力を燃やし、微かな光を胸元に灯し続けた。そしてその温かさを彼に分け与えようとした。
予期せぬ弱さに、ゲイルは笑った。半分の山を破壊できる人がこんな日を迎えるとは誰も思わなかった。ポランダニと共に大陸半分を征服した彼が、ある日、膝を土につける日が来るとは。
しばらくの時間が経ち、ゲイルを伴っていたのは部屋の人々と続く長い静けさのみだった。彼の独り言が沈黙の中で反響し、闇の中で出口を探しているかのようだった。
「......」
ボランダ二が目覚めたようだ。ゲイルはボランダ二の臥床のそばに腰を下ろし、彼の目の中の感情を探るゲイル。その瞳は、炎のように燃え盛る情熱を宿していた。だが、その表情は青白く、口角がわずかに上がっている。黄ばんだ歯が唇の隙間から覗いていた。いつから彼は外の景色を見ていなかったのだろうか。
ボランダ二は震える腕を持ち上げ、ゲイルの身体を撫でようとしたが、光が遮られて手探りになった。それを察知したゲイルは、彼に近づいた。
ゲイルは指先から火花を散らし、ふたりの間で舞うようにした。弱々しい光が一瞬で部屋の半分を照らし、彼は疲れと戦いの痛みに耐えながら、それを無視することを選んだ。
弱い......陛下の脈が弱い、弱きる。
「久しぶりにこんなに疲れたな、ゲイル」とボランダ二はふるえて言った。
「これが終わったら、しっかり休むんだよ......君が倒れるのは、決して見たくないからね」とボランダ二はかすれた声で言い、強引に笑みを浮かべた。
「はい、陛下。」とゲイルは答えた。彼は自分が精力と体力を多く消耗していることを認めざるを得なかった。この人の前では何も隠せない。彼はボランダ二の手を握り、微かな魔力を注ぎ込んで、彼に温もりを与えようとした。
長い間迷っていたが、ついに話すことにした。
「申し訳ない......陛下、最後の数年で、現実は変えられないと悟った、俺には何もできない......」ゲイルの言葉には無力感と後悔が滲み出ていた。
ほんの弱々しいが急な呼吸の音が、部屋の静けさを破った。ゲイルは、その沈黙を支配するのが自分の心臓の鼓動だと思っていたが、その呼吸が自分自身から出ているわけではないことに気づいた。
「いや、ゲイル。」ボランダ二の声が突然空気を震わせた。
まるで遠く夢の中から目覚めたかのようで、その声にはある種の脆さがあった。
ゲイルは驚いて振り向いた。ボランダ二の目がわずかに開き、わずかな生気が見えた。彼は苦笑いを浮かべ、再びゲイルと目を合わせた。
「それでもあなたは私のために多くの問題を解決してくれた、特にあの反乱は本当に困らせてくれた。」ボランダ二は一瞬停止し、彼の声は冷たい部屋の中でゆっくりと消えていった。
「それでも私たちは多くの戦いを乗り越え、今日のケールドを築いた。」
言葉を終えると、ボランダ二はすべての力を使い果たしたかのように見え、彼の呼吸は急で浅くなった。弱々しい咳が続き、それは突然の目覚めに抗議しているかのようだった。夕暮れの鐘の音が彼の咳とともに夜に溶け込んだ。
薄暗い光の中で、ボランダ二はついにゲイルの手を見つけた。彼は優しく、力なくそれを撫でた。そして、力を振り絞って部屋の後ろにいる将校に目を向けた。彼の眼差しには、成長した子供を見るような深いため息がこもっていた。
ケールドの不屈の象徴として、ボランダ二は今や燃え尽きたろうそくのように、次のそよ風が彼らを消し去るのを静かに待っていた。
「他人を責めることはできない、すべてのものがあなたの支配下にあるわけではない。」
ボランダ二は口を開こうとしたが、どんな一言もゲイルをさらに深い自責の念に突き落とすかもしれないと知っていた。
こんな絶望的な時に、どんな感情の表現もすべての人の意志に影響を与えるかもしれない。
「あの年......イノシュが北から攻めてきた時、私たちはディオンリスを守った。後で私は城壁に立ち、ケールドが最終的にどのような国家になるのか、今日、どうして今の姿になったのかを考えた。」ボランダ二は静かに言った。
彼の口調には虚弱さと疲れが満ちていた。
「実はね、ゲイル、それは始めに未加工の宝石を見つけたからだ。私にとっては、私の選択に間違いはなかった。あなたは私の人生で唯一の後悔のない決断だ。あなたの助けで、ケールドは最も繁栄した王国になった。」
ボランダ二はゲイルに説明しようとし、彼が一人で全責任を背負わないよう願った。しかし、その言葉にゲイルは沈黙した。
「なぜ、今回の反乱が……なぜ人々は俺らを選ばなかったのか?」ゲイルはためらいながら言った。
彼はボランダ二の目を見つめ、答えを探したが、深い闇が次々と頭をもたげる考えを覆い隠した。彼はもう一度、時間のあるボランダ二の前でこの問題を提起したくなかったが、彼の心の奥底では、長い間自分を悩ませてきたこの問題の答えを得たいと切望していた。これが最後の機会かもしれない、彼は話さなければならなかった。
「ゲイル。」
ボランダ二はゲイルの苦悩に気づいたらしい。彼は優しく呼びかけた。
「神話戦争の時代に、人々が強大な血魔法の能力を持つ魔法士に従いたがる理由を知っていますか?戦争が終わり、小さな衝突しか残っていないにもかかわらず、最終的にはその人々が高い地位に押し上げられ、さらには権力を握ったのです。」
「それは彼らがディオンリスの子孫だからだけではないことだ。」ボランダ二は言った。
ゲイルはボランダ二の言葉を思い巡らせた。彼は相手の言葉の間で答えを探した。彼らは揺るぎない力を持っているのか?いや、私たちも今はそうだ。でもなぜ彼ら、なぜ私たちと同じ血魔法を持つ彼らが、人々に追われ、私たちがケールドを栄華に導いたにもかかわらず......
(不安定な時代に、なぜ......)
ゲイルの心臓の鼓動が彼の中で打たれ、彼の思考を乱した。同時に、冷たい汗が彼の額を伝い落ち続け、彼の眉は既に一つに結ばれていた。
ゲイルは突然息を呑んだ。彼は答えを得たようだ。
「それは、当時の人々が彼らを必要としていたからだ......」彼はゆっくりと口を開いた。
ポランダニは頷き、笑みを浮かべて再びゲイルの手を握った。
「当時の人々は魔法士を必要としていたんだ。彼らの能力が必要だったし、血魔法を得た者は、保護を与えることができた。戦火が大陸を荒らす中、人々はまず生存を求め、次に生活を求めた。だから、人々は強い者に従っただけだ。」
「しかし今、ケールドは戦争なしで大陸の強者の地位を維持できるほど強大になった。当然のことながら、武勇だけの魔法士たちは、世人の目から離れる時が来たんだ。」
ポランダニはそう言い、胸元に淡い光が浮かんだ。それは蛍火のように澄んでいて、衣服の下で静かに揺れている。
「魔法士の圧倒的な力の前では、凡人は単なる虫けらに過ぎない。そして彼らも、私たちの戦った姿を知っている。すべてを破壊できる怪物として恐れて、人々はいつも口を開けず、いや…十分な勇気がなかった。だから上位者も民の要求を知らず、次第に底層の民は私たちから遠ざかっていったんだ。」ポランダニは言った。
「もちろん、私も人々との壁を壊そうと試みたことがある。」ポランダニは獰猛な表情で首を振り、ため息をついた。窓外の夜空を見つめるゲイルに気づき、続ける。
「だけと今、ゲイルに匹敵する力を持つ者が、全ての虫けらを率いて立ち上がったんだ。」
「人は貪欲な生き物だ…彼らは常に持っているものを忘れがちだ。」
「しかし私は思う、俺たちは淘汰されるべきではない。ケールドは常に前進しているんだから。」ゲイルは眉をひそめて言った。
ポランダニは微笑んだ。
「私もそう思っていた。でも......この間見た人々はそうは思っていないようだ......」
彼はこの日々見てきた光景を回想した。
街に出た大部分の人々は灰色の顔をしていた。ディオンリスの大通りを行き交う人々とは対照的に、突然路地から現れる民衆は、ポランダニがかつて見たことのない顔だった。まるで彼らは存在しなかったかのようだ。
その中には新興貴族もいた。彼らは家族が魔法士学院を卒業したことで生まれたが、ほとんどは魔法士院の管轄下にはなく、大半はケールドの傭兵団だった。彼らの中には独立した個体もおり、ディオンリス内の平民に尊敬されるエリートだった。革命期間中、彼らは宮殿の近衛軍と対立したのだ。
「ゲイル......あなたは知っている……べきだ。本来達成不可能な目標であっても、状況が成功を許さなくても……あなたはそれの存在を信じて選んだんだ。」ポランダニの声が徐々に弱くなり、深く息を吐く。
「自分を信じて……ケールドを信じて……」
声は耳に届かない音で、ゲイルは急いで前に寄りかかった。
キラキラと輝くポランダニの目から、彼は永遠に消えることはないとゲイルに告げるようだった。
時間は砂時計の残りの砂のように流れ、最後の一粒が血の色の砂丘に落ちるまで。
俺たちはただの魔法士ではない、俺もただのゲイルではない。人々は俺を血魔と呼ぶ。
「陛下。」ゲイルは叫ぶ。
ポランダニは力を込めてゲイルの手を握り、話を遮る。手のひらから心の中で共に戦えない悲しみを伝え、ゲイルの心に冷たさが走る。一方でポランダニの手は、ゲイルの手から逃れようとしているようだった。
ポランダニは息若く呼吸し、青ざめた顔が再び動く。頬を流れる二筋の涙が、彼の枯れた皮膚の下にある不屈の魂を示していた。
「――」
絶望が醸造される中、ゲイルの顔に現れたのは、まるで明るい月のようなもの。それがポランダニが望んでいたものだった。
「ゲイル......ありがとう......」彼は弱々しく口を開き、塵だらけの顔が動き、心に隠された怒りと苦痛が一瞬にして隠された。
深い息吹はポランダニから来ており、ゲイルの手の中で曲がった指はもう動かない。
ゲイルは自分の魔力がもはやポランダニの体に注入できないことに気づき、静かに目を閉じ、言葉を吐き出し、最後の言葉は風塵がポランダニの顔を撫でるように消えた。
大陸征服の画像が重い脳を横切る。それは栄光の日々で、この日が来るとは信じられなかった。導き手であるポランダニは、今や永遠に目を閉じている。
「陛下が去った。」ゲイルは立ち上がって言った。
悲しみが一面に広がり、行き場のない人々にとっては致命的な傷だ。将校たちは意識も止まり、今はただ大声で叫び、全力を尽くし、怒りの叫び声を上げたいだけだった。
沈黙が部屋を満たし、人々の顔に暗い影がかかった。
ゲイルは起き上がり、ベッドの上のしわを平らにし、ベッドに一礼し、次に窓の外、火の光で赤く染まった夜空をじっと見た。
「......」
将校たちの顎から汗が滴り落ちた。
膝をつくまでは、もう二度と頭を下げてはならない。
ゲイルは誓う。これはケールドの王と彼のエイフィだけが成し遂げたことだった。
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